「同志少女よ、敵を撃て」逢坂冬馬さんが見た侵攻1年 “国家対国家”の視点で見えなくなるもの
24日、ウクライナにロシア軍が侵攻を始めて1年となります。作家の逢坂冬馬さんは「1年前は、2022年に国家全面戦争が始まったことに衝撃を受け、 現在はそれが1年間継続していることに驚きを感じる。また、第三国から見て、戦争に対してある種の“慣れ”が生じていることにさらなる恐ろしさを感じる」と話します。逢坂さんは去年、デビュー作「同志少女よ、敵を撃て」で本屋大賞を受賞。作品は“人類史上最悪”と言われるドイツと旧ソ連の戦争を舞台に、普通の少女が兵士へと変わっていく様をリアルに描き大きな話題となりました。逢坂さんが「忘れないでいたい」ということとは…。
■関心は一つ一つの“痛み”から…徐々に「地図と数値」に
日本テレビ・岩本乃蒼アナウンサー
「逢坂さんは一貫して、戦争をテーマに作品を書いてきましたが、この軍事侵攻をどのように見てきましたか?」
作家・逢坂冬馬さん
「この1年間、戦争に関する視点がどこに向かうのか、ということを考え続けてきました。開戦当初は進駐してきたロシア兵に抗議するウクライナ人の女性や、捕虜になったロシア軍兵士が『私たちがウクライナに行くとは知らされていなかった』と話す姿などが報道されましたし、自分もそこに注目していた覚えがあります。しかし、戦争開始から1年がたって徐々に報道のされ方と、自分自身が注目するポイントが変わってきたと思います。例えば『バフムトをめぐる攻防でソレダールが陥落した』というときに、『ロシア軍の損害はこのくらい』『ウクライナ軍の損害はこのくらい』といったような、いわば“地図と数値”というものに変化してきたと思います。もちろん戦争報道にそれは欠かせないのですが…。ただ、本当の現地の痛みというのは、“地図と数値”にあるのではなくて、失われてゆく個々の命にあります。それが自分が小説を通して訴えたかったことでもあります。失われてゆく一つ一つの命がかけがえのないものであり、それがついえていくのがこの戦争の恐ろしさだということは忘れずに、“地図と数値”に還元せずに事態を見守っていきたいと考えています」
■国家対国家の構図 ロシア国内で戦争に反対する人の姿が見えなく…
岩本アナウンサー
「小説の中では、旧ソ連の女性兵士に焦点をあてました。小説の中で情熱を傾けたという“ロシアの今”に対してなにを思いますか?」
逢坂さん
「まさにそれもずっと考え続けてきたことではあるのですが、これは本当にロシアによる一方的な侵略戦争であり、そして国家対国家の全面戦争です。ですから、プーチン政権が非難されるのは当然のことであるし、正しいことであると思います」
「しかし一方で、国家対国家、ロシア対ウクライナという構図に全てを当てはめてロシアを理解しようとすると、今、まさにロシア国内で戦争に反対し立ち上がっている人の姿が見えなくなってしまう…これもまた恐ろしいことだと思います。ロシア国内では反戦運動はもとより、レストランで反戦的な会話をしたというだけで夫婦が逮捕されるという恐るべき状況が形成されています。そのロシアにおいて、『戦争反対』の声を上げている人たち、また上げられない人たちのことを忘れないでいたいと考えています」
岩本アナウンサー
「そうした状況の中、今後、逢坂さんが取り組んでいきたいのは、どのようなことでしょうか?」
逢坂さん
「24日も日比谷での反戦デモに行ってきました。どうしても、日本にいながら反戦運動をすることの無力さというのを、皆さんも僕も感じて参加していたように思えます。しかし、誰かがそれをしなければいけないし、世界的な無関心というのも確実に事態を悪化させます。ですから自分自身が戦えなくても、ロシアで反戦運動に立ち上がった人を支援する団体に何回か寄付をしています。そういう方法でも支援をすることができますし、また、戦争の被災者を救済する国際機関などへの寄付なども私たちができる立派な行為だと思います。自分自身はそうしたことを通じて、また、その情報をシェアすることによって被害に遭った人たちへのケア、戦争の抑止につなげていきたいと思っています」
(2月24日放送『news zero』より)