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【解説】「少子化対策」の裏側は? 「扶養控除」や「財源」めぐり…税と予算の闘い

2023年12月30日 11:00
【解説】「少子化対策」の裏側は? 「扶養控除」や「財源」めぐり…税と予算の闘い

岸田政権の看板政策「異次元の少子化対策」。政策の中身や財源をめぐり子育て世帯から様々な批判が巻き起こる中、2023年末の決着までの過程を追った。

■少子化対策 「2つの不満」が噴出

少子化対策の強化に向けて、2028年度までに新たに確保するとした財源は3兆6000億円。対策の柱は所得制限を完全撤廃し、給付の対象も高校生世代にまで広げるとする「児童手当」などだ。2023年6月、「異次元の少子化対策」を掲げる政府に期待が高まる中、具体案が出てくるたびに国民の一部から不満が噴出した。

1つ目の不満は「扶養控除」だ。政府が示した案では、まず16歳から18歳までの高校生などに月1万円の児童手当を新たに支給する。これに伴って、現在16歳から18歳の親などに適用されている扶養控除(所得税38万円と住民税33万円)の取り扱いが焦点となったのだ。

児童手当を支給しながら、中学生以下に対しては適用されていない「扶養控除」を高校生世代にだけ維持すれば「二重取り」「不公平」になるのではないか。2023年5月下旬頃から、そんな議論が始まった。扶養控除の見直しによっては、実質負担増になる世帯が出かねないことに対し、子育て世帯からは不安と批判の声が上がった。

2つ目の不満は「財源」についてだ。政府は少子化対策集中期間の2024年度から予算を増額し、3年目には、およそ3兆円を追加することを検討していた。その財源は、歳出改革などで2兆円以上を捻出し、残りの1兆円弱は病気やケガのための医療保険を軸に社会保険料の仕組みで集める方針だった。

しかし、この「社会保険料の上乗せ」に対して批判が出たことから、岸田首相は「国民に実質的な追加負担を求めることなく、少子化対策を進めてまいります」と釈明した。政府は財源について、社会保険料は上乗せせずに、医療費などの「歳出改革」で賄う方針を示し、詳細な財源の決定は年末の予算編成に見送られた。

大まかな数字も出さなかった理由について、政府関係者は「社会保険料の値上げという案が炎上したからだろう」と解説した。

■「扶養控除」はどうなった? 税をめぐる「自公」の闘い

1つ目の不満、「扶養控除」はどう解決したのか。11月上旬、来年度の税について話し合う自民党・公明党の税制調査会が始まろうとしていた。新たな対策で、負担が増える世帯が出ることをどう考えるかが焦点だ。児童手当を12万円以上もらっても、所得税や住民税の扶養控除がなくなると、家庭によっては負担が増えてしまう。子育て世帯の警戒感は引き続き高いままだった。

政府関係者は「総理も扶養控除の廃止はKY(空気読めない)というニュアンス」「廃止絶対ないとは言えない。だけど、さすがにこれだけ言われて、って感じですよね。」と打ち明け、扶養控除を完全に廃止することはないだろうという姿勢を見せた。

一方、扶養控除を完全に廃止しなくても、一部を減らすことは検討され続けていた。一度批判されている対応策だけに、政府関係者らも慎重になっていた。「扶養控除縮小」などの報道が出るたびに、口をつぐむようになり、「いろんな選択肢がある中で、縮小というメッセージだけが出ると、反発が出る」と、いらだちを見せることもあった。

自民党と公明党の税制調査会では、最終局面まで扶養控除の取り扱いが争点となった。自民党は、扶養控除による減税幅が大きい人は「富裕層」だとし、扶養控除をそのまま残すと、所得の高い人を優遇することになるとして、現行のまま残すことには反対した。

一方で、公明党は「少子化対策」の機運に水をさすとして、扶養控除の維持を主張。公明党の西田税調会長は報道陣に対して「扶養控除廃止とか、縮小ということについて、すべきでないという意見が複数あった」と述べ、自民党との意見の違いを連日、大々的に発信してみせた。

最終的に公明党は、扶養控除の見直しの際に、ほかの制度に不測の影響が出ないように、1年かけて事務的に対応することを条件に納得した。自民公明両党は、16歳から18歳の親などへの所得税の扶養控除を38万円から25万円に、住民税の扶養控除を33万円から12万円に引き下げる方針で一致。公明党の要求に対応できるよう、正式な決定は1年遅らせることでも合意した。関係者は、全ての子育て世帯で現状より支援が増える設計にしたことで「一定の理解は得られた」と安堵(あんど)する。

■「少子化財源」どうなった? 予算をめぐる「闇の中」の闘い

2つ目の不満、財源はどう解決したのか? 国民の負担を増やさないよう歳出改革で捻出するとしていた少子化対策予算。与党の税制調査会の議論が結末を迎える頃、少子化財源として期待されている医療の歳出改革のカギを握る「診療報酬改定」の交渉は佳境を迎えていた。診療報酬は医療の対価として医療機関に支払うものだ。

自民党関係者は、この交渉について「医師会と厚労省、財務省と官邸とが“闇の中”でやり合う闘いだ」と話す。表には、ほとんど交渉の内容が出てこないまま、時間が過ぎた。厚労省関係者は、交渉が山場を迎える12月、「医師会側が負けそうだ」と話し、財務省関係者は「医師会に負けると思う」と話すなど、お互いに疑心暗鬼になっていた。

財務省は「コロナ禍で病院には、病床の確保で5兆円をまいているので、ほとんどの病院は黒字」としていた。また、診療所の利益率が他の全産業と比較して高いと調査のデータを示しながら発信し、診療報酬はマイナスにして国民の保険料を減らすべきだと主張していた。一方、医師会などは、医療従事者の「賃上げ」のために診療報酬のプラス改定を主張し、真っ向から対立していた。

決着は唐突だった。12月15日、金曜日午後、武見厚労相と鈴木財務相が岸田首相と面会し、診療報酬のうち、医師の報酬などにあたる「本体」部分を0.88%引き上げることが決まった。14日夜まで財務省、厚労省関係者ともに「距離が開きすぎている」と話していたことが、うそのような、あっさりとした決着だ。「首相裁定」だった。政府関係者は「ここまで距離があると総理しかいない」と決着の舞台裏を明かした。

財務省が主張していた診療所などへの報酬はマイナスになったものの、看護職員などの賃上げに0.61%、その他、薬局の勤務薬剤師などの賃上げに0.28%と、賃上げによる加算が大部分を占め、薬価・介護の改定と合わせると国民が支払う保険料も増えることになった。

岸田首相は、少子化対策の財源は医療と介護分野での歳出改革で賄い、国民の保険料負担を増やさず1兆円を捻出するとしていたが、医療従事者の賃上げのため保険料の負担増は避けられなかった。政府関係者は「正直、政府は少子化財源を確保すると言ってたのに、保険料が増えてしまい、説明が違うじゃんとは言われるだろう」「もともと、医療従事者の賃上げもする中、医療費を削って少子化財源に回すのは無理なスキームだった」と肩を落とした。

また、政権が政治資金問題で揺れる中であることにも触れ、「自分の政権が壊れるかもしれない時に、細かいことは考えられないということも影響したのではないか」と分析した。

■「異次元の少子化対策」効果は出るか?

税も予算も「少子化対策」に焦点があたった2024年度予算。関係者は子育て世帯の意見を聞き、反映しようと、もがいていたと感じる。しかし、これで子どもは増えるのだろうか? 子どもがいる世帯への支援は強化された一方で、医療や介護分野の歳出改革で当初想定していたような予算の確保は、万全にはできなかったと言える。

自民党関係者や政府関係者は、当初から「婚姻率の低下が少子化の原因」などと疑問を呈していた。分かりやすい政策にお金をばらまくだけではなく、知恵を絞った少子化対策ができないものか。意思決定プロセスを振り返り、少子化の解決に向けて次のステップが必要ではないだろうか。

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