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【解説】魚介の水揚げ過去最低…サンマは「-96.8%」 「黒潮大蛇行」が過去最長に 対応策は「魚種転換」?

2023年6月12日 20:23
【解説】魚介の水揚げ過去最低…サンマは「-96.8%」 「黒潮大蛇行」が過去最長に 対応策は「魚種転換」?

今、日本では魚介類の水揚げ量が減り続けていて、去年は過去最低となりました。背景には何があるのでしょうか。

●食卓の定番が“激減”
●終わり見えない「大蛇行」
●今後は「魚種転換」

以上のポイントを中心に詳しく解説します。

■海水温上昇に加え“乱獲” 伊勢エビの産地でも悲鳴

農林水産省の統計によると、去年の漁業と養殖業の合計生産量は385万8600トンで、前の年と比べて7.5%減少したことがわかりました。これは統計を始めた1956年以降、最低の数字です。

多くの種類の魚でとれる量が減っており、中でも長期的な減少が著しいのがサンマ、スルメイカ、サケです。ピーク時と比べると、サンマは-96.8%(1958年比)、スルメイカは-95.6%(1968年比)、サケは-69.4%(1996年比)となっています。

水産庁によると、理由は海水温の上昇だといいます。サンマとスルメイカに関しては他にも、中国や台湾、北朝鮮などによる乱獲も影響しているということです。

漁獲量が減少しているのは、“庶民の魚”だけではありません。高級食材で知られる伊勢エビの産地でも悲鳴が上がっています。

静岡・南伊豆町では毎年秋に町をあげて「伊勢海老まつり」を開催しています。今年は規模の縮小を検討するほど、伊勢エビの漁獲量が減少しているというのです。

南伊豆町の統計によると、漁獲量は2019年には30.9トンだったのが、2020年には21.6トン、2021年には17.8トンとなり、去年は15.8トンとわずか3年間で約半分に減っています。

理由については「黒潮の流れが変わって生息域が変化した」ことと「エサになる海藻が生息域で減少している」ことではないかとみられているといいます。

■「黒潮大蛇行」過去最長を更新中 なぜ長期化…

この黒潮の流れの変化を「黒潮大蛇行」と言います。これが海水温の変化にも大きく影響しています。黒潮は南から流れてくる暖流なので、流れているところでは水温が上昇します。

気象庁などによると2017年8月以降、黒潮の潮流が大きく曲がっているといいます。蛇行した黒潮の日本列島側では、水温がかなり低くなります。魚介類によって好む水温が違いますから、漁場が変わったり、今までとれていたものがとれなくなったりするといったことが起きます。

1965年以降、この大蛇行は6回発生しています。今回の大蛇行は、6年近く続き過去最長を更新中で、今のところ収まる気配はないそうです。

ではなぜ、今回の大蛇行がこれほど長期化しているのか、海洋研究開発機構の美山透主任研究員に聞きました。通常なら蛇行が起きたとしても、南からの黒潮の流れが強ければ、蛇行した部分も東に流されていきいずれ消滅するというのが、今までの流れだったようです。

しかし、今回は黒潮の流れの力が弱いので、蛇行した部分がなかなか東に流れていかず、西に戻る時期もあったといいます。そのため、大蛇行が停滞・長期化しているそうです。そして、現時点で終わりはまだ見えないということです。

また、通常の黒潮は千葉県の房総沖の辺りで太平洋の遠く、東側へ行くはずです。しかし、今回の特徴としては、陸地に沿って温かい水が東北の沖合辺りまで北上しているという点もあるといいます。具体的には、宮城県や岩手県沖合の海域の水温も暖かくなっているということです。

この海域では2019年から歴史的なサンマの不漁が続いていて、漁業情報サービスセンターは“これも黒潮大蛇行の影響ではないか”と分析しています。1キロあたりのサンマの価格は統計上、5年前と比べて2倍以上になっています。

■影響は他にも “海水が膨張”高潮や大雨になりやすく…

黒潮大蛇行の影響は、漁業だけにとどまりません。

海洋研究開発機構の美山主任研究員によると、黒潮の接近により東海から関東にかけての沖合は特に水温が上がっています。そうなると海水が膨張するため、海面が上昇するといいます。そこへ台風などが来るなどすると、「吸い上げ効果」により高潮になりやすいということです。

また、海水温が上がっているエリアは水蒸気が上昇しやすくなるため、蒸し暑い夏や大雨になりやすいと考えられるといいます。

■サンマがとれないならイワシを…対応策は「魚種転換」?

サンマなどの不漁が深刻化している一方で、逆に漁獲量が増えているものもあります。例えば、マイワシやブリの漁獲量は増加傾向にあるということです。

そこで今、水産庁の検討会が考えている対応策が「魚種転換」です。つまり、「その時にとれる魚をとって、その市場価値を上げていく」戦略が必要だということです。

従来、日本の漁業は主として、サンマのみ、ブリのみと決まった1つの魚をとって、それを流通させるという方式でした。今後は、サンマがとれないならイワシをとったり、漁でとれないなら養殖に移行したりといった対応が必要だといいます。そのために今後、船の装備を変更するなど必要な費用への補助も、水産庁は検討していく予定だということです。

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地球規模の環境の変化が、私たちの食卓へ明らかに影響を与えているわけです。目先の対策を各省庁で考えていく必要があると同時に、国を越えた協力を日本がリーダーシップをとって進めていく必要もありそうです。

(2023年6月12日午後4時半ごろ放送 news every. 「知りたいッ!」より)