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「路頭に迷っていた」元宝塚の著者が9人の元タカラジェンヌに取材して見えたセカンドキャリア――早花まこさんインタビュー

2023年3月3日 19:00
「路頭に迷っていた」元宝塚の著者が9人の元タカラジェンヌに取材して見えたセカンドキャリア――早花まこさんインタビュー
宝塚歌劇団・雪組娘役の早花まこさんは退団直後、「路頭に迷っていた」と語る。若くして宝塚に入り舞台の世界に没頭する毎日。そして訪れる卒業後の人生をどう生きるのか――。そんな早花さんが9人の元タカラジェンヌに取材した書籍『すみれの花、また咲く頃 タカラジェンヌのセカンドキャリア』(新潮社)が3月1日、刊行された。早花さんに熱烈な宝塚ファンの中島芽生アナウンサーが執筆の経緯や同期への思いまで、たっぷり聞いた。

■「余生」を過ごす気持ちからの変化

<早花さんは、2002年に入団し、2020年の退団まで雪組に所属した。本書に収録されたのは、元雪組トップスターの早霧せいなさんや元花組トップ娘役の仙名彩世さん、元雪組トップ娘役の咲妃みゆさんなど舞台の一線で活躍するスターのほか、退団後に進学し医療の道へ進んだ鳳真由さん、ベトナムで日本語学校に勤務後、技能実習生の育成支援に携わる香綾しずるさんなどの多彩な9人。宝塚で同じ時間を過ごした早花さんが、在団時の秘話から卒業後のそれぞれの挑戦まで、丁寧に聞き取っている。>

――セカンドキャリアというテーマでお話を聞こうと思ったのはなぜなのでしょう。

私が退団直後で路頭に迷っていたからです。それは路頭に迷いますよ。宝塚は中学生から高校生で入って、そこからまっしぐらにずっと走り続けていく世界。もちろん舞台をやりながらそれ以外の勉強をしたり、他の世界に視野を広げたりする人もいますが、でもやはり世間知らずといいますか分からないまま(卒業する)。いつかは絶対にみんな卒業するので、その後、どうやっていくのかはとても大きな壁だと思います。

と、思いきや卒業された皆さんはどんな方もなんだかんだ、パワフルに歩んでいらっしゃる。自分は卒業してどうしようと思った時にヒントをいただいたのが、皆さんのお言葉でした。自分がいよいよセカンドキャリアを迎えた時に、そのテーマでお話を聞いてみたいと思ったことがきっかけです。

――書籍の中で「余生」を過ごすぐらいの気持ちと書かれていました。9人へのインタビューを終えた後に気持ちの変化はありましたか。

すごく変わりましたね。宝塚しか見ていなかった視野の狭さ。辞めてからも何もやることもないと思っていましたが、この9人を見たらそんなこと言っていられないですよね。皆さん卒業前から勉強していた方、卒業時にポンと次の道が見えてまっしぐらに進んだ方、模索しながら時間をかけてたどり着いた方もいる。自分次第で、自分から進んでいかないとセカンドキャリアはやってきてくれないというところにたどり着きました。「余生」なんて何を言っていたのでしょう。それこそが世間知らずの発言だったなと今は思います。世界は自分が思っていたよりも本当に広いなと思いました。

■『歌劇』の執筆が与えた影響

――在団中には劇団の機関誌『歌劇』で連載(各組で起こった出来事などを紹介するコーナー)を担当されていましたね。

本当に大きな経験をさせていただきました。時間的にタイトな中でやっていたので大変でしたが、書かせていただけたおかげで、組のみんなと話ができたりファンの方から反響をいただけたり。贅沢な話ですけれども、月に1ページ書かせていただいて、文章を学ばせていただいたと思います。

雪組が面白かったんです。あまりにも面白いので「そんなことあるの」と半信半疑のお声もいただいたんですけれども、本当に嘘は一つもなく。むしろ面白すぎるところをちょっと抑えたり省いたりしていて。

ただ、やはり宝塚でどうしても内輪ウケというか知っている人だけ楽しいことでも伝わらないことってありますよね。そこは試行錯誤がありました。読み物としてそんなにかしこまるものではなく、季節感もあって、ホッコリしてちょっと一息ついていただける楽しいページで、なおかつ雪組の人たちの顔が見えるといいなと思っていました。

――執筆の経験が舞台の中で影響した瞬間はありましたか。

そうですね…。今回はつまらない、面白くないんじゃないかという号があって発売日には気が気じゃなかったです。それが書店に並んでファンの方が見て「すごいスベってる」と思われているんだろうなと思ったら、舞台に立ってもそれが気になっちゃった日がありました。めちゃくちゃ悪影響ですよね(笑)。

――その経験があったからこそ。

そうですよね。その苦しみがあったからこそ、これ(本)を書く力になりました

■同期の活躍に勇気づけられて

――宝塚の同期(88期)に紅ゆずるさん(元星組トップスター)や朝夏まなとさん(元宙組トップスター)などがいらっしゃいます。同期の活躍を今どう見ていますか。

同期は予科生の時から本当に個性的で、周りからもそう言われていました。伸び伸びしていましたね。いま活躍している皆さんがその根本の伸びやかさや個性を失わずに活躍している姿を見ると、とても勇気づけられます。

紅ゆずるさんは、私が卒業のときにお花を渡しに来てくれました。本当に面白かったんですよ。千秋楽も寂しさに浸る間もなく。紅さんに圧倒されて笑いながら卒業できたから彼女のおかげで良かったと思っています。多忙の中、快く来てくれて一日中、私以外の雪組の人も含めて笑わせてくれて、彼女の人柄に助けられたなと。

泣いている暇なんて無いんです。ひっきりなしに面白いし、何かを巻き起こすじゃないですか。気が付いたらもう笑いながら卒業していました。突拍子もないんだけれど、繊細さも持っている方。とても気遣いのある人で、でもそれをこれ見よがしにしない。力が抜けていて、リラックスさせてくれるけれど、見えないところで気遣ってくださる。彼女の人柄であり、絶妙なバランスで本当に支えてくれて感謝しています。

――同期の現役で唯一残っていらっしゃった光月るうさん(月組組長)が退団されますね。

光月さんのお芝居が大好きだったんです。同期というよりそれが先に来るくらい本当に好きな役者さん。男役も女役も難なくできる。主役を立てるところと自分が出るところの役割をとても緻密に作っていらっしゃるなと思っていました。基礎があるのはもちろん、どこの場面でも雰囲気をわかっていて周りも見えていて、それでいてすごく面白い。

『桜嵐記』も素晴らしかった。最初の彼女の語りで観客の方がその世界に入っていける。『グレート・ギャツビー』も良かったですね。本当に飲み込まれる感じがありました。怖いくらいに。二幕のあそこであの集中力で持っていけるのはなかなか難しいと思います。彼女の底力を感じました。

人柄で言うと、彼女はいつも余裕があった。組長として忙しかったと思うんです。新型コロナウイルスの影響を受けてからは、特に大変なこともあったと思うんですけれども、その時もいつも明るくリラックスさせてくれるところがある人でしたね。自分に余裕がある方って相手も余裕を持たせてくれますし、上級生になった時にその余裕がとても大きな力になったんだろうなと思います。

――最後まで駆け抜けていただきたいですね。

そうですね。宝塚の男役として見られなくなる寂しさもありますが、彼女こそ本当に次のステップにどんどん進んでいく方だと思うので、楽しみにしています。

■早花さんにとって「宝塚とは…」

――書籍の中で、全員に共通の質問として「宝塚とはあなたにとって何ですか」と聞かれています。

こんなにバラエティに富んだ答えをくださったのは良い意味で予想外でした。似たような言葉になることも確かにあるんですけれども、その方によって、全然意味合いが違うんですよね。お一人お一人の生き様、全てがその言葉に集約されていくなと感じました。

――早花さんにとって「宝塚とは」。

自分を作ってくれた場所で心から感謝しています。私という人間は宝塚を抜きに語れないなと改めて思う。卒業した頃は「土台」という言葉がしっくりくるなと思っていたのです。

でも(インタビューした)9人の方の言葉を聞くと、何かもっとあるんじゃないかと思い始めました。だから今の時点では本当に「土台」から1年、2年経って変化していくものなのかなと思っているところです。

――今後、どう次の道を進んでいきたいと思い描いていますか。

本を書いたことで文章の楽しさや難しさ、自分の文章の足りないところも見えてきました。文章って終わりがないですし、文章を書くことは続けていきたいと思っています。創作はとても興味がありますし、挑戦してみたいと思います。

――早花さんが原作の宝塚の舞台が見られる日が来るかもれない?

すごく遠い未来・・・。でもそう言っておきましょうね。言うのは自由ですから、そうなるように頑張りますね。

この9人の方から学んだことは「挑戦するのは自分次第」ということ。何でも自分が思ったことに挑戦できるということを私自身が教えていただいた。自分が書いているだけではなく、実践しないといけないなと思っているので、そこは挑戦していきたいと思っています。

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