元宝塚トップ・紅ゆずる「劇場を爆笑の渦にしたい」……稀代のコメディエンヌが追求する「笑い」の理想の形とは
■1年半延期……主演舞台への思い
そうですね。退団するまでは良かったんです。退団してからコロナ禍になり、せっかく皆様が楽しみにしてくださっていたお芝居がほぼ中止になるという状況。今も、人数制限かけたりなので120%の完璧な舞台、お客様全員入れてとかいうことはできずに。
ですが、当たり前だと思っていたことがこんなに尊いことか。それを改めて感じて勉強しています。
(中島アナ):舞台の幕が開くということが、とてもありがたいことだと。
次の日にストップしちゃうかもしれない。そういう状況の中でやっていく。だけど、そうなったらそうなった時。不安がっていると、全部できた時に「もっと楽しんでおけばよかった」と思う気もするから、それまで全力で。120%の力を出し切って毎日過ごそうと思っています。
(中島アナ):そうした中でこの1年半前に上演できなかった舞台『アンタッチャブル・ビューティー~難波探偵狂騒曲~』がいよいよ始まります。(※公演は9月25日まで。10月14日~アーカイブ配信)
本来なら退団してすぐの初舞台公演だったんですね。ですけれど、実際1年半という時が流れまして。(当時は)「わ!スカート履くけど大丈夫かな?」とか「こういう感じだけど、ファンの人大丈夫かな」とか思っていたんですが。
1年半経っていますから、もう少しスムーズにできるような気がするんですよ。やっぱり退団して3年ですから。その間にいろんな台本のことであったり演出のことであったり、話し合ったりする時間、自分で考える時間もありました。無駄ではなかった時間だと思っています。
(中島アナ):満を持してだと思うのですが、改めてどういったお話でしょう。
めちゃくちゃ大阪です。劇場も道頓堀の道頓堀橋、通称「ひっかけ橋」と呼ばれているところですね。そこの斜め前の劇場なんです。「かに道楽すぐそこ」みたいな場所。そのコテコテの場所でやらせていただきます。
関西人なら誰もが分かるような吉本新喜劇とか松竹新喜劇の大スターさんたちが出られるもので、かなり個性豊かなんです。内容はミナミのはずれのシャッター商店街で、私は新人探偵として入ってきます。そこで人間ドラマがあり、ハートフルコメディー。そこでクスっと笑えたりとか涙できたりする場面があったらな、という物語です。
(中島アナ):お役の名前も「本間カナ」さん。ほんまかいなみたいな。なんかもう笑えてきそうな予感しかしないです。
私も最初に見た時に「ほんまかな?」と思いました。1年半前に実際やる予定だったので、顔合わせを一回やっているんです。稽古場4日目でダメになっちゃったんですけど。私宝塚でも結構、個性強めの人だと自分でも思っておりました。でも顔合わせをした時に、いや、ちょっと負けそうかなと思いました。ポスターを見た地元の友達から「吉本新喜劇入ったん?」と言われたんですよ。
(中島アナ):それくらい面白くなりそうですね。
これだけの大ベテランの方々、笑いに対してずっと向き合ってらっしゃる方も多くいらっしゃいます。皆さんご存知の三田村邦彦さんいらっしゃいますし。いろんなジャンルの人が何かこう集まってミックスジュースみたいな公演ですね。「大阪名物・ミックスジュース出来上がったよ」みたいな感じです。
■ 『ANOTHER WORLD』を振り返る
(中島アナ):笑いを追求するという意味では、紅さんはコメディエンヌとして笑いをずっと追求されていたイメージがあります。
私、王道の宝塚を見てファンになってはいるんですけれども、もしトップスターになることができたら、宝塚大劇場・東京宝塚劇場を爆笑の渦にしてみたいというのが私の夢だったんです。大爆笑の劇場で「ここどこ?」みたいなことにしてみたいという夢が。
(中島アナ):(公演『ANOTHER WORLD』で)かなえましたね。
そうですね。初日の時に「やった!」と。
(中島アナ):本当に紅さんしか演じられないような(作品)で大爆笑。私これを観たときに思ったことが、お腹が痛くなるほどずっと笑っていられるのに、最後のセリフで涙が出てくる。(「生きてさえいりゃ、どんな苦労も乗り越えられる。いっぺん死んだ気イになってやってみなはれ、この世は極楽、命に感謝や!」)
あれね。1時間半やっているのはあのセリフを言うためなんですよ。ただ瞬発的に笑わせる笑いもあると思うんですけど、お芝居でやる場合は内容ありきの笑い。劇場を出ておうちに帰られた後も『ああこうだったかな』と思い出して笑っていただけるような物語が理想なんです。
なので、その時に「アハハって何発笑いが起こったか」というのを求めているわけじゃない。楽しかったなと笑顔で帰っていただける作品でかつ、そこでププッと笑えるものがあるというのは、私の最高の理想の形かなと思います。
(中島アナ):(観客の)2500人を笑わせるというのは、普通はできないことだと思います。どういうところにこだわって作っていったんでしょう。
笑わそうという頭からいってないです。特に『ANOTHER WORLD』は本(脚本)がものすごく面白かった。だからもうこの本に従っていれば、スパイラルをきかせるとかアクセントを持ってくるとかしなくても、それぞれの役に徹することができれば、あとは「間」の問題。この間はちょっとでもずれると「こけ間」なんです。全然面白くない。「こけ間」っていうのは見ていてとても不快な間なんですよね。
「今笑った方がよかった間?」みたいなのはあまり良くない。考えずにハハっと笑えるのが一番理想なんですよ。でないと「ここってこうだったのかな」と考えている間に物語が進んでいく。なので「こけ間」を作らないようにとは考えていましたが、決して「笑わせに行くぞ」とは作ってないんですよ。
(中島アナ):間の調整は、稽古をしながら皆さんでしていくんですか。
そうですね。例えば稽古場で先生方がいらっしゃる前に、自主稽古で固めたりするんですけれど、その時にセリフで「もうちょっとだけ食ってくれへんかな」とか立ち位置もっとこうやった方が面白いんじゃないか、とか。みんなで考えていました。
あとは舞台に入った時にやっぱり生もの。一回一回全く同じことは起こらないんです。やっているうちに慣れてきちゃう面もある。その時、その時じゃないと分からない。そこで「ちょっとこの間はつめてほしいな」といったことを(本番中に)伝えてもらうんです。はけた時とかに早変わりしながら私の楽屋で、伝える役目の子に立っておいてもらう。はけてきた時に伝えて、そしてまたバっと出ていく。
(中島アナ):場面場面ですぐに修正すると。
そうです。ただ、この役は全場出ていてなかなかはけなかった。なので、はけたら25秒ぐらいの間に水を飲みながら、「○○ちゃん、△△ちゃん」と名前だけは伝えて、終演後に「ああ、こうやったな」とその子に(詳しく)伝えてあげられたらという感じでやっていました。
■アドリブは好き勝手には入れない
(安藤アナ):紅さんはアドリブも多い印象があります。アドリブは練ってするものですか、瞬発力ですか。
アドリブは要求される時はします。例えば演出家の先生が台本に括弧書きでアドリブと書いてある場合がある。そういう時はそこでアドリブ絶対すると決めています。それが演出なので。それ以外は、例えば自分が好き勝手に入れることは一切なかったです。
例えば、何かトラブルがあってアドリブで繋ぐということはありました。例えば『ANOTHER WORLD』で出演者が「ベルサイユの蓮」というフレーズを「ベルサイユのばら」と言ってしまった。そこで「な、もっかいやりなおそ」と言いました。上級生ですけど、役どころとして。「な、もっかいやりなおした方がいいよな」「うん」と。
(中島アナ):機転がすごいですね。
あとは、ここでもう一つほしいなと思う時ですね。その場合、舞台監督や進行さん、組長さんや演出家の先生にご相談して「私、これやりたいです」と一言言っておく。じゃないと例えば転換で盆が回るタイミング、セリが下がるタイミングで変なアドリブ入れちゃうと事故が起こってしまうかもしれないので。「どこが転換ですか」と確認して舞台装置が動く時のアドリブは避ける。そこにかからないところでアドリブ入れるということをやっていましたね。
(中島アナ):フリーダムにランダムにという雰囲気を出しつつ、そこはしっかりと押さえた上でやっているんですね。
フリーダムにランダムにやってるように見せるということが私は目標だったんです。「ホント好き勝手やるよね」という男役でいたかった。
(中編に続く)
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『アプレジェンヌ 〜日テレ大劇場へようこそ〜』は日テレNEWS24のシリーズ企画。元タ カラジェンヌをお招きし、日本テレビアナウンサーで熱烈な宝塚ファンである、安藤翔アナ(妻が元タカラジェンヌ)、中島芽生アナ(宝塚音楽学校を4回受験)の2人が、ゲストの宝塚時代・退団後の生き方に迫ります。次回ゲストは「花組のアニキ」と慕われた瀬戸かずやさんと9月に退団したばかりの飛龍つかささんです。