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AIで命を救う 運転支援技術の最前線

2021年12月31日 12:07
AIで命を救う 運転支援技術の最前線

「クルマは便利な乗り物だが、時に凶器にもなり得る」。もしもクルマが凶器になることなく、この便利さだけを享受することができれば…と長年考えてきた自動車メーカーが、AIの技術を用いて未来を予測することで、事故を未然に防ぐ技術の開発を進めています。

■リスクになる前にリスクを防ぐ ホンダの先進技術

自動車メーカーのホンダは、2050年にホンダの自動車やバイクによる交通事故の死亡者ゼロを目指し、AIを活用した「知能化運転支援技術」の開発を進めています。これまでの運転支援は、自動車や歩行者などが「接近」した時など、事故が発生するリスクに対してドライバーに警告を出していました。

ホンダが2020年代後半の実用化を目指す新たな運転支援技術は、自動車や歩行者が「接近する前」に、ドライバーが“認識”しているかをAIで分析します。

自動車のフロント部分にあるカメラが運転中のドライバーの視線を捉えて、「ドライバーが歩行者に気付いていない」とAIが認識すると、シートベルトがきつく締まり、物理的に警告をしてくれます。将来は、ドライバーのアクセルの踏み間違いなどもAIが分析し、未然に防ぐことができるようになるということです。

■ドライバーの体調も予兆して事故を防ぐマツダの先進技術

マツダも2025年をめどに、運転手の状態を認識する新たな運転支援技術の導入を目指しています。その運転技術は「CO-PILOT 2.0」と名付けられています。「CO-PILOT」とは、日本語で“副操縦士”という意味です。

車内のカメラでドライバーの状態を分析し、運転席に座っている“操縦士”が、例えば気絶したりなど、運転が継続できないとシステムが検知した際に、“副操縦士”が登場します。

“副操縦士”は、運転ができなくなった“操縦士”の代わりに、クルマを自動で操作して、路肩などの安全な場所を探し停止させます。将来は、ドライバーの脳機能の低下による異常な視線の向きなど、危険状態の予兆を検知し、事前に安全な状態で停止させる技術も搭載させたいということです。

■今あるクルマに取り付けるだけで危険運転を遠隔管理

また、購入済みの乗用車や、バス、トラックなどに搭載する、運転手の危険運転を察知するAI技術も登場しています。タクシー迎車アプリなどを開発するMobility Technologiesが提供する、AIドライブレコーダー「DRIVE CHART」という法人向けのサービスです。

法人向けサービス「DRIVE CHART」は、送迎バスや外回り用の社用車などにすでに導入されています。「DRIVE CHART」はクルマの車内に取り付けるGPS内蔵のドライブレコーダーで、外向きのカメラと車内を向いたカメラの2台でセットになっています。

外向きのカメラで自動車や二輪車を、内向きのカメラで顔の向きや目の閉じ具合などをAIが検知します。運転中に脇見をしていたり、車間距離が狭かったりすると、AIが危険運転と認知して、ドライバーの上司など、管理者へリアルタイムでメールが届き、状況を通知してくれます。

運転終了後には、危険と認知された場所をドライバー自身もアプリで確認でき、危険シーンを動画で見ることもできます。また、社用車などでドライバーが変わった際にも、事前に顔認証と名前を登録することで、複数のドライバーを管理することも可能です。

担当者は「これまではドライバーが事故を起こすまでは、危険運転をしているかどうか管理できなかったが、運転中の危険度を可視化することで、ドライバーへの指導もしやすく、未然に事故も防ぐことができる」と説明します。

今後は、顔の位置などから居眠りかどうかを認知して、運転手や管理者に警告を出すことも検討しているといいます。

■やはり安全運転が命を救う

各自動車メーカーは自動運転・運転支援技術を、ドライバーが単なる「楽をする」技術とは捉えてはいません。もちろん、機微なハンドリングやアクセル・ブレーキ操作などが長時間に及ぶ際に、運転の負担を減らすという点で、ドライバーに楽をさせる意味合いもあります。

ただそれはドライバーの体力を温存させて「事故を減らす」ことが目的です。どんなにAI技術が発達したとしても、運転の主体が誰であろうとも、クルマを運転する時には、安全第一の意識を忘れてはなりません。

写真:マツダの先進技術デモ画面 顔の位置や目の閉じ具合などが数値化されている