経済制裁で日本とロシアの関係に… 北海道の漁業に起きた“異変“
2022年2月、ロシアがウクライナへの軍事侵攻を開始。各国とともに日本がロシアに経済制裁を科す中、漁業交渉は難航し、一部で例年通りの漁ができなくなりました。北海道の漁業で起きたこととは。
■貝殻島で急増した「臨検」
「胃に穴があくかと思った」。北方領土・貝殻島でのコンブ漁を振り返り、そう表現した北海道の漁業関係者。漁を終え帰港する時に、腰に銃を携えたロシア国境警備局に船を停止させられた「臨検」の様子を話してくれました。臨検とは、各漁船がきちんと日露間の交渉にのっとった漁をしているかを確認するもの。必要書類を提示させ、コンブ以外のものをとっていないかなどを確認されます。
「1回の臨検は10分から15分程度だから操業に影響するものではない。ただ、相手は銃を腰に下げているのに対してこちらは丸腰。恐ろしい思いをした」とも、さきほどの漁業関係者は話します。
北海道庁によりますと、2022年貝殻島で行われた臨検の数は、前年比4.2倍増の366回。データが残っているこの10年間で、最多となりました。
■漁の解禁日に間に合わない…大幅に遅れた日露交渉
日本とロシアの間ではこれまで、漁業に関する交渉が長く続けられてきました。しかし、2022年は交渉の日程調整に手間取りました。そのひとつが「日露さけ・ます漁業交渉」です。さけやますは、川で生まれ海を回遊した後に、生まれた川に戻ってくるという習性を持っています。こうした魚については、国連海洋法条約で「生まれた川の国が利益と責任を持つ」と定められています。
4~7月ごろにかけて北海道沖などでとれるさけやますの多くは、ロシアの川で生まれた魚です。そのため日露間で交渉を行い、漁獲量の上限を決め、日本がロシアに漁業協力費を支払うことを条件に「生まれた国」ではない日本が漁を行うことができるのです。
例年、北海道のさけ・ます漁の解禁日は4月10日。それまでに交渉を妥結させるのが通例でした。過去、交渉が長引いて4月10日以降に結論を持ち越すときには、ロシアから「交渉中ではあるものの、出漁してもいい」という了承を得て、政府間で交渉を続けながらも地元漁業者は出漁をしていました。
しかし、2022年はロシアからの了承が得られず、交渉と並行しての出漁はできませんでした。交渉の妥結を待ってから出漁の準備を始めた結果、例年の解禁日から約3週間遅い5月3日、ようやく漁に出られました。
■出漁の遅れや臨検の急増…専門家「より厳しい状況になった」
他にも、日本からサハリン州への協力金の支払いが滞り、漁業協定が一時停止されたり、経済制裁の影響でロシアへの国際郵便が送れずロシア水域でのサンマ漁の許可証が申請できなくなったりしました。
北海学園大学の濱田武士教授は、「戦争前からロシアの国境警備が厳しくなっていた中で、さらに厳しい状況になったという印象」だと話します。
厳しい状況下で行われた、2022年の北海道の漁業。不安やとまどいが広がる中、2023年の漁はどうなるのでしょうか。