【解説】原発語れない空気、払拭なるか? エネルギー自給率1割、電気代と電力逼迫どうする?
異常気象による猛暑で、夏「エアコンはつけっぱなしで寝る」のが推奨される時代にもなった。「電気代」に「安定供給」。家庭の不安もさることながら、エネルギーの調達は企業の競争力、国力に直結する。
では日本はどうエネルギーを「安価」に「安定的」に確保していくのか。
「第7次エネルギー基本計画」の策定に向けた議論が進む中で、経済界は「待ったなし」と原発再稼働や次世代原発(革新炉)についての具体策決定を迫っている。
経団連は先月、「原子力などによる電力の安価安定供給を確保すべき」などと求める提言を岸田首相に手交した。一方、経済同友会は「社会全体を覆う、原子力について語れない空気を払拭する」と表明した。
政治家が議論を避けがちな「原発政策」。だからこそ、我々一人ひとりが、「推進」であっても「反対」であっても、適切な情報のもとに意見を持たなければ、先送りのままで自前のエネルギー不足は解消されないのではないだろうか。(解説委員・安藤佐和子)
◆エネルギー自給率わずか1割強 他人事ではいられないはずのエネルギー政策
エネルギー自給率がわずか1割強しかない日本。高い海外依存度のつけは、ロシアのウクライナ侵攻後、日本を襲い、電気代は高騰した。また、エネルギー安全保障の観点からも、輸入燃料に頼る火力依存体質の問題点が浮き彫りとなった。エネルギー自給率を高めるためには、「国産」エネルギーと位置づけられる再エネと原発を増やすことが手段となる。
これまでの政府の計画では、2022年度の電源構成でシェア5.5%にとどまる原発を、2030年度目標では20~22%としている。たった6年後だ。しかし原発の再稼働は遅々として進んでいない。
加えて、先を見据えた「新たな安全メカニズムを組み込んだ次世代革新炉」についても「開発・建設に取り組み、廃炉を決定した原発の敷地内での建て替えについて、具体化を進めていく」と閣議決定されたものの、時期、規模、資金など、政府の具体的な方針は示されていない。
◆経済界、そろって「原発政策具体化」を迫る
こうした中、8月2日に開かれた「第7次エネルギー基本計画」策定に向けた議論を行う「総合資源エネルギー調査会・基本政策分科会」で、経済3団体はそろって原発再稼働はもとより、次世代革新炉についての方針決定の重要性を主張した。
経団連は脱炭素と経済成長の両立のためには、原発再稼働など原子力の最大限の活用が不可欠で、国が前面に立って取り組むべきと要望。その上で、原発のリプレースや新増設がなければ、2040年代から原発の設備容量が急減するというデータを示し、(立地選定から稼働までの)リードタイムが20年程度必要となるため、「次世代革新炉の建設具体化を急ぐ必要がある」と促した。
政府が「将来の目標導入量を示すなど、中長期的な政策上の位置づけを明確化することに期待を示している。一方、経済同友会は、現状認識として「2030年の温室効果ガス削減目標(2013年度比46%削減)の実現は厳しい状況」だと指摘。現状と正面から向き合って検証し、政府の意思を示すことが重要だとした。
「競争力のあるエネルギーを得られなければ、わが国は衰退の道を辿ることになる」とし、原発の再稼働・リプレース・新設・核燃料サイクルなどを含めた政策立案実行は「待ったなし」の状況だと迫った。特に次世代革新炉の立地選定は最も困難なプロセスで、国が前面に立って行うべきとしている。
◆「晴耕雨読の世界に戻る覚悟があればいいが…」経団連十倉会長
これに先立ち、経団連は長野県軽井沢で日本経済をリードする大企業経営者らが一堂に会し、集中討議する夏季セミナーを開催。駆けつけた岸田首相に、原発再稼働や新増設、リプレースの計画の具体化を急ぐよう求める要望を盛り込んだ提言を手交した。
その後の会見に臨んだ経団連・十倉雅和会長(住友化学会長)は、「どうしてもやはり原発は必要で、原発再稼働は急がなければならない」と強調した。脱炭素電源が原発と再エネである中で、「晴耕雨読の世界に戻る覚悟があればいい」が、再エネは自然条件で出力が変動する電源であることを指摘。
また、「日本の地形的にも非常に厳しい」と述べ、再エネ拡大には限界があるとの認識を示した。さらに原発についても「再稼働だけではすまない」と述べ、核廃棄物や核燃料サイクル、廃棄物を抑えるための革新炉など、全体での長期スパンでの議論を加速化する必要があるとの考えを示した。
◆日立はすでにアメリカのGEとの合弁会社で革新炉を開発中
また、ともに会見した経団連・東原敏昭副会長(日立製作所会長)は、日立は米国GEとの合弁会社で、すでにアメリカで次世代革新炉の高速炉の開発を行っていると明かした。
既存の原発の使用済み核燃料が、人体に影響しないレベルの放射線量に低減するまでには約10万年かかるとされているが、東原氏は高速炉を利用すれば300年程に短くでき、また発生する“核のごみ”の体積も、今の7分の1ほどに抑えられる可能性があることを話した。
東原氏は、“こうしたことが国民に伝わるようにディスカッションされていけば、原発に対する国民の理解も進んでいくのではないか”との考えを示し、第7次エネルギー基本計画に経団連として意見していくとの姿勢を示した。
政府が前面に出なければ進まない原子力についてはこれまで、経済同友会が指摘したように「語れない空気」が社会全体を覆って来た。「政治家は票を失うから避けたいテーマなんだよ」と経済界でもささやかれて来た。
経団連副会長の橋本英二氏(日本製鉄会長)は、そうした政府の及び腰な態度について「(再稼働について)『自治体の了解を取らなきゃいけないですよ』『避難計画はできていますか?』と政府がルールを決めておいて、自ら(政府)は前面に出ない、とこういうことでは話が進まない」と指摘し、政府のリーダーシップを求めた。
原発をめぐっては、2019年当時に経団連会長を務めていた中西宏明氏(故人)が「一般公開で討論すべき」との考えを示していたものの、「反対派が感情論で訴え、建設的な議論が見通せない」などの反対論が出たせいか、頓挫した過去がある。
しかし、自前のエネルギーが乏しく、電力確保に膨大な費用をかけている日本が、豊かに生きていくためには今後どうすべきなのか?国民はどうしたいのか? 国民一人ひとりが、適切な情報をもとに関心を持つことが、政治家に「具体的な計画」の実行を促すことにつながるのではないだろうか。
第7次エネルギー基本計画に向けた議論は、動画配信され、資料も公開されている。
https://www.enecho.meti.go.jp/committee/council/basic_policy_subcommittee/