今、オファーが殺到している監督・藤井道人
去年、映画「新聞記者」で日本アカデミー賞の6冠に輝くなど注目監督・藤井道人さんにnews zeroがインタビュー。
綾野剛さん主演の最新作「ヤクザと家族 The Family」が公開されるなど、注目されている藤井道人監督。撮影秘話や映画制作のこだわりについて、放送でお届けできなかったエピソードも含めお伝えします。
Q:最新作「ヤクザと家族 The Family」では綾野剛さん演じる主人公・山本賢治の人生が1999年、2005年、2019年と3つの時代に分けて描かれていますが、なぜそのようにしたのでしょうか?
藤井:第3章で描かれる2019年のヤクザ、つまり暴力団排除条例が出てからのヤクザだけを描くと、この人たちは「今これだけ居場所がないんだよ」ということの問いかけで終わってしまうような気がしたんです。
ただ、僕たちが今を生きているように、その人たちにも歴史があって、どんな時代を過ごしてきたのか、栄枯盛衰をちゃんと見せないと、このストーリーは成立しないなという風に自分の中で感じたので、3章構成に思い切ってしました。
歴史を描くことによって見えた部分がたくさんありました。1章のときには、綾野さん演じる山本の居場所のなさ、そして居場所のない若者が疑似家族的なところに出会ってから、ある種異端ではあるけれどもその中で大事な人間を探す、本当の家族を探す旅に出るというか、3章になったら、それがどうなっているんだろうか、時代がどう変わったのかということが描ければいいなと思っていました。
Q:この作品について、以前あるインタビューで「これは僕たちの話だ」と発言していましたが、それはどういった思いだったのですか?
藤井:映像を作るときは“他人事”ではなくて、どう“自分事”としてこの映画を語れるかなという風には考えるんですけど、どんな時代にも、時代が進むにつれて、その社会に適応できなかったり、こぼれ落ちてしまったりしてしまう人というのは絶対に存在していて、それが自分だったら、もしくは自分に、明日なりうる姿かもしれないと思いながら、この作品の綾野剛を撮り続けたという思いがあったので、そういう風に言ったのだと思います。
Q:映画を見て、世の中の進歩が逆に人を不自由にさせてしまう事もあるのだなと改めて感じたのですが…
藤井:SNSなどで別人格をそれぞれが形成して、そこにある種の社会が生まれて、この変遷に対して、みんなが適用できるわけじゃないんですよね。ルールがまだうまく定まっていないような気もしていて、だから最近ソーシャルの色々な問題がおきて、傷つく人たちもやっぱりいるんだなというのはこの数年感じてきたことです。
映画の評価も今はすぐに届くようになっていて、そういう1個1個のものに、すごく心が動いちゃうときっていうのがあるんですよね。100の褒め言葉よりも、1つの否定的な言葉が、自分の心臓にすごく刺さることもあるし。こういうこと考える人もいるんだな、勉強になるなみたいな、そういうのありますけど、まだ僕も全然向き合い方がわかっていないです。
Q:今回の作品で、監督の想像を超えた、また印象に残っているシーンはありますか?
藤井:結構みんな“飛び超えて”くるんですよ。前回「新聞記者」でシム・ウンギョンさんに韓国の映画制作について聞いたのですが、(韓国は)日本より時間をかけて、みんなでモニターをチェックして、各部署の動きが完璧にできているかを何回もチェックして本番を撮るそうなんです。そういえばやったことがないなと思い。
今回は自分の判断だけで「はいOKって」というよりは、俳優部みんなで、モニターを見て「すごく良かったけど、もっとこういう感情ができるかもしれないから試してみよう」みたいなチャレンジをしました。すると綾野さんをはじめ、いろんな表情を表現してくださり、さらに超えてきてくれたというところが多かったです。
これは素晴らしい映画になるなと思ったのは、1章で舘さんが綾野さんに「行くところはあるのか」って頭をなでるシーンがあるんですけど、綾野さんと舘さんのお二人の芝居を見て、何か自分が救われたような気がしました。
Q:監督の作品では、いろいろな“ビジュアルテーマ”がメタファー(叙情的表現)として使用されていることが話題になりますが、その演出にはどういう狙いがありますか?
藤井:脚本家として元々は映画を勉強し始めたんですけど、映画を作るときに、言葉やセリフ、場所だけに頼らないで、映画の一番の魅力である映像で、言葉にしなくても、心象が伝わるようなもの。映像というものを入れたらどうなんだろうというのを結構前からずっと考えていて、せっかく自分がオリジナルで脚本を書かせてもらうときは、ただ決めごととして、それは全然観客の人には伝わらなくていいんですけど、自分の中では1個1個テーマを決めてトーンを決めて自分の中の1個のプライドとして、ポリシーとしてやっているだけです。
Q:「ヤクザと家族 The Family」でビジュアルテーマに“煙”を使ったのはなぜですか?
藤井: これは2012年に「けむりの街の、より善き未来は」という、ヤクザを題材にドキュメンタリーを撮る青年の話を撮影しました。その時も、生きづらさというものを煙というもので表現するというのをやったんですけども、今回商業映画としての舞台でリベンジしたいと思いました。
その時、撮影したカメラマンの今村圭佑も一緒だったので、そういう画が撮れるロケ地を選んで煙をメタファーに作品を作りました。ただ煙というと工場から出る排出物を思い浮かべると思いますが、いろんなところに煙という揺らめきはあって、家族の食卓に並ぶポタージュやポトフから出る湯気も表現したかったんです。あれも1個の煙というか、幸せの煙だなと思いました。