元宝塚・天真みちる「おじさんはカッコつけないで自分をさらけ出して」――「おじさん役」を歩んだ元タカラジェンヌが語る
■イケメンが並ぶ中で「はし休め」を
「『どこかで見たことある』リアルさを突き詰めていきたいとは思っていました。ただ宝塚歌劇団の舞台なので、最終的には夢を崩さない『夢の中のリアルなおじさん』というバランスを取りながら。宝塚の舞台は、もう端から端までイケメンがずらり。美男美女が並ぶ中でも、一瞬、はし休めが欲しいのではと思って、その時に『いるぜ!』という感じでやりたかった。寄り添えるリアルさを持つおじさんの一面も見せつつ、最終的にはファンタジーでもある。そこを目指して、作っていました」
(中島アナ):「おじさん役」のなかでも特に難しかったのはどの役でしょうか。
「右大臣(『新源氏物語』)は本当に大変でしたね。日本ものの作品は、いかにまっすぐな切れ長の目を作るかにこだわっています。ただ、私が男をやるにはあまり条件がよくないぱっちり二重の目なので、いかに一重にするかをすごく考えました。最終的にもう自分の目をつむることで切れ長(の目)を編み出しました」
「舞台中はずっと薄目で演じていました。それを観劇されていた別の組のトップスターの方が楽屋へ来て『すごいメイク術だね。どうやってそんな目に作ったの?』と聞かれたので『閉じていたんです』と(笑)」
(中島アナ):舞台中に目を閉じていたら危なくないですか?
「出番の役者の中で一番、年上の役だったので、(舞台上で)動かなかったんですよ。どこへ行くにも誰かがついてきてくれるので、閉じていても大丈夫でした」
■「おじさん役」同士で情報収集
(中島アナ):「革命家のおじさん」(『エリザベート』のツェップス)もこだわりが詰まっていそうですね。
「白髪のまじり方で時系列ごとに少しずつ老けていくように見せることや、カツラのつけ方はかなりこだわっていました。部分カツラの時は自分の地毛とうまく混ぜるだとか。あとは小物を自分で買っていましたね。眼鏡店に行って、当時の時代を感じるようなメガネとかを探してかける」
(中島アナ):「おじさんの小道具」って難しそうです。
「そうなんです。最初『どこに売っているんだ?』と。でも例えば映画を見ていると、スーツの袖口から出たカッターシャツに見える素敵なカフスボタンとかに個性が隠れている、こだわりが詰まっているんだなと気づいて。絶対に『お店を見つけ出してやる』という気持ちになって、色んなところを探し回っていました」
「今でこそ通販があるんですが、当時はあまりないので色々なお店を探し回る。そうすると、同じおじさん役をやるコミュニティーの人たちに、『あそこにいい靴が売っていましたよ』とか『あの世界観でその国の作品をやるんだったら、あそこ一回行った方がいいですよ』と口コミで広がるんです。そうして、こだわりカフスや腕時計なんかを買っていました」
「結婚している役であれば、男役が妻の娘役の指輪も買うので宝石店に行って探します。役柄に合わせて富豪だったらいいものをつけたいとか、成り上がりの役であれば大きいのにしようとか、そうやって探すのが楽しかったですね」
(中島アナ):宝塚をご存じない人からすると、おじさん役もタカラジェンヌさんが演じるということが驚きだとは思います。
「意外とおじさん役はトップスターさんが演じる主人公の上司や父親の役など良い役が結構あって、トップさんと絡んで芝居ができるんです。例えばトップさんと話している背中を見て『この人かな?』と(おじさん役に)注目していただけると、(役者の)顔ぶれがわかってきて面白いと思います」
■「やっと見つけた」自分の武器
(中島アナ):どうして「おじさんへの道」に踏み出すことになったのでしょうか。
「(宝塚の中で)スターを目指すにはもう長い行列があります。『自分の武器って何だろう』と全くわからない中で、どんどん同期がスターダムに上っていく。それで自分が置いていかれた気がして、自分に何ができるのかなって迷っていた時に、『フィフティ・フィフティ』という公演で、主に下級生が、ヒゲをつけておじさん役をやっていいという機会があったんです。演出家の先生がそう言った時に、みんなうら若き乙女だったから『(ヒゲ)をつけるの?』と若干ためらっていた」
「そこで『(自分は)これかもしれない』と思って『私つけます!』と。そうしたらヒゲを担当している床山さんが『おお、いいじゃないか、生きのいい下級生がきたな』とこれもあるぜ、これはどうだと(勧めてくれた)。あごヒゲとかもしゃもしゃしたヒゲとか色々な種類のヒゲを試していたら、どんどん自分が男役になっていけたという気持ちになったんです」
「それまでは私は丸顔で目も丸くて、ぱっと見であまり男役っぽくなれないなというコンプレックスもあった。それで、私の『男役の作り方』はおじさんなんだと、その時にちょっと見つかった。そこから色んな小道具やパーツをつけて、自分の男役、『おじさん役』を完成させていけたらいいな、『やっと見つけた!』と思って楽しかったんです」
■世の「おじさん」にアドバイス
(安藤アナ):ある意味、おじさん以上におじさんを追求している天真さんだと思います。恐縮ながら世の中の男性を代表しまして、おじさんに対するアドバイスをいただけますか。
「私、役作りで居酒屋にひとりで行っておじさん見たり、現役の時にもおじさま方に『お前いい芝居するな』とかわいがっていただけたりしていて。それで、何か仲間のような感じで、仕事の話や人生の話を飲みながら語らう機会が結構ありました。ただ、おじさんはその一面を見せる相手を同じおじさんか若い男の子かに(限定して)相手を決めている気がします」
「それで女性だとか意中の方には、格好つけようと本当にどこでかじってきたかわからない浅はかなメソッドを実践する時があって。『こういうのが好きなんでしょ?』『宝塚が好きなんだね。じゃあやっぱり格好いいのが好きなんでしょ?』という的外れな格好つけ方をするときがある。『何それ?』『どこのメソッド?』となるので、よっぽど私と話している時の『もっと会社をこうしていきたいんだよね』とか『これからこの産業はこうなっていくだろうな』とかって真面目に話している。それを見せた方が相手はときめくんじゃないかと私は思うんです」
「その一面を見せるのを勝手に自分で止めちゃっている気がするので『そんなことはない』と。見せるつもりがないと自分で思っている一面に格好いい部分があると思うので、どんどんさらけ出したほうがいいと私は思います」
■出し惜しみせずに飛び込め
(中島アナ):バシバシ心に刺さっているおじさまがいらっしゃると思います。
「自分で勝手に決めつけない方がいいと思います。『これ言ってもつまんないだろうな』と、勝手に自分でストッパーをかけている気はするので、どんな話でもした方がいいと思うんですよね。受け取る側も色々な面を見て、最終的に自分がいいなと思うところを決めるので」
(中島アナ):天真さんはおじさんという自分の武器を見つけたところがあると思うのですが、私たちも自分の武器に巡り合うにはどうしたらいいと思いますか。
「私も『もうここにはないのかな』となかなか見つけられなかった道の中で、ふとした瞬間にきっかけを見つけることができた。だから『これかもしれないな』と思った時は全力で出し惜しみせずに飛び込んじゃったほうがいいと思います。見よう見まねでもいいから、とりあえずやってみたら意外と自分らしさにたどり着ける気がします。本当にきっかけはどこにあるかわからないので、『探す』ではなくて『これかも?』と思ったら『行け!』という感じですね」
(後編に続く)
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『アプレジェンヌ 〜日テレ大劇場へようこそ〜 』は日テレNEWS24のシリーズ企画。元タカラジェンヌをお招きし、日本テレビアナウンサーで熱烈な宝塚ファンである、安藤翔アナ(妻が元タカラジェンヌ)、中島芽生アナ(宝塚音楽学校を4回受験)の2人が、ゲストの宝塚時代・退団後の生き方に迫ります。次回は元星組トップスターの安蘭けいさんです。