事故ゼロ目指し…ホンダ自動運転レベル3へ
自動車メーカーのホンダの本社がある東京・青山のホールの一室には、2台の真っ赤な軽自動車が並んで飾られていた。1台は、ホンダ初の軽自動車として1967年に発売された「N360」。その旧車の横に飾られていたのは、今月発売された新型「N-ONE」。デザインは「N360」をモチーフにしているため、見た目は似ているが、こちらには自動ブレーキなどの最新の運転支援技術「レベル2」が搭載されている。
■「レベル3」で何が変わる? 「運転支援」と「自動運転」
ホンダといえば先日、世界で初めて自動運転「レベル3」を搭載した乗用車を、今年度中に国内で販売すると発表した。世界でも初めてという「レベル3」とは、一体どういうものなのだろうか。
自動運転システムは、性能に応じて「レベル1」から「レベル5」までの5段階に分かれている。国内では、ホンダのほか、日産やSUBARUから「レベル2」の運転支援機能が搭載されたモデルが発売されている。
車線変更の際の自動アシストや、前方の車を追尾する機能などでドライバーの運転をサポートする。この「レベル2」は“自動運転”ではなく“運転支援”とされ、ドライバーは前方や後方を注意するなどの義務を果たす必要がある。
では、「レベル3」になったら何が変わるのだろうか。「レベル3」になったとしても、前方の車を追尾する機能など、「レベル2」と大きくは変わらない。「2」と「3」の大きな違いは、運転する“主体”が「人」から「システム」に変わることだ。
不測の事態が起きた場合に、ドライバーがすぐに運転できるよう備えておく必要はあるものの、高速道路の渋滞時の低速走行など、一定の条件下に限り、ドライバーは車載モニターで映画やテレビなどを観ることが出来るようになるのだ。
■トヨタや日産は公共交通機関の自動運転を目指す
一方、トヨタや日産が、自動運転「レベル3」以上の技術を持っていないわけではない。実際トヨタは、特定エリアにおいて完全自動運転が可能な電動小型バス「e-Palette」を発表している。このバスには運転席はなく、全てシステムが操作する「レベル4」の自動運転だ。
また、日産も自動運転タクシーの実証実験を進めていて、2020年代の早期に本格的なサービス提供を目指す方針だ。
しかし、これら自動運転は、いずれも公共交通機関としての活用を想定していて、トヨタも日産も、乗用車への「レベル3」投入は今のところ考えていないという。
■ホンダがレベル3を目指すワケ 「交通事故ゼロ社会」の実現
各社、二の足を踏む中、ホンダが自動運転「レベル3」の実用化を目指すのはなぜなのか。ホンダは今回の取り組みを「交通事故ゼロ社会に向けた『チャレンジ』のひとつ」と位置づけている。
各社に先駆けて「レベル3」を実用化することで、現状の「レベル2」の技術向上に生かし、「交通事故ゼロ社会」の実現を目指していきたいと考えているのだ。
ホンダが「交通事故ゼロ社会」にこだわる背景には、車の発展した歴史がある。1960年代後半。「一家に1台」のマイカーの普及が加速し、冒頭でも紹介したホンダの軽自動車「N360」のヒットが急速なモータリゼーションに拍車をかけていた。
一方、60年代後半から70年にかけ、自動車の保有台数が約2倍になったことで、交通事故の死亡者数が急激に増加するなど、社会問題となっていた。
そこでホンダは、車を販売している自らが交通安全の啓発を行う社会的責任があると考え、いまから50年前の1970年に、自動車メーカーとしては初めて、「安全運転普及本部」を社内に発足させた。そして50年経ったいまでも、事故のない社会を実現するため、活動を続けているという。
自動車メーカー各社は、自動運転に潜む事故のリスクや防ぎ方を説明する社会的責任が、今後一層求められることになるだろう。