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『ヒロアカ』『あな番』を作曲 林ゆうき、年間数百曲を制作する劇伴作家の仕事

2023年4月22日 22:35
『ヒロアカ』『あな番』を作曲 林ゆうき、年間数百曲を制作する劇伴作家の仕事
林ゆうきさん
アニメ『僕のヒーローアカデミア』や『ハイキュー!!』、さらにドラマ『あなたの番です』や『リーガルハイ』など、数々の有名作品の劇伴(げきばん)を手掛ける、劇伴作家・林ゆうきさん(42)にインタビュー。劇伴作家の仕事内容や、業界の第一線を走り続ける秘けつを伺いました。

■劇伴制作のきっかけは、男子新体操「ダンスに音楽をあてる作業が好きだった」

劇伴とは、アニメ・映画・ドラマなど映像の背景で流れる音楽。“サウンドトラックというとわかりやすい”と話す林さんが、劇伴作家の仕事内容や魅力、始めたきっかけを教えてくれました。

――劇伴作家を目指したきっかけを教えて下さい

男子新体操を高校から大学卒業まで7年間ぐらいやってたんです。フィギュアスケートと一緒で、伴奏曲に合わせて踊るスポーツです。普通ダンスって“曲に合わせて振り付けを作る”じゃないですか。男子新体操ってその逆で。最初音もない状態で演技を作って、(その後に)自分で曲を探してきたり、伴奏曲を作る人が曲をアレンジして作ったりする。当時はCDをレンタルしに行って色々聴いて“この曲で踊りたい”というのを選んで踊ったんですけど、自分が思うような曲がなかった時に、作ってみようかっていうことを大学の終わりくらいに始めて。そこから映像に音楽を合わせる楽しみ(を知った)というか、新体操の伴奏曲をたくさん作るようになって、もっと違う映像音楽をやりたいなって劇伴音楽の世界に進みました。

――きっかけは男子新体操だったんですね

音楽が好きで始めたとかでは全然なくて。映像とかダンスに音楽をあてる作業が好きだったんで、それの延長で作曲を始めたっていう流れです 。

――劇伴作家という仕事の魅力を教えてください

作品を印象付ける決定的なところを作っている感じがします。例えばテーブルの上にコップだけ映っているシーンで、ボサノバがかかっていたら、カフェで恋人同士が映って“今日のデートどこに行く?”みたいな話をするのかなっていうふうに見えますし。今度はそこに怖いダークな曲をかけると、取引が行われているシーンになるのかなっていうふうに、シーンの印象をすごく操れる、とても楽しいお仕事です。

■“お前しかできないことをやらないと” 業界の第一線を走る林ゆうきの原点

年間で数百曲以上もの劇伴制作のオファーを受けるという林さん。アニメにおける劇伴の制作過程や、林さんの楽曲が多くの作品から求められる理由に迫ります。

――劇伴の制作過程を教えてください

アニメの場合は最初に打ち合わせがあって、監督とかプロデューサーと「こういう作品で、こういうふうに見せたい」、「この年齢層に届いて欲しい」とか、(作品の)コンセプトを聞いて。そして、音響監督からメニュー表で「こんなふうな曲を作って下さい」と(具体的なオーダーが出る)。監督とかプロデューサーは必ずしも音楽に精通されている方が多いわけではないので、そういう人たちが「こういうのが欲しい」って言っているのを、くみ取って解釈して自分なりの味付けで曲を作って提供することが大事です。

――メニュー表には、どんなことが記載されていますか?

例えば『僕のヒーローアカデミア』のメニュー表には、“コミカル”とか“アクション”とか、(曲の)秒数とか、(作ってほしい曲の)内容について書かれてるんです。音響監督によって書き方が全然違って、僕みたいに割と詳細にくださいっていう人には、詳細に書くといわれてますし、“魂”とか“愛”とか一文字だけ書かれている時もある。作家によって色々変えられていると思います。

――林さんの曲には、“これは林さんの曲”という特徴を感じます。楽曲に個性を出すことは意識されていますか?

悩んでいた時、先輩作家さんに「お前より若くて安い値段でやるやつなんかこの先いくらでも出てくるんだから、お前しかできないことをやらないとだめだよ。そういう人たちがいま全員残ってるんだから」って言われて。そこからはあまり悩まずに、自分の信じた道というか、“これで合っている”と思ってやっています。最終的に自分が、“絶対こっちの方がいいと思った”とか、理由は分からないけど直感でそう思うという方を信じるようにしてます。(曲をオファーする人は)なにかしら(自分の音楽に)必要なものを感じてオファーしてくださっていると思うので、それを大事にした方が、“オファーしたかいがある音楽”と思ってもらえると思います。

■あまり前例のないことも「やってみればいい」 劇伴フェス開催へ 

劇伴作家として第一線で活躍する林さんは、作曲だけにとどまらず、新たな活動を続けています。29日には国立代々木競技場第二体育館で、林さんも出演する劇伴フェス『東京伴祭 -TOKYO SOUNDTRACK FESTIVAL- 2023』が開催されます。このフェスは、アニメ映像とともに、それぞれの作品の劇伴が演奏されます。

2022年9月にも、京都で劇伴フェスを開催した林さん。過去にあまり前例のない、劇伴フェスを開催しようと思ったきっかけや、魅力を伺いました。

――劇伴フェス開催に至った、きっかけを教えてください

ポップスの夏フェスみたいな、たくさんのアーティストが出ていろいろな曲を聴けるものの劇伴バージョンってなかったなと思って。夏フェスに行った人って全員(出演する)アーティストを知ってるわけではない。でも、知らなかったアーティストの曲とか、(劇伴フェスなら)知らなかった作曲家の曲を聴いて“この曲いいな、じゃあ作品見てみよう”って、知らなかった作品のファンになって。僕たちそれぞれが持っている音楽を楽しんでもらえると同時に、もっとファンの人たちがアニメを楽しんでくださるきっかけを作れるんじゃないかって思ったのが大きいですね。

――劇伴フェスでは、アニメ映像とともに劇伴を聴けるのも魅力ですね

映像と音楽が一体になった時の感動を作れるっていうのが劇伴の一番のいいところだと思うので、フェスでも見て聴いていただければ一番いいなと。

今回は林さんのほか、京都での劇伴フェス同様、アニメ『SPY×FAMILY』の劇伴などを手掛ける宮崎誠さんや、『NARUTO-ナルト-疾風伝』の劇伴を手掛ける高梨康治さんも出演します。

――前回の京都での劇伴フェスから引き続き、今回も高梨さんや宮崎さんも出演されますね

高梨さんは以前から知り合いで、世界から注目されてる作曲家さんの一人だと思うので、一緒にできたら最高だなと思ってお声がけしたら快諾してくださって。 宮崎さんも「どんなイメージか分からないけど林さんやるなら」って言っていただいて、仲間がどんどん増えていって。

――劇伴フェス開催への思いを教えてください

子供に対してよく「できないことがあったら、とりあえず、できなくてもやってみればいい」って言ってて。言ってるくせに、お父さんがやらないのはかっこ悪いなって思って、「(フェスを)やってみよう」って口に出したら、賛同して協力してくれる仲間がすごく多いことに気づいて。それで本当に形にできたってのが一番うれしいですし、ずっと続けたいっていう気持ちが一番強いです。