小学校35人学級へ教育の質は上がるのか?
公立小学校で1クラスの上限を段階的に35人に引き下げることが決まった。全学年を対象にした学級編成基準の見直しはおよそ40年ぶりで、新型コロナウイルスの感染拡大をきっかけに実現した。
■40年ぶりの見直しは、コロナと政治決着で
小中学校で今の1クラス最大40人を小規模にすることは、文部科学省がずっと求めてきたことだ。しかし、少人数にすることが学力向上などにつながるかどうかで意見が分かれ、最近は、習熟度別クラスや生徒指導など目的を絞って追加で教員をつける「加配」の形がとられてきた。
今回およそ40年ぶりに、小学校一律の少人数化に踏み切ったのは、新型コロナウイルスの感染拡大で教室の「密」を避けるよう強い要望があったことと、これを背景に萩生田文部科学大臣らが強気で押しきったからだ。
小学校に限って段階的に35人を上限の学級にすることは、来年度の予算編成の最終局面、大臣同士の最後の折衝の前日夕方に土壇場で決まった。文科省の幹部さえ「驚いた」と話していて、教育政策としての議論が尽くされたようには見えない。
■地方の予算が都市部に行くのでは?の心配
感染拡大などで公立小学校の教員の負担が増えていることから、現場や保護者からは歓迎の声が大きい。ただ、今回全国一律に学級規模を縮小して担任の教員を配置するために、これまでクラス担任のほかに追加でつけてきた、生徒指導・習熟度別クラスなどを目的とする「加配」の教員の一部は減らすことになる。
実は今、小学校で35人を超えるクラスがあるのは主に都市部で、島根県はゼロ、鳥取県・徳島県は1クラスだけ。実質的には、35人学級への変更で、教員予算を地方から都市部に移すことになるのではないかという心配がある。
■減る小学校教員志望・授業の質は
35人以下学級にするために、今後5年間で小学校の教員を約1万3000人増やす。しかし、小学校の教員志願者は減っていて、採用試験の倍率は8県で2倍を切っている。一番低い新潟は1.2倍だ。
教員を増やそうとすると倍率がさらに下がり、教員の質を保てなくなるのではないかと心配する声が上がっている。小学校の教員は、教員免許を取るための要件から地元の大学の教育学部出身者の割合が多く、小学校が時代に合わせた多様性を持てないという指摘もある。
35人学級に変わるにあたって、多様な人材が小学校の教壇に立てるよう教員免許の在り方を考えたい。いろんな学部の出身者や企業で働いていた人が教員になりやすくし、スクールカウンセラーなど外部人材の活用で、総合的に授業や教育の質を高める必要がある。
少子化が急速に進む日本で、未来を背負う子供たちの教育は最重要課題だ。国の財政が厳しい中で、当の子供たちにツケを残さないようにしながら、さまざまな人が次の時代に向けた教育の当事者として力を尽くしたい。