美術館に響く「ドゥドゥドゥ…」 擬音で表す“戦争の生々しさ” アートで伝えるメッセージ
3年に1度行われる横浜トリエンナーレ(6月9日まで開催)。30以上の国と地域から93組のアーティストが参加し、それぞれが表現した現代アートを鑑賞することができます。
入ってすぐ展示されていたのは、肌の色の異なる男女のパーツを組み合わせ、多様性のあり方を問いかける《ヒトの原型》という作品。また、透明なゴミ袋に弁護士・管理職といった働く人の遺骸を収めた作品は、人工知能(AI)の台頭による労働者の大量失業の不安を表現。社会問題をアートで表した作品が、数多く見られました。
そんな中、静かなイメージのある美術館の中で、大きな音が印象的な作品がありました。
■今の社会問題を表す“音”の正体
横浜トリエンナーレ組織委員会・総合ディレクターで横浜美術館・館長の蔵屋美香さんに、その音の正体を聞いてみると…。
「こちらは、ウクライナのアーティストの作品です。映っているのは、安全なリビウの街に逃げてきた一般の市民の方たち。兵器には色々特別な音があるので、これを聞き分けて、それを口まねで私たちに示してくれています」
映像に映っている人たちは、ロシアの侵攻によって難民キャンプに逃れざるを得なくなったウクライナの人たち。動画では、どこから、いつ避難してきたかを自己紹介した後、何を口まねするかを伝えます。そして、空襲警報や空爆、ヘリコプターに戦車、ライフル・ミサイル・迫撃砲といった武器など、“戦争によってもたらされた音”を自分の口で再現。そして「繰り返してください」と、画面の向こうにいる人たちに呼びかけます。
《動画の一例》
「エカテリーナ 21歳です ヘルソン出身でリヴィウに滞在中」
「空襲警報」
「ウィーーー ウィーーーウィーーー」※空襲警報の音の口マネをする
「繰り返してください」
「ウィーーー ウィーーーウィーーー」
「繰り返してください」
※最後は無音で、テロップのみ表示されている
■作品制作のきっかけは“戦時下の行動マニュアル”
作品の名前は、《繰り返してください》。30代半ばのウクライナのアーティスト・オープングループ(元々は6人組。今回は3人の名前で出品)による、約17分の映像作品です。
この作品ができたきっかけは、国民に配布されるという戦時下の行動マニュアル。このマニュアルに“音によって兵器の種類を聞き分けた上で、いかに行動するべきか”が示されているといい、そんな戦争の音を自分たちの口であらわすことで、今のウクライナの現実を生々しく伝えています。
蔵屋さんは、作品のポイントでもある“繰り返してください”と呼びかける部分について、「英会話教室のパロディーのようにすることで、より重いテーマを近づきやすいものにしている。また、この声をまねしてみる、参加をすることによって、この人たちの経験が他人事ではなくて、自分の中に声や体を通じて入ってくることがある」と、解説しました。
■鑑賞した人が感じた“言語を超えた訴える力”
横浜トリエンナーレに来場していた人に、この作品の感想を聞きました。
「ニュースで(紛争の状況などを)見るよりも現実味があって身に染みた」(20代)
「自分と同じように普通に生活していた人たちが感じたことを、何も使わずに自分たちの声で表現するっていうのはすごく新鮮に思いました」(男性)
「言語を超えた訴える力を作品にしているのかなと思った。受け取る方もストンと入ってくるんじゃないか」(50代)
蔵屋さんは、「“私の戦争はあなたの戦争ですよ”というふうに、やり方を変えて伝えてくれるというのは、アートの大きな特徴ではないかと思っています」と話し、作品を鑑賞することで伝えているメッセージを受け取ってほしいと語りました。