【解説】日銀・政策の修正あるのか? 植田新総裁就任会見を読みとく
日本銀行の新たな総裁に経済学者の植田和男氏が就任し、10日から新体制が始動しました。植田新総裁は10日夜、就任会見を行いました。植田新総裁の就任記者会見について、日本テレビ経済部・宮島香澄解説委員が解説します。
◇ ◇ ◇
――まずこの会見は植田総裁として初めての会見となりましたけれども、どんな印象でしたか。
まず、記者の質問に一つ一つ丁寧に答えて、難しい問題でもわかりやすく話そうとされていると感じました。そして、金融政策に関してはかなり慎重に言葉を選んでいたという印象ですね。今までの学者としての考えと政策担当者としての判断は違う部分もあるかもしれないということを、総裁に決まってからずっと考えていらっしゃったということでした。
それから、笑顔が浮かんだのは、座右の銘を聞かれたときに、ちょっとそれは考えたことがないということで、植田さんは、「つらいことがあっても明るく粘り強く」やっていくとおっしゃいました。
これからの金融政策については、全体として、この前、国会でお話しされたことと、大きな違いはありませんでした。
まず抱負として、物価安定の達成の総仕上げに全力を尽くすと。そして、金融システムの安定にも全力を尽くすということを最初におっしゃいました。
次に、欧米の金融不安についてどう考えるかという質問に対しては、「現時点では大きな影響はないとみる」と話しました。ただ、会見の後半の方で、世界の景気の下振れリスクに関しては十分認識されているという印象を受けました。
それから「今の金融政策は適切だ」と、これは国会と同じように言いました。そして金融緩和を続ける考えを示しました。
さらに、ご自分の目標として「できるだけ早く物価目標2%を達成したい」と。ただ、これは「そんなに簡単なことではない」ともおっしゃいました。
それから金利なんですけれども、「現状は大幅に金利を上げる状況ではない」と話しました。
また、マイナス金利政策についても「今は必要だ」と話しました。
全体的に前の総裁の時代の金融政策を当面はそのまま続けるということを話していました。
――宮島さんは慎重な印象だったということなんですけれども、今後、新総裁が前の黒田総裁の10年の金融政策の副作用にどう対応していくかという質問もありましたけども、ここは注目ですね。
そうですね、副作用についてもいろいろ質問が出たんですけれども、10年間の黒田総裁の任期でデフレを脱却したり効果もあったとされますが、一方で負の遺産もありました。
まず、「日銀の資産のひずみ」、日銀がたくさん国債を持っているような状況です。「市場機能の低下」。つまり、金利が変動して経済にアラームを鳴らすなど、市場が経済に素直に反応する機能が低下しました。
それから「財政規律の緩み」。低金利ですから、国の予算を組むのも、利払いが少なくてすむということで財政規律が緩みました。
また、「円の信認の失墜リスク」。これは今、盛り上がってるわけではないですけれども、このままいくと、本当に日本の円は大丈夫だろうかという心配が出てきます。
――植田さんは岸田総理大臣と会談もされましたよね。
はい、岸田総理大臣と話をしまして、終了後、「政府と意思疎通を密にする」と記者に話しました。
また、政府とこれまで共同声明を出しているんですけれども、これも「ただちに見直す必要がない」ことで一致したということです。
全体としてはもちろん、新総裁が今、突然、大きな変更を言うと、それだけでもまだ準備ができてない市場が大きく動きますので、ご自身が思っているより慎重におっしゃるとは思うんですけれども、いずれにしろ政権と足並みをそろえて、今までの継続をしていくというお話でした。
こうした政権とのコミュニケーションは非常に重要になると思います。
――各所とのコミュニケーションは、植田さんが力点を置いているところでもありますよね。
そうですね、黒田前総裁は安倍政権に、政策の一致を前提に選ばれて、スタートしたという感じがあります。
今回、もちろん、岸田総理は植田さんを信頼して選んだわけですけれども、事前にものすごく調整したというような印象もありません。ですからこれから、政権との時々のコミュニケーションは非常に必要だと思います。
植田新総裁の課題を挙げました。
「コミュニケーションの再構築」。これは市場との関係、政権との関係、世界との関係、どちらともコミュニケーションが大事。植田総裁も繰り返しおっしゃっています。
それから「市場機能の回復」。この二つに関してはできるだけ早く植田総裁として解決したいと考えていると思います。日銀と政府が同じ方向を見て、そして市場機能を何とかして回復させようとしていることを発信することも大事です。今までのいわゆる異次元緩和を大きく変えるとなりますと、いわゆる安倍派への配慮も必要となってきます。
それから残りの二つに関しては、どちらかというと中長期的な課題となってくると思います。
「物価安定目標」。総裁も積年の課題だというふうにおっしゃっていますけれども、会見で「そう簡単ではない」ともコメントしています。
それから日銀の資産は、これだけ国債を買ってどうバランスを取っていくか。相当、長い時間をかけて対応していく必要がありそうです。
――一方で気になるのが、会見でもちょっと垣間見えましたけれども、植田総裁のお人柄についてお聞きしたいんですがどんな方なんでしょうか。
日本テレビが、植田総裁の小さい頃を知る静岡在住のおじさんにうかがったところ、「小さい頃から本当に頭がよかった」と。「両親の実家に来ても、トランジスタラジオで英語を聞いているなど、とても勉強熱心だった」ということでした。
それから、日銀で一緒に仕事をしたこともある門間氏(元日銀理事)は「理論だけではなく、実際にそれが現実に適用できるのかといったところを細かく議論していた」と。学者として筋が通りながらも、現実主義であることを挙げていました。
会見の中で、植田総裁にどこが今までと違うのかという質問がありまして、「学者は自分がやりたいところを詰めて考えていくという仕事だったけれども、政策担当者となったからには全部を見て判断をしなければいけない」と。だから学者としての自分と政策判断が完全に一致するとは限らないとお話しされていたのが印象的でした。
見方によっては、植田さんは、今の金融政策の一部分に関しては、学者としては賛成ではない部分もあるのかなと私も感じていたんですけれども、今これだけ長いことやってきた金融政策を変えるというのはそれはまた大きなショックがあります。そうした難しい中で金融政策を丁寧にやらなければいけない。新総裁には期待が本当に大きいと思います。
◇ ◇ ◇
植田新総裁は今週、アメリカ・ワシントンで行われるG7などで日銀総裁として国際デビューを果たします。ここまで経済部の宮島解説委員とお伝えしました。
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――まずこの会見は植田総裁として初めての会見となりましたけれども、どんな印象でしたか。
まず、記者の質問に一つ一つ丁寧に答えて、難しい問題でもわかりやすく話そうとされていると感じました。そして、金融政策に関してはかなり慎重に言葉を選んでいたという印象ですね。今までの学者としての考えと政策担当者としての判断は違う部分もあるかもしれないということを、総裁に決まってからずっと考えていらっしゃったということでした。
それから、笑顔が浮かんだのは、座右の銘を聞かれたときに、ちょっとそれは考えたことがないということで、植田さんは、「つらいことがあっても明るく粘り強く」やっていくとおっしゃいました。
これからの金融政策については、全体として、この前、国会でお話しされたことと、大きな違いはありませんでした。
まず抱負として、物価安定の達成の総仕上げに全力を尽くすと。そして、金融システムの安定にも全力を尽くすということを最初におっしゃいました。
次に、欧米の金融不安についてどう考えるかという質問に対しては、「現時点では大きな影響はないとみる」と話しました。ただ、会見の後半の方で、世界の景気の下振れリスクに関しては十分認識されているという印象を受けました。
それから「今の金融政策は適切だ」と、これは国会と同じように言いました。そして金融緩和を続ける考えを示しました。
さらに、ご自分の目標として「できるだけ早く物価目標2%を達成したい」と。ただ、これは「そんなに簡単なことではない」ともおっしゃいました。
それから金利なんですけれども、「現状は大幅に金利を上げる状況ではない」と話しました。
また、マイナス金利政策についても「今は必要だ」と話しました。
全体的に前の総裁の時代の金融政策を当面はそのまま続けるということを話していました。
――宮島さんは慎重な印象だったということなんですけれども、今後、新総裁が前の黒田総裁の10年の金融政策の副作用にどう対応していくかという質問もありましたけども、ここは注目ですね。
そうですね、副作用についてもいろいろ質問が出たんですけれども、10年間の黒田総裁の任期でデフレを脱却したり効果もあったとされますが、一方で負の遺産もありました。
まず、「日銀の資産のひずみ」、日銀がたくさん国債を持っているような状況です。「市場機能の低下」。つまり、金利が変動して経済にアラームを鳴らすなど、市場が経済に素直に反応する機能が低下しました。
それから「財政規律の緩み」。低金利ですから、国の予算を組むのも、利払いが少なくてすむということで財政規律が緩みました。
また、「円の信認の失墜リスク」。これは今、盛り上がってるわけではないですけれども、このままいくと、本当に日本の円は大丈夫だろうかという心配が出てきます。
――植田さんは岸田総理大臣と会談もされましたよね。
はい、岸田総理大臣と話をしまして、終了後、「政府と意思疎通を密にする」と記者に話しました。
また、政府とこれまで共同声明を出しているんですけれども、これも「ただちに見直す必要がない」ことで一致したということです。
全体としてはもちろん、新総裁が今、突然、大きな変更を言うと、それだけでもまだ準備ができてない市場が大きく動きますので、ご自身が思っているより慎重におっしゃるとは思うんですけれども、いずれにしろ政権と足並みをそろえて、今までの継続をしていくというお話でした。
こうした政権とのコミュニケーションは非常に重要になると思います。
――各所とのコミュニケーションは、植田さんが力点を置いているところでもありますよね。
そうですね、黒田前総裁は安倍政権に、政策の一致を前提に選ばれて、スタートしたという感じがあります。
今回、もちろん、岸田総理は植田さんを信頼して選んだわけですけれども、事前にものすごく調整したというような印象もありません。ですからこれから、政権との時々のコミュニケーションは非常に必要だと思います。
植田新総裁の課題を挙げました。
「コミュニケーションの再構築」。これは市場との関係、政権との関係、世界との関係、どちらともコミュニケーションが大事。植田総裁も繰り返しおっしゃっています。
それから「市場機能の回復」。この二つに関してはできるだけ早く植田総裁として解決したいと考えていると思います。日銀と政府が同じ方向を見て、そして市場機能を何とかして回復させようとしていることを発信することも大事です。今までのいわゆる異次元緩和を大きく変えるとなりますと、いわゆる安倍派への配慮も必要となってきます。
それから残りの二つに関しては、どちらかというと中長期的な課題となってくると思います。
「物価安定目標」。総裁も積年の課題だというふうにおっしゃっていますけれども、会見で「そう簡単ではない」ともコメントしています。
それから日銀の資産は、これだけ国債を買ってどうバランスを取っていくか。相当、長い時間をかけて対応していく必要がありそうです。
――一方で気になるのが、会見でもちょっと垣間見えましたけれども、植田総裁のお人柄についてお聞きしたいんですがどんな方なんでしょうか。
日本テレビが、植田総裁の小さい頃を知る静岡在住のおじさんにうかがったところ、「小さい頃から本当に頭がよかった」と。「両親の実家に来ても、トランジスタラジオで英語を聞いているなど、とても勉強熱心だった」ということでした。
それから、日銀で一緒に仕事をしたこともある門間氏(元日銀理事)は「理論だけではなく、実際にそれが現実に適用できるのかといったところを細かく議論していた」と。学者として筋が通りながらも、現実主義であることを挙げていました。
会見の中で、植田総裁にどこが今までと違うのかという質問がありまして、「学者は自分がやりたいところを詰めて考えていくという仕事だったけれども、政策担当者となったからには全部を見て判断をしなければいけない」と。だから学者としての自分と政策判断が完全に一致するとは限らないとお話しされていたのが印象的でした。
見方によっては、植田さんは、今の金融政策の一部分に関しては、学者としては賛成ではない部分もあるのかなと私も感じていたんですけれども、今これだけ長いことやってきた金融政策を変えるというのはそれはまた大きなショックがあります。そうした難しい中で金融政策を丁寧にやらなければいけない。新総裁には期待が本当に大きいと思います。
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植田新総裁は今週、アメリカ・ワシントンで行われるG7などで日銀総裁として国際デビューを果たします。ここまで経済部の宮島解説委員とお伝えしました。