×

「広がる格安スマホ」背景を読売記者が解説

2015年4月25日 1:21
「広がる格安スマホ」背景を読売記者が解説

 注目ニュースや話題を「読売新聞」の専門記者が解説する『デイリープラネット』「プラネット Times」。24日は「広がる格安スマホ」をテーマに、東京本社経済部・佐俣勝敏記者が解説する。

 最近、量販店や大手スーパーなどを中心に、店頭で消費者に説明をしながら「格安スマートフォン(スマホ)」販売を行う店舗が増えている。背景には、消費者の裾野を広げたいという考えがあるという。

 格安スマホは2013年秋頃に登場したサービスだ。スマホには契約する通信会社を決める「SIMカード」が入っているが、割安な通信料で使える格安のSIMカードと、中国製など最新端末よりはやや性能の劣る端末を組み合わせることで、端末代と通信料がいずれも安価になる。

 格安スマホは当初、インターネット販売でSIMカードを購入し、自分で端末に差して使うケースが主流だったが、2014年4月に流通大手のイオンが参入して以降、取り扱う店舗が増え続けている。家電量販店ではビックカメラがSIMカードの設定などを行う専門のカウンターを設けているほか、ヨドバシカメラも5月から対面販売を始める。

 2014年秋に格安スマホに参入した楽天はネットでの販売が中心だったが、東京・渋谷とプロ野球球団「東北楽天ゴールデンイーグルス」の本拠地がある宮城・仙台に加え、24日からは東京・二子玉川にも専用カウンターを設けた。2015年秋にはTSUTAYAも参入予定で、対面販売の店舗は増え続けている。

 店頭での対面販売が増えている理由の一つには「分かりやすさ」がある。格安なSIMカードを買ってスマホに入れても設定が必要なため面倒に思う利用者が多いが、対面の店舗で説明を受けながら購入できることは利用者にとって大きなメリットだ。端末と組み合わせた格安スマホを購入する際も、実際に端末に触れて握った感触や操作性などを試すことができ、それまで使っていた電話番号を移行して使う手続きなどが窓口でできる店舗もある。

 店舗があることにより、ちょっとした使い方などを教わることもできるほか、スマホに詳しい一部の層だけでなく、あまり詳しくない高齢者層なども買いやすくなるため、店舗にとってもターゲットを広げることにつながる。当初はスマホなどに詳しい30代、40代の男性がネットで購入するものとされていたが、実際、イオンでは購入者の3人に1人が50歳以上で、全体の約37%となっている。

 「5月のSIMロック解除義務化」も店舗展開を進める理由の一つになっていると言える。携帯大手のスマホは、例えば「A社の端末ではA社のSIMカードのみ」「B社の端末ではB社のSIMカードのみ」で、他社のカードが使えないよう端末に電子的な鍵「SIMロック」がかかっている。

 NTTドコモやソフトバンクモバイルは一部のスマホで解除に応じてきたが、5月以降に発売されるスマホについては、原則としてSIMロック解除が義務付けられるため、どの社の端末かに関係なく、SIMカードを差し替えれば使えるようになる。

 これまでは、一度スマホを買うと同じ通信会社の回線を使い続けるのが一般的だったため、通信会社を乗り換える際には端末ごと買い直す必要があった。しかし、SIMロックを解除すれば、今後は使い慣れた端末のまま、通信回線の契約だけ他の通信会社に乗り換えることができるようになる。

 将来は、他の携帯大手に乗り換えたり、格安SIMカードを差して割安な通信料金で利用したりといった使い方が簡単にできるようになり、通信料金を下げる効果が期待されている。特に国内の携帯大手の料金プランは、データ通信を多用するユーザー向けのプランが多く、海外と比べてあまりスマホを使わない人向けの安い料金プランが少ないことが指摘されてきた。

 SIMロック解除の義務化で割安な通信料金が広がれば、利用者にとっては選択肢が広がる。故障の際の修理の対応などサービスの面では大手3社の方が優れているのは事実だが、割高でも最新の端末や最高のサービスを求める人は大手で買い続け、逆にほとんどスマホを使わないような人は格安SIMを買って「格安スマホ」を使うといった選択の幅が広がると期待されている。

 総務省は「携帯電話業界が大手3社による寡占の状態となっていることが料金の横並びや高止まりにつながっている」とみている。現在、格安の通信サービスの利用者は6%程度だが、総務省は2016年中に10%程度まで高めたい考え。そのため、格安な通信サービスが今まで以上に広がるとみられていて、逆に携帯大手3社は長期契約に応じた利用者には手厚いサービスをするなど何らかの対抗策を打ち出す可能性はある。

 一方、ユーザーにとっての注意点が3つある。

 1.通話「使い放題」プランなし

 格安SIMや格安スマホといっても、大手のような「通話が定額で使い放題」のようなプランはないので、通話を多用する人は月々の料金が上がってしまうことにもなりかねない。格安のサービスを使う際は、110番など通話機能が必要な場合以外は「LINE」や「050プラス」「スカイプ」といったインターネット回線を使ったIP電話を使うのが一般的だ。

 2.SIMロック解除義務化、対象は5月以降発売の端末

 SIMロックの解除義務化は5月以降に発売になる端末で、これまで販売されている端末は対象外だ。従来のようにSIMロックを外せるのは一部だけで、人気のアイフォーン(iPhone)6などはSIMロックを外せない。

 3.会社によって通信方法に違い

 SIMロックを解除しても、どの通信会社のSIMカードでも使えるわけではない。世界中で販売されているアイフォーンのような端末は様々な電波の周波数に対応しているが、アンドロイドを使ったスマホでは、各社がそれぞれの通信会社の電波帯で効率良く動くように基本ソフトを作り込んでいる。通信の方式に違いもあるため、例えばKDDIのスマホにドコモのSIMカードを入れても、通信などができない可能性がある。

 このため、スマホの仕組みに自信のない人は店舗などで自分のスマホがちゃんと動くのか確かめてから買うことをお勧めする。一部の店舗ではテスト用のSIMカードで動作を確認することもできるので、「せっかく買ったのに使えなかった」ということがないよう注意が必要だ。

 注意点はあるが、スマホについて利用者の選択の幅が広がることは間違いない。格安SIMカードはスマホだけではなくタブレット型端末でも使える。割安な通信料金で使えるサービスがあるのだと知っておいて損はないし、特にスマホとタブレット、またはスマホを2台持っていて1台はあまり使わないような人には魅力的かもしれない。

 スマホは10年前には信じられなかったような「手のひらに収まる高性能のコンピューター」だ。海外では中古のスマホと最新の新品のスマホが並んで売られているようなケースもある。今後は国内でもSIMロックを解除した中古スマホが中古車や古本のように一般的になるかもしれない。