市川團十郎 1人13役の裏側 スピード勝負の衣装替えで爪痕がついても“無”
■敵も味方も演じる13役 感情の切り替えは「苦しい」
2019年、團十郎さんが海老蔵時代に初演し、5年ぶりに再演することになった演目『星合世十三團』。源氏と平家の戦いを描いた『義経千本桜』の物語をもとに、團十郎さん1人で13役を演じ分けています。
敵も味方も両方1人で演じるため、これまで数々の役をこなしてきた團十郎さんでも、感情の切り替えが難しく、私生活に役の感情を引きずってしまうといいます。
團十郎:やっぱり敵と味方を演じるって大変なんですよ。怨念・情念を1人で演じさせていただくことは苦しかったりするときもあるんです。
刈川:それは気持ちの切り替えが苦しいんですか?
團十郎:というか家に帰ってからが苦しいです。
刈川:演じるときよりも?
團十郎:演じる時はもう演じきってるんであんまりなんですけど。
■1人13役の舞台裏
大変なのは芝居だけではありません。13役を上演中に変えていく早替りも、一刻を争う舞台裏では入念な段取りが必要です。
舞台を見てみると、裏側にはけた後、急いで衣装とカツラを脱いで次の役に早替り。再び舞台に登場するまでの時間、わずか21秒という場面もありました。また、移動は駆け足。裏方のスタッフたちも連携プレーで進めていきます。
團十郎:私だけではなくて裏方の方々が、真剣にピットインしてタイヤを入れ替えるF1と同じように、順番・無駄が絶対ないように、パパッパッって。僕はもう(手を広げた)こういう状態で、脱ぐときは衣装をはがされる。爪痕がつきますからね、一生懸命やるから。場合によっては爪痕がギッてなっても無です。血が出ても無。眉毛をワッてつけて、カツラをグッてかぶって、走っていってギリギリみたいな。でも平然と出るみたいな。
刈川:衣装の中には、手袋5本指ソックスのようなアイテムも身につけていらっしゃいましたが、その脱ぎ着も大変ですよね
團十郎:もう5本指の足の方は、さすがに自分でやらないと指入んないんで、そこは自分でやります。でも手の方はもうみんながグッってはめてくれます。舞台では、とにかく誰の迷惑を考えず、自分を押し出さないといけないけれど、裏側に一歩入ると、誰にも迷惑をかけないように、切り替えないといけないです。自我が出ちゃダメなんです。
■團十郎になっても挑戦する姿勢
おととしに襲名し、その後も挑戦し続ける團十郎さん。そこには歌舞伎という伝統文化への思いがありました。
團十郎:みなさまでいう海老蔵は、今、團十郎になっちゃったんですけども、そいつが一生懸命、歌舞伎のためにやっていて、13役、体を張ってやって、多くの方々に見てもらいたいという思いでやっているというところは知ってほしいかなって思います。