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元宝塚トップ・朝夏まなと「青春していました」仲間と夢を語り……在団時代を振り返る――セリから落ちるハプニングも

2023年10月20日 20:00
元宝塚トップ・朝夏まなと「青春していました」仲間と夢を語り……在団時代を振り返る――セリから落ちるハプニングも
元宝塚歌劇団・宙組トップスターの朝夏まなとさん。2017年の退団後も数々の舞台で主演を務める。改めて宝塚自体を振り返ってもらうと、ターニングポイントになった作品として『翼ある人びと』と『エリザベート』をあげた。宙組時代の仲間、愛月ひかるさんからのメッセージも…。日本テレビ屈指の宝塚ファン、安藤翔(妻が元タカラジェンヌ)が聞いた。

<朝夏まなとさんプロフィール>
佐賀県出身。9月15日生まれ。2002年に88期生として入団。花組を経て2015年、宙組トップスターに就任。172センチの長身から繰り出すダイナミックなダンスや伸びやかな歌声でファンを魅了。2017年の退団後は数々の舞台で主演を務める。

■ターニングポイントの2作品

――花組と宙組で16年にわたり活躍されましたが、ターニングポイントになった作品は?

それぞれに思い入れはあるのですが、『翼ある人びと』と『エリザベート』ですかね。『翼ある人びと』は自分の中でお芝居にすごく向き合った作品なんです。それまでは結構、背伸びをする役が多かったんです。大人っぽい役が多く、自分とかけ離れすぎていて演じていて実感が湧くということが少なかった。

この作品でヨハネス・ブラームスという役に出会ったときに、自分の内面から思いがあふれてきた経験は衝撃的でした。もちろん上田久美子先生の繊細な演出と脚本がありきなんですけれども、その後の自分のお芝居に対する向き合い方は全く変わりました。ひたすら芝居って楽しいなと思えた作品ですね。

――『エリザベート』には2度、出演されています。

最初は花組で、(トップが)春野寿美礼さんの時に初めてセリフをいただきました。ミルクのシーンで「病人がいるんだ」と。その当時は今思うと何も考えてなくて。エリザベートという作品のすごさも分かっていなかった

そこから(宙組の)トップになってまたこの作品に出会えた時に「こんなに深い作品だったんだ」と改めて思いました。歴代たくさんのトート役の方がいて皆さん違う個性がある。「自分のトートって何だろう?」と向き合った作品でもありました。

ちょうどこの公演の時に「もう卒業しようかな」と決めたのかな。(決めた瞬間は)記憶が定かではないけれど、(退団を決める時に)「鐘が鳴る」とよく言うじゃないですか。それはなかったです。「これを乗り越えたら宝塚を満喫できたのかな」と。

やはり大作なので、もちろん自分のこともそうですけど組全体として、作品にみんなが向き合っている姿勢、そこから成長していく過程を見ていて、頼もしいなと思えたんですね。

■セリから落ちた!?

――舞台立っている時のハプニングなどはありますか。

退団公演だった『神々の土地』と『クラシカル ビジュー』の両方でハプニングが同じ日にあったんです。

『神々の土地』では男役が大階段に板ついて幕が上がっていくシーンで、幕が大階段の端っこに引っかかったのか、上がらなくて。止まったんですね。男役は後ろの階段にずらっと板ついているので『どうする?』みたいな緊張感があって。

私はもうどうしようもできないので、とりあえず直立して目の前をじっと見据えて『みんな動かなくて大丈夫』というオーラを出しながら。こういうときにどうしたら一番いいのかと頭がぐるぐると回転していたところ、緞帳が降りてきて、そこからまた立て直していったということがありました。

――同じ日に『クラシカル ビジュー』でもハプニングがあったと。

そうなんです。なんでそうなったのか自分でもわからないんですけど、セリから落ちてしまって。中詰めの金の衣装を着ている時だったんですけど、足をバっと後ろに引いた時にあるはずのセリがない。気づいたら横に床に寝ている形になっていました。でも曲は流れているし、若干悲鳴みたいな声も聞こえる。

どうしようと思っていたんですけど、もう本能的にセリをよじ登って前に出て踊っていました。落ちた経験はその一回だけですね。びっくりしました。踊っている間に右肩がすごく痛くなってきて、『あ、やっぱり落ちたんだ』と。

本当に(落ちた)自覚がなくて。ちゃんと初心を忘れずにやらないとなと改めて思いましたね。慣れちゃいけない。

■愛月ひかるさんからのコメントも

――朝夏さんをよく知る(元宙組の)愛月ひかるさんに聞きました。

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(朝夏さんの魅力は?)ダンス、歌、芝居、すべてが素敵なのですが、特にお芝居をしている時の雰囲気が大好きです。

(今だから話せる朝夏さんとの裏話は?)宙組で一緒だった時、ご飯をご一緒させていただいたり、我が家に来てお鍋をしたり。お互いに好きなお酒を飲みながら色々お話をさせていただき
ました。
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うれしいです。愛ちゃん(愛月さん)もお芝居がすごく好きな子だし。芝居って正解がない分、本当に好みだなと思っていて。それを特に一緒にやっていた人からそう言ってもらえるのは
無条件にうれしいなと思いました。

最後は『神々の土地』をやった時に、ラスプーチンの役が愛ちゃんでした。私は芝居についてディスカッションをそんなにしない方なんです。お互い持ってきたものを稽古で出し合って、というタイプ。愛ちゃんもそのタイプで、ほとんどラスプーチンとの芝居は何のディスカッションもしてないのに、あれだけの濃いシーン、2人だけの立ち回り(ができる)。

(立ち回りは)毎回、本気で来るので。毎回こっちも本気で行くというようなことをやっていましたね。言葉がない、一番究極の芝居というか、そういうやりとりは愛ちゃんだったからできたことなんだなと今でも思います。普段、ほんわかして可愛い子なのに、あそこまで豹変できるというのは、お互い芝居が好きだから。愛ちゃんは、役者同士がぶつけ合うということ持っている子だったので、やっていて楽しかったですね。

愛ちゃんともよく一緒にお酒を飲んでいました。やっぱり男役として、という話が多かったかもしれないですね。今後どうやっていきたいかとか、どうなりたいとか、夢を語る場でもあったかなと思います。熱いですね。青春していましたね。

――宝塚で学んだことで、今一番生きていることはなんでしょうか?

「気づくこと」です。例えばお芝居をしていて、相手役がこうした方がやりやすいのかなと気づくこともそうですし、普段生活してる上でもいま話しかけた方がいいのかなとか、察知すること。「気」という漢字が結構、自分の中で大事かもしれないと、この質問をいただいた時に思いました。

――トップに立たれた時の気配り、目配り。外部の舞台も立たれていますが、やはり生きてますか?

生きていますね。「気づくこと」は、ミスを防いだりアクシデントを防いだり。物事をうまく進める上で大事なのかなと思います。

(『アプレジェンヌ〜日テレ大劇場へようこそ〜(寿つかさ編)』より抜粋・再構成)

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アプレジェンヌ』は日テレNEWS24制作のシリーズ企画。元タカラジェンヌをお招きし、日本テレビで熱烈な宝塚ファン、安藤翔(妻が元タカラジェンヌ)、中島芽生(宝塚音楽学校を4回受験)の2人が、ゲストの宝塚時代・退団後の生き方に迫ります。