再エネ導入で遅れる日本 脱炭素への“壁”
再生可能エネルギーの導入を進める動きが世界で加速している。日本でも、菅政権が2050年に二酸化炭素の排出を実質ゼロとする「カーボンニュートラル」の目標を掲げ、その実行計画でも、再生可能エネルギーの導入を「最大限進める」と明記した。
現在、日本の電力において再生可能エネルギーが占める割合は18%。この割合を上げていく上で、いま日本は“壁”に直面している。
■危機感を抱く民間企業
そもそもなぜ再生可能エネルギーの導入を推し進める必要があるのか。地球環境のためというのはもちろんだが、背景には世界情勢がある。実は、再生可能エネルギーへの切り替えができなければ、サプライチェーンからはじき出されることになるかもしれない。
例えば、IT大手の「グーグル」は2017年時点で自社のオフィスなどで使う全ての電力を再生可能エネルギーで調達できたと発表している。同じくIT大手の「アップル」も2030年までに使用するすべての電力を再生可能エネルギーにするとしている。
取引先に対しても、使用する電力をすべて再生可能エネルギーにするよう求め、導入できていなければ、取引しない考えだ。そのため企業は危機感を強めている。
現在政府は2030年時点での再生可能エネルギー導入目標を22~24%に定めているが、これでは後れを取るとして、大手企業90社以上が目標を40~50%まで引き上げることを求めた。
■規制緩和に向け動き出した政府
目標達成のために焦点となるのは、主に3つの“壁”だ。再生可能エネルギーの導入拡大に向け、河野行政改革担当大臣のもとで壁となる規制の緩和について、議論されている。
1つは「荒廃農地」の規制だ。農業従事者の高齢化で増える荒廃農地の中でも、再び農地として使用することが難しい土地が全国で約19万ヘクタールもある。これは大阪府の面積とほぼ同じだ。しかし、たとえ荒廃していても、農地を別の目的で使うには複雑な手続きが必要で、原則として他のことに使えない。その規制を緩和して、農地として使えなくなった土地を太陽光発電のために使う案が検討されている。
2つめは「環境アセスメント」の壁だ。風力発電を導入する際は、事前に環境への影響がどの程度あるかを調査する環境アセスメントの審査を受けなければならない。
アメリカなど欧米の一部は5万キロワットの規模から調査の対象となるが、日本では1万キロワットの規模から対象となる。当然審査の数は多くなり、結果が出るまで4~5年かかる。5年後の事業計画に向け投資することは企業にとっても難しく、導入の妨げとなっている。政府は対象を5万キロワットまで引き上げることを検討している。
3つめは地方で発電した電力を消費地に送る「送電網」の壁だ。日本では戦後から、各地域で1つの大手電力会社が発電し、電気を消費地に送電する仕組みがとられていた。昨年ようやく大手電力会社から「送電」を分離する制度となったが、送電網の使用は先に契約を申し込んだ火力や原子力が優先されており、新規参入が多い再生可能エネルギーが使える容量が少なくなっているという。火力や原子力に加え、再生可能エネルギーを含めた制度の見直しが検討されている。
■10年で45%の再エネ導入を
カーボンニュートラルに向けて、何が必要なのか。規制改革の議論にも委員として参加する、「自然エネルギー財団」の大林ミカ事業局長によると、2050年の脱炭素化に向け、2030年には最低でも45%に相当する再生可能エネルギーが必要だという。
財団では、荒廃農地の活用や送電ルールの変更をはじめとする規制を見直すことなどでこれを達成できると試算している。
■これからの政府
11月には、地球温暖化対策の国際的な枠組みである「パリ協定」の運用を議論するCOP26の会合が開かれる。それに合わせて、経済産業省では夏にも国のエネルギー政策の方向性を示す「エネルギー基本計画」を改定し、2030年の電源構成について見直す計画だ。政府には実効性のある計画が求められている。