元宝塚トップ・紅ゆずる、入団1年目で衣装を頼み忘れ…「バッキバキで」自分で作った仰天エピソード
■「2500対1」の銀橋で
宝塚をキーワードでひも解くアプレジェンヌ辞典。今回は「銀橋」。
宝塚大劇場と東京宝塚劇場のオーケストラと客席の間にある通路のような舞台。 舞台の上手と下手を橋のようにつないでいる事から銀橋と呼ばれている。幅の平均は1.2mで、銀橋でソロを歌えるのは限られたスターのみ。 舞台の中でも客席に最も近い場所でもあり、銀橋を渡るスターが目の前に来ようものなら、ときめきが止まらなくなる夢の橋。
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(安藤アナ):銀橋は宝塚ならでは。紅さんにとってこの銀橋というのはどんな存在ですか。
(紅さん):宝塚でも本当にスターさんしか通れないんです。演出上では、通る時もあります。ショーで特に1人で銀橋を通るというのは、本当に限られた人。ずっと夢のまた夢の話だったので、自分が渡った時はめちゃくちゃ感動しましたね。
(中島アナ):初めて渡ったのは新人公演。
(紅さん):最後の新人公演の初主演の時ですね。まず銀橋自体の道が細いんです。どこまでが客席でどこまでが舞台かが分からない。ライトが明るすぎて。全然何も見えないと思っていた。なのに自分がトップになると見えるんです。ちゃんといろんなことが確認できるようになって。それまでにいろんな経験を積んできているのももちろんあります。景色が全然違ったことをよく覚えていますね。
(中島アナ):トップとして銀橋を渡るときは特別ですか。
(紅さん):本舞台から銀橋を出る時に今から銀橋行きますよっていう顔があるんです。「今から銀橋に出るからな」「出るで!」みたいな目線がある。私オールドファンなので、そういうのがもうグっときていたんです。
銀橋に出る時に前のライトがバババッって付くんですよ。一つの演出・場面によって色も変わりますし、限られたものしか通れない特別な道だということをよく踏まえた上で通る、ということを心掛けていました
(中島アナ):客席もしっかり見えるという話も聞きますけれど、客の顔を見ながら近くなるのは演じる側としてはいかがでしたか。
(紅さん):一番ダイレクトに伝わる大切な時間かなと思います。銀橋に出ると2階席に座っていらっしゃるお客様もとても近く感じる。私はファンの時ずっと2階でしか見たことがなかった。2階席では「あ、見てくれた」というのがうれしいんですよ。ちょっとの距離ではあるんですけど、すごく前に出てきてくれるような感じがするので、2階席も意識しながらやっていましたね。
やはり2500対1なので。何となく立っているじゃ絶対無理。2500人、みんなが全員見ている。「舞台を動かしているのは私です」ぐらいの(気持ち)。体が15倍ぐらいにふくれ上がったかのようなオーラや存在感を意識していました。
(中島アナ):紅さんと言えば、銀橋からバラを。
(紅さん):オールドファンなので、どうしてもやりたくて。いろんな方の許可を得て、ようやく成立したという場面ではあるんですが、渡しているこちらもめちゃくちゃ感動するんです。歌いながら、お世話になった人や応援してくださっているファンの方が見えて、本当に皆さん一人一人にお渡ししたいぐらいなんですけど、50本だったかな。最後、投げたんです。
(中島アナ):銀橋は舞台の中でも特別な場所ですね。
(紅さん):本当に。銀橋と本舞台の間にオーケストラボックスがあるんですけど、本舞台より前に出ることの意味がある。それだけお客様に近く、自分が演じているもの、演出効果がより出る方法を自分なりに模索してやっていましたね。ライトもただ当ててもらうんじゃなくて、「どうやったら自分が美しくライトを当てていただけるのか」とか「こうやったら目が光る」とか。
自分の与えていただける場面の中で、今までのスターさんのDVDやビデオを引っ張り出して見て、「この人のここが好き」だとか「私はこんなことやってみたい」と挑戦してみて。それで、私っぽくないなということで、自分流に変えてみたり。
■中島アナと実は接点
(中島アナ):実は、私と紅さんは通っていたバレエスクールが同じ。時期は違いますが。
(紅さん):そうなんですよ。こんなことあるのかなと思いますよね。
(中島アナ):稽古場に紅さんのポストカードが貼ってあって、それを拝みながら私も受かりたいと思っていたんです。まだ下級生の頃からお葉書いただいていたので、ずっと応援しておりました。同じところからこうやって再会できるというかお会いできることが本当にうれしいです。
(紅さん):ありがとうございます。今や素晴らしい大輪の花を咲かせられましたね。あの稽古場、スタジオですよ。駅がここで、ここでこれがあって。ルーツが同じ。すごいですね。
(安藤アナ):紅さんは下級生時代で思い出すエピソードはありますか。
(紅さん):私も最初に入団した時に「こんなことって本当にあるんだ」と客観的に考えちゃいました。入団式で自分が紋付き袴を着て「あなたたちはもう今日から宝塚歌劇団の生徒です」と言われている時に。夢を見過ぎて、自分の夢と現実を照らし合わせる作業が大変で。
で、そんなこと言っていられなくなっちゃった。そんな夢を見ている暇はないぐらい厳しい稽古やら何やら。ですが、『宝塚グラフ』とか『歌劇』で見て、自分がずっと憧れていた上級生の方が目の前にいらっしゃる。スターさんが目の前でお稽古なさっているその情景が「嘘だろう」と。
しかも最下級生の私たちは、舞台を正面としたら、後ろの方で見ているんです。前じゃなくて後ろからの姿は(普通は)見ないじゃないですか。
(中島アナ):確かに舞台は前からしか見ない。
(紅さん):前から見たいなと最初は思っていたんですけど、ある日気付きましたね。後ろからの姿、立ち方や背中で語るってことがどれだけ大切か。だから後ろから見ながら、この人の背中が物語っているものを感じ取る勉強だと考えていました。
(安藤アナ):後ろ姿で男役の礎がだんだんと築かれていった。
(紅さん):はい。上級生の方の歩き方、何気ない物を取る仕草さえも格好いい。皆さん3者3様で。通し(稽古)があった後に先生から演出上のダメ出しがあるんです。お芝居の時に上級生がそれをされているのを自分も聞いておいて、私が「もしこの役だったら」と思いながら考える。でもそういう時間も楽しかったですね。
■「やっちゃった」シャツを頼み忘れ…
(中島アナ):まだどこにも出していない、アプレジェンヌで初めて出す下級生時代のハプニングやお話はありますか。
(紅さん):ハプニングなんか山盛りあります。新人公演の上級生のお役をさせていただく時に、衣装もお借りするんです。ただ、例えばスーツものだとカッターシャツは上級生ご自身が身につけるもので、汗が付いたりして、お借りするのは申し訳ないもの。なので、自分で「このカッターシャツ着ます」と衣裳部さんに申請するんですよ。
在庫があってその中から出していただけるものなんです。例えば、古代ヒダなしカッターシャツとか古代シャツとか開襟シャツとか、色んな名前のシャツがいっぱいあるんです。その開襟シャツをお願いしなきゃいけなかったのに、頼み忘れちゃった。これって大変なこと、一大事なわけです。カッターシャツを借りられない、イコール出られない。
(中島アナ):お衣装がないわけですもんね。
(紅さん):それか、上級生にごめんなさい頼み忘れましたと言ってすごいお叱りを受けるか。私は「やっちゃった、よし探そう」ってなっちゃった。よし、百貨店に行って似ているやつを探して作るぞみたいな方に行っちゃって。
ただ衣装って、普通の一般的なシャツと素材がちょっと違うんです。ちょっと硬くてノリが付いていてパキパキっとしている。でもその具合ってわかんないじゃないですか。ちなみに研1です。
(中島アナ):入団して1年目の時ですね。
(紅さん):1年目の時に忘れましたなんて絶対言えないから、もうこうなったら作るしかないってことで。それでいろんなクリーニング店に行って「これもっと硬くなりませんか」とか。上級生と役のコミュニケーションをとる時も、ボタンが何個で何個だなと見て。「あ、はい」って言いながらボタンはみたいな。もうごめんなさいですけど、全然お役のことよりもカッターシャツのことしか考えてなかった。
(中島アナ):似ているカッターシャツを探すために一生懸命観察して、購入できたんですね。
(紅さん):できたんですけど、それがアルマーニだったんです。ポケットがなかったからカチャカチャ切って改造して、クリーニングに何店舗も持って行って。「これ、もう一回布貼って硬くできるよ」「お願いします」とやり取りして出来上がったのがバッキバキで。それをバレないように着る。
(紅さん):いよいよ新人公演卒業すると同時にそのカッターシャツは捨てました。今となっては残しておけば良かったな。その時、新人公演で主演をされていた方が涼紫央さんだったんです。だから、涼紫央さんが退団される時にもう時効だろうなと思って「すいません、カッターシャツを作りました」と言ったんです。そうしたら「ウケる!作ったん? 今ある?」言われて。もうないんですと言ったら、見たかったわ~とおっしゃっていて。
(中島アナ):前代未聞ですね。衣装を自分で作るという。
(紅さん)前代未聞だと思う。忘れちゃった子のために貸してあげればよかったとは思いますけど。
(第2幕に続く)
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『アプレジェンヌ 〜日テレ大劇場へようこそ〜』は日テレNEWS24のシリーズ企画。元タカラジェンヌをお招きし、日本テレビアナウンサーで熱烈な宝塚ファンである、安藤翔アナ(妻が元タカラジェンヌ)、中島芽生アナ(宝塚音楽学校を4回受験)の2人が、ゲストの宝塚時代・退団後の生き方に迫ります。次回ゲストも元星組トップスターの紅ゆずるさんです。