プーチン大統領が憧れ、「世紀のスパイ」ゾルゲの半生を描く映画が日本で初公開
ロシアによるウクライナ侵攻から1年を迎える中、東京の映画館で旧ソ連の大物スパイ、リヒャルト・ゾルゲの半生を描く映画が公開され、話題となっています。
この映画は、ウクライナ・オデーサ出身のセルゲイ・ギンズブルグ総監督によって、ロシア・ウクライナ・中国の3か国の合作で、2年以上もの撮影期間で、7億円もの巨費を投じて製作されました。2019年にロシアの国営テレビで放映された際には高い視聴率を獲得したということです。
ロシアのウクライナ侵攻後に、かつて旧ソ連のスパイが日本での諜報活動の一部始終を描くノンフィクション映画が日本で上映されることで、注目を集めています。
■プーチン大統領「ゾルゲのようなスパイになりたかった」
ドイツ人の父とロシア人の母を持つリヒャルト・ゾルゲは、第二次世界大戦下の日本で、諜報活動を行った旧ソ連の大物スパイです。1941年に治安維持法違反などの容疑で特別高等警察に逮捕され、1944年に処刑されました。
一方、ロシアでは、ゾルゲは対ナチス・ドイツ戦の勝利を導き、祖国を救った「ソ連邦の英雄」として、今も評価されています。特にプーチン政権下で第2次世界大戦の勝利や愛国主義がますます強調されるなか、「ゾルゲ・ブーム」が起きています。2016年に開通したモスクワ地下鉄の新駅が「ゾルゲ駅」と命名されたり、各都市に「ゾルゲ通り」が誕生したりしていて、現在、ゾルゲの名を冠した通りはロシア全土に50か所あるということです。また、東京の在日ロシア大使館内にあるロシア人学校も「リヒャルト・ゾルゲ記念学校」という名前です。
プーチン大統領は、2020年にタス通信とのインタビューで、「高校生のころ、ゾルゲのようなスパイになりたかった」と告白し、2000年の回想録では「子どもの時にスパイ映画を見て、KGB(=国家保安委員会)で働くことを希望した」と述懐し、ゾルゲへの憧れをつづっていました。
■映画「スパイを愛した女たち リヒャルト・ゾルゲ」公開中
今月25日に東京・新宿のK's cinemaで公開された「スパイを愛した女たち リヒャルト・ゾルゲ」(全12話・6回に分けて上映)は、ゾルゲの日本での諜報活動から逮捕・ 処刑に至るまでの半生と、知られざる多彩な女性関係を描いたドラマです。
主人公ゾルゲを演じるのは、ロシアの国民的俳優で、2007年に「ロシア人民芸術家」を授与されたアレクサンドル・ドモガロフさん。共演に、山本修夢さん、木下順介さんらの日本人役者が出演。ゾルゲの恋人・花子役には、去年7月に惜しくも38歳の若さで病死した中丸シオンさんが熱演しました。
25日の初日舞台挨拶には、赤軍情報本部機密文書「ゾルゲ・ファイル 1941-1945」を翻訳した拓殖大学特任教授の名越健郎さん、ゾルゲを追い詰める憲兵役の山本修夢さんと亡き中丸シオンさんの実父で、映画の中で警察上官役を演じた中丸新将さんが登壇し、それぞれの思いで、本映画が日本で公開された意義深さを語りました。映画は3月4日までの期間限定上映です。