元宝塚トップ・珠城りょう「男役に全てをかけていた」退団後の迷いと不安、ソロコンサートで得た収穫
■珠城りょう、デュエットダンスを語る
宝塚をキーワードでひも解く「アプレジェンヌ辞典」【デュエットダンス】
男役と娘役がペアになって踊るダンス。トップコンビのデュエットダンスは公演の後半で見られることが多く、男役と娘役それぞれの美学が凝縮した「これぞ宝塚!」という美しさである。男役が娘役を持ち上げて踊る「リフト」は見せ場の一つで、息ぴったりのコンビネーションが客席を魅了してやまない。
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(安藤アナ):デュエットダンスといえば、宝塚を代表するシーンだと思います。珠城さんのリフトはやはり客席から見ていてすごいです。
私は身長が高いというのもあって、やらせていただく機会も多かったんです。この骨格でリフトできませんというのはちょっと恥ずかしいなと思っているところもありまして。私もファン時代、宝塚を見ている時に、ダイナミックなリフトがとても素敵だなと思っていたので、自分も素敵にできるようになりたいなと思っていました。
自分が音楽学校の本科生の時に、授業で振付家の羽山紀代美先生が「デュエットダンスでは男役は相手役さんをきれいに見せることを常に意識して踊りなさい。そうしたら自然と自分も素敵に見えるから」とおっしゃったことが私は忘れられなくて、とても印象的だったんです。
その言葉がずっと自分の頭の中に残っていて、入団してからペアダンス、デュエットダンスをやらせていただく時は常にそれを意識していました。例えば、体を反らせたりとかする時にも、どうやったら女役さんをきれいな角度で反らせられるか。女役さんの形がきれいに見えるか。反っているその形を見せるのは女役さんで、男役はあくまでサポートじゃないですか。だからそこで女役さんが素敵に見えていないとお互いがきれいに見えない。
あとはリフトしておろす時。そこで女役さんがガタガタとなってしまってはいけない。ふわっと、きれいに見えているかどうかで、デュエットダンス、リフトのスムーズさ滑らかさが出てくるので、細かく意識してやっていました。
(安藤アナ):先日はリフトされる側にもなりましたよね。そちらはいかがですか。
持ち上げられる機会が本当にないので初めてで。「大丈夫? 重くない?」とキャストの方に聞いていたんですが「男2人なんで全然大丈夫です」。やっぱり男性ってすごいなと。頼もしい。「私たちは女性同士でやっていたから、意識しながらやっていたけど、男性は自然とできるんだな」と力の差を感じました。
(中島アナ):上がった時の気持ちは。
いやぁやっぱりそわそわしますよね。まだ慣れないです。大丈夫かな、というそわそわ感っていうのは常にありました。
■改めて感じた「歌やダンスが好き」
(安藤アナ):退団後についても、伺っていきます。まもなく1年。変化を感じられますか。
珠城)そうですね。1年前まであのステージに立っていたことが夢のようで信じられないです。とても昔のように感じています。自分でも不思議なんですが、もうはるか彼方、昔のことのようです。
私生活でも「男役・珠城りょう」を常に意識していて、生活の全てが宝塚でした。普段テレビを見ていても舞台を見に行く時も、「自分の演技にどう生かせるか」を常に考える。本当に他のことに脇目もふらずに全て宝塚のことを考えて生活していました。それがなくなったことで、宝塚にいた時は夢を見ていたんだなと思いますね。
(安藤アナ):流れる時間の感覚が違いますか。
全然違いますね。ありがたいことに宝塚は常に公演があるじゃないですか。一つの公演が終わると数日したらまた次のステージのお稽古が始まるというスケジュールの生活。今は一つの舞台が終わると、少しずつ間にお仕事があっても何か月はゆっくりする時間があので、かなり違うと思います。
(中島アナ):退団後にどういう道に進むか、迷いはなかったですか。
ありましたね。私自身は演じること、表現することは好きだったんですが、宝塚の男役に全てをかけていました。男役は大好きでしたし、宝塚の男役を好きで付いてきてくださったファンの方が、宝塚の男役でなくなった自分を応援してくれるのか。その自分に需要があるのか。
やはり私たちのお仕事は、ただ自分が歌いたい、舞台に立ちたいと言ったらできるものではない。その場を与えていただく、お仕事の依頼をいただかないと実現しないことなので、求めてもらえるのかどうかが一番不安でした。本当にありがたいことに新しい事務所に所属が決まって、今ちょっとずつお仕事をしていますが、本当にやっていけるのか、どういう道に進んでいけるのか、とても不安でした。
(安藤アナ):今年は初めてソロコンサートも開かれました。
宝塚にいた時、自分で自分に厳しくなりすぎていて、世間の色んな声を気にしすぎて、歌やいろいろなものへの苦手意識がどんどん強くなってしまっていた部分が正直ありました。まっさらな気持ちで音楽や踊り、表現することに向き合った時に、「私ってこんなに歌やダンスを通して何かを表現することが好きなんだ」と改めて感じました。
先生方やキャストのみんな、本当に温かい人たちに今回巡り合えまして、その方々とうれしい、楽しいという気持ちを共有できることがとても幸せだったんです。実際にたくさんの方が見に来てくださり、みなさんが「りょうちゃんが楽しそうで私たちも幸せ」「本当にあたたかい気持ちになった」という声をいただきました。その声を聞いた時や、実際自分がステージに立ってみなさんの姿を見た時に、こうやって共有できること本当に好きなんだなということを再認識したんです。それを自分で感じられたことが。このコンサートの一番大きな収穫だったと思います。
(安藤アナ):少し時間が空いたからこそ、感じられる部分がありましたか。
ありました。まっさらな気持ちでフラットに、新たに挑戦できました。宝塚で14年積み上げてきたものもありますが、その自信はありつつも、いち俳優として世に出るのは初めて。女性としてパフォーマンスするのも初めてですし、いろんなことが初めてなので、ある意味怖いもの知らずで挑んでいけるところがある。まだ失敗してもいいんじゃないかと、どこか自分でいい意味で割り切れた部分もありました。もちろん座長として責任はあるんですが、とにかく自分自身が楽しめたので、それが良かったなと思います。
■ストレートプレイにも初挑戦
(中島アナ):そして間もなくミュージカルではない舞台、ストレートプレイにも初挑戦されますね(『8人の女たち』)。豪華なキャストです。
濃いですよね。まずストレートプレイにとても興味があって、挑戦できるということがまずうれしくて。お話をいただいた時にはふたつ返事でぜひやらせてくださいとお伝えしたんです。またこのキャスト全員が元宝塚トップスターで、ストレートプレイをやるという初めて試みと聞いていたので、それも非常に楽しみだなと思いました。私の役どころやスタイリングもどうなっていくのか。また挑戦だなとドキドキしています。
(中島アナ):舞台で女性を演じるのも今回が初めて。
そうなんですよ。初めてでごまかしがきかないなと思いながら。役どころとしても、物語が進んでから登場するんです。そのあたりもドキドキしますし、親戚のような立ち位置なので、少し家族のやりとりを客観的に見たり、みんなの中をかき回したりするような非常にミステリアスな役どころでもあるので、そのあたりを体現していけるか、自分への挑戦でもあります
■「周りに感謝できること」
(安藤アナ):最後にこちらの質問にお答えいただきたいと思います。宝塚で学んだことで一番生きていることは何ですか。
「周りに感謝できること」です。もちろん自分自身が努力して頑張ることは当たり前で、大前提としてあること。でも舞台は総合芸術で本当に多くのスタッフの方、支えてくれる方、いろんな方がいるから、自分が人前に立つお仕事ができていて、輝けているなと思います。そういう周りの人たちにきちんと感謝を伝えていきたいと常々思っています。そう思えるようになったのも下級生の頃からこういろんな事を与えていただいたことが大きかったのかなと思います。常に支えてくださる方が周りにいたので。
(中島アナ):珠城さんの素敵なお言葉をたくさん伺うことができました。自分で言葉にすることを意識されているのでしょうか。
だんだん立場が上がるにつれて、人前でお話させていただく機会も増えたので、きちんと自分の思っている言葉がいい形で、みなさんに伝わったらいいなと思っていつもお話ししていました。それは後輩に対してもそうで、意識してなるべく丁寧に話すようにしてきました。
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『アプレジェンヌ 〜日テレ大劇場へようこそ〜』は日テレNEWS24のシリーズ企画。元タ カラジェンヌをお招きし、日本テレビアナウンサーで熱烈な宝塚ファンである、安藤翔アナ(妻が元タカラジェンヌ)、中島芽生アナ(宝塚音楽学校を4回受験)の2人が、ゲストの宝塚時代・退団後の生き方に迫ります。次回は元星組トップスターの紅ゆずるさんです。