中村隼人「自分の全てのものを出し切る」 演出・松本幸四郎 主演舞台への思い
■中村隼人、2024年に『新春浅草歌舞伎』を卒業 新作で歌舞伎座の主演に
――新作歌舞伎『大富豪同心』を上演すると聞いた時の心境はいかがでしたか?
隼人:率直にびっくりしましたね。やはり1月というのは、歌舞伎においても非常に盛り上がる月ですし。また僕自身は、1月は『(新春)浅草歌舞伎』に約10年ほど出させていただいていたので、年越し年明けはずっと浅草で過ごしていたなかで。でも、やはり幸四郎お兄さんが演出に入ってくださると聞いて、本当に心強いなという思いでしたね。
幸四郎:やっぱりできる時が来たっていうのは、隼人くんの今、のりきっている時だからこそ、ということもあります。また作品の楽しさや人と人がつながり合っているドラマですので、そういうものをお正月に、と自然とそうなったのではないかと。『大富豪同心』が歌舞伎化されるというのは、なんか必然的な感じがしますね。
――隼人さんは今回、新作歌舞伎での歌舞伎座主演となりますが、気持ちの変化はありますか?
隼人:1月、歌舞伎座で、しかも夜切れ、夜の最後の作品に出させていただけるっていうのは本当に光栄なことですし、この『大富豪同心』という作品が持っている力だなと思っているので、とにかく今、自分が持っている全てのものを出し切って上演するしかないなと思っていますね。
――幸四郎さんによる演出はいかがですか?
隼人:1つ面白いなと思うのは、演出をなさる方って意外と役者経験はあるけれど現役じゃなかったり…。でも(幸四郎)お兄さんの場合は、演出もしながら歌舞伎の舞台に出る。多分こうやりたいんだろうなっていうことを分かってくださっているので、すごくすんなり役に臨めるかなと思いますね。
――舞台に立つ時、演出として入る時の違いは何でしょうか?
幸四郎:演出はやっぱり全体を見るということだと思いますね。一つの場面を作ったとしても、全体としてどうなのか、ということを見る、ふかんした目が常に必要だと思っています。演じるとなれば、自分の世界になってはいけないですけど、“その役が誰よりも好きだ”と思ってやるので、そこは意識して切り替えないと難しいことだなと思いますね。
――演出における難しさはどういうところにありますか?
幸四郎:決断力ですかね。自分が考えついたことって、やっぱり頼りないんですよね。これで良かったのかなっていう…。一歩を踏み出す前のところまで戻ってしまうことが多いですけど。でもこれがいいんだと信じるとか、一つ一つ決断する瞬発的な決断力が必要だなって思いますね。
■松本幸四郎「夢見ていたらずっと夢」 一つでも形に
――隼人さんから見る、演出家としての幸四郎さんはどのように映っていますか?
隼人:とにかくアイデアがたくさんある先輩だなと。どこからそこを思いついたんだろうというようなものはすごく感じますね。
幸四郎:それはもうプレッシャーしかないです(笑) 自分も出ますけど、“荒海ノ三右衛門(幸四郎が演じる役)はこういうキャラクターにする”というのを幸四郎にできるかな?っていうような感じで作ったり、この役者さんであるならばこれも面白いんじゃないかなと考えたりもしますね。
――幸四郎さんから見る隼人さんの姿はいかがですか?
幸四郎:それこそはんなりとした感じがしますけど、意外と頑固かもしれないとかね。信じたものはブレずに進んでいける、そういう強さを持っているなと思いますね。
隼人:(演出家としての幸四郎さんを見て)もちろん憧れはありますけど、まだ自分で演出をやろうっていうのは考えていないです。今は役者として引き出しを増やすのと、演出の引き出しを増やす。色々な作品を見て「これは歌舞伎でできないかな」とか、そういうのは結構考えますね。
――幸四郎さんが演出をやろうと思ったきっかけは何でしたか?
幸四郎:自分のやりたい世界、作品が思い浮かぶわけじゃないですか。憧れだったり、夢だったりというような次元で。それを一つでも形にしていかないと、ずっと夢見ていたらずっと夢なので。デモテープといいますか、“自分はこういうものを作りたいと思っていたんです”というものを作るためには、自分で書いて、作って、やって…ということが手っ取り早いかなと思っていたのが作るきっかけだったりしますね。
■中村隼人、この舞台は「長距離走の練習をしておかないと」
1月2日~26日まで歌舞伎座の舞台に立つ、幸四郎さんと隼人さん。2人に新作歌舞伎『大富豪同心』の注目ポイントを伺いました。
――早替わりの回数が多いと伺いましたが?
幸四郎:(歌舞伎の演目で)よくあるのは、二役早替わりと考えると5回やったら多いんじゃないですかね…。(今回は)11回ですね。
隼人:そんなに長い作品じゃないにもかかわらず、11回変わるというのは…本当にだから僕は長距離走の練習をしておかないと(笑) 着替えて、出て、しゃべって、引っ込んで、また出てしゃべってということになるので。
幸四郎:(顔が似た人の早替わりは)ないですよね?
隼人:早替わりする意味がないですよね(笑)
幸四郎:驚かない! 別人になって出てくるから驚くのに。
■市來アナの取材後記 「偉大な先輩を追い続ける、次世代の姿!」
幸四郎さんは新橋演舞場、隼人さんは京都・南座での公演期間中と、とても忙しい中インタビューを受けてくださった2人。
壁にぶつかった時も“向いている・向いていないを考えるのではなくて、好きでどこまでやれるかを思ってやっている”という幸四郎さん。
そんな先輩の姿に、“ここまでパワフルだと後輩は困りますよね(笑)”と本音をこぼす隼人さんでしたが、“自分が壁にぶつかった時も、このような先輩の姿を見ると自然と頑張れる”と話し、幸四郎さんに対して本当に強い信頼を置いているのが印象的でした。
役者同士としてだけではなく、演出・主演として、お二人がどのような化学反応を見せるのか注目です!
【市來玲奈の歌舞伎・花笑み】
「花笑み」は、花が咲く、蕾(つぼみ)がほころぶこと。また、花が咲いたような笑顔や微笑みを表す言葉です。歌舞伎の華やかな魅力にとりつかれた市來玲奈アナウンサーが、役者のインタビューや舞台裏の取材で迫るWEBオリジナル企画です。