“言葉を届けるプロ” 藤井貴彦アナ 正しく伝えるための「一晩寝かせる」大切さ
■「発言はファッションと同じ」 “言葉のプロ”の考え方
『news every.』で日々多くの情報を伝えている藤井アナは「自分が発した内容が正確に届くかを“先回り”して発言すること」を大切にしているといいます。「池に石を投げて、その波紋がどう広がっていくかを、石を投げる前に想像するんです。記者が一生懸命書いてくれた原稿を見て、“これは2方向、3方向にも捉えられるリスクがある” “誤解を生む可能性がある”と思うものについては、必ず記者やデスクと会話をします。私の発言は、アドリブのようであっても、準備されたアドリブであることが自分の中の鉄則です」とこだわりを明かしました。
また「発言とファッションは同じ」という持論がある藤井アナ。「ステキな服を着ている人はステキに見えるし、ステキな言葉を駆使できる人はステキに見える。ワイルドな服を着ている人はワイルドに見える。でもワイルドな言葉しか発さない人は、距離を置きたくなってしまいますよね。距離の決め方は、言葉が全てを担っていると私は思います」と、言葉のプロならではの考え方を明かしました。
■コロナ禍に送り続けたメッセージ 生み出すまでの裏側は
新型コロナの感染が広がり始め、人々が不安や不満を抱えながら過ごしていた時期には、毎日のように視聴者へメッセージを送り続けました。その言葉をどう紡いでいたか聞くと「常備菜のように、届けたい言葉を日々スマートフォンにストックしていました。その中から、その日のニュースに合う言葉をいくつか選んで、並べ替えたり言い方を変えたり、ぐちゃぐちゃに悩んで、放送の3分前にやっと原稿が書きあがる、というのを毎日繰り返していましたね」と当時を振り返ります。
さらに「あの頃は、夜中にパッと目が覚めて“こう言い換えると伝わるかもしれない”というフレーズが思いつくことがあって、すぐにスマホにメモしてまた寝る…ということもありましたね」と、届ける言葉を常に考えていたという藤井アナは、その真意が届いているか確認するためにエゴサーチをすることも。「私の人格を否定するようなコメントも多く目にしましたが、中には“この視点が足りていない”という貴重な指摘もあって、確かにそうだ…と感じることもありました。砂をふるいにかけて砂金を見つけるように、そういう“金の粒”を見つけては、次のコメントのための常備菜にしていましたね」と、SNSの声からヒントや刺激をもらっていたといいます。
■「一晩寝かせる」ことで伝わる、後輩たちへのアドバイス
『news every.』に一緒に出演する後輩アナウンサーたちに伝える言葉も、時間をかけて考えているといいます。スタジオには常にノートを置いていて、放送中でも気になることがあればメモを取っている藤井アナですが「思いついたことをすぐに伝えるのではなくて、1回ノートに書いて、一晩寝かせて、翌日見て、その時にまだこのアドバイスがフィットするな、と思ったら伝える」というマイルールがあるそうです。その理由を聞いてみると「自分の中の心拍数を整えてから相手に伝えないと、誤解を生んだり、相手を傷つけたりする可能性もありますから」と気遣いを見せました。
また、後輩たちの世代によって受け止め方が違うと感じているそうで「昔のように“大人と子供”という単純な構図ではなくて、“Z世代” や “ゆとり世代” などの色々な細い層がミルフィーユのように重なっている。相手がどの層なのかを考えないと、アドバイスに全く効果がないんです。寝かせて、考えて、伝える、だから時間はかかります。でも寝かせて良かったなと思うことが8割です」と、アナウンサー歴28年のベテランは語ります。
■SNSリテラシーを上げるために、1人1人に考えてほしいこと
「私は誹謗中傷への抗体ができあがっていますが、これが例えば、学校の同級生からの酷い投稿だったなら…と思うと普通の人は耐えられないですよね。いいねの数が伸びたら、批判やデマを投稿した本人はうれしいでしょうけど、その何十倍もつらい思いをする人がいる。自分の楽しさや喜びのためだけに誰かを不幸にする仕組みがあると知ってほしいです。良かれと思って正義感で情報を拡散する人もいるし、そんな気持ちの人が95%かもしれない。でも5%の愉快犯がいることも事実で、その見分け方もしっかり学んでもらいたいです」と呼びかけました。