“再建のプロ”「昭和」から日本語る(上)
開業70年の「西武園ゆうえんち」が5月、改装オープン。手がけたのは、数々のテーマパーク再建で知られる森岡毅さんです。改装を託した西武HDの後藤高志社長は、自らも西武グループの立て直しに尽力してきました。2人の“再建のプロ”が熱く語りました。
■コロナ禍でのリニューアルオープン
西武HD・後藤高志社長(以下、後藤)
「開業の時期をいつにするか、(コロナ禍の)5月に、ゴールデンウイーク明けにやろうという決断をしまして、環境としては決して良い環境ではなかったけれども、それでもスタートとしては順調ですね」
マーケティング会社「刀」・森岡毅代表(以下、森岡)
「この日本人が下を向いてばかりのコロナ禍で、予定通りにやるんだということ、感染対策に万全を尽くしながら、それでも前に一歩出るんだと、こういう気概がある決断ができる、そういう存在でありたい、と後藤さんが決断してくださったのが、一番大きかったと思います」
「ただ、まだ船出として成功しただけなので、本当の勝負はこれからなんです。テーマパークとか集客施設、遊園地みたいなものは、開けてから本当の運営力とか本当の経営力というのを培っていかないといけないので、そういう意味で、ようやく今、本当の戦いが始まろうとしているという心境です」
■「昭和」がテーマ
森岡
「昭和とかいうと、なんかこうノスタルジーの、静かな、ちょっとしんみりした、なんかそういうイメージを皆さん連想されるだろうなあ、とは思います。ただ、私どもの中で確信があったのは、結局テーマパークとか遊園地のテーマってなんぞや?という話ですね」
「ディズニーランドへ行くのは『ミッキーマウスを見に来た』『会いに来た』と、お客さんに聞けばみんなそう言いますよ。でも、本当はミッキーマウスに会うために行っているんじゃなくて、ミッキーマウスに会った時に感じる心の動きですね、何か幸せそうな気になるんですよ」
「これが本質であって、それが価値なんですね。であれば、人の頭の中にある記号、日本人の誰もが持っている幸せの原体験、それは何かというと『昭和のあの頃』。人懐っこかった、人はみんな親切だった、なんかもう自分が無条件に愛されていると思っていた、子供時代のあの原体験っていうと、例えば夏だったら昭和のあの頃、夏祭り、花火…って、どんどん幸せの記号が頭の中に出てきますよね。これって、西武園ゆうえんちが広告宣伝費を使わなくても、人の頭の中にあるものなんですよ」
「おまけに西武園ゆうえんちの中の古くなったとか色々言われてたあの設備自体、すでにあった資産を、これも生かすことができるわけですよね。『あの頃』なので、今まで古いと言われていたのが、値打ちのあるアンティークに見えてくるわけですよ」
後藤
「いわゆる昭和の最後のバブルについては、あまり良いことを言われない。その後の不動産バブルが不良債権を作ったとか、いろいろ言われているんだけれども、僕は実はあの時代というのは、日本人が世界に向かって自信を持って活動した時代だというふうに思ってるんですよ」
「僕自身もあの当時、本当に働くのが楽しかったわけ。あるいは生活するのがもうエキサイティングだったわけですよ」「ところが残念ながら、平成になってよく『失われた20年』と言われているけれども、平成生まれの人というのは本当にある意味では気の毒だと思うんだけれども、我々が感じた高揚感っていうのをほとんど経験しないでずっときちゃってる」
「これから日本の将来を担っていく若い人たちには、やっぱりそういうものをぜひ、我々としても環境を整備していきたいし、体験してもらいたいというふうに思っています」
■トップとは、組織とは
森岡
「後藤さんが最初にこのプロジェクトを、『西武園をやりたい』とおっしゃった時から一貫されているんで、私もそうだなと、思っているんですけど、日本人は下を向いて、ちょっと自信を失ってると思うんです」
「我々はそれこそ昭和の時代をつくってくれた、先人たちの作り上げたこの社会の構造、稼ぎ出す構造に乗っかって、平成の30年間、たいして新しい産業を産み出さずになんとなくみんな暮らしてるわけですよね」
「僕らが30年間、たいした事業を生み出さなくても食べていけたように、僕らが何か新しい事業を生み出して、次の世代の日本が生きていけるようにしなきゃいけない、その時にはコロナだろうが何だろうが、今の僕らが、現役の僕らが、やらなきゃいけないことが山ほどあると思うんですよ」
「この十分な挑戦ということができずに、周りに責められるからやめるという決断をする事業体、あるいは責任者の方々が非常に多いように私の目からは見えます」
後藤
「まあね、トップの重要な役割というのは、やっぱりリスク管理だと思っているんですよ。いろんなリスクに対してどこまでが許容できるリスクなのかというのをまずしっかりと見極める、これはトップとしての重要な役割、使命ですね」
「それで、そのリスクを管理して、許容リスクを設定した時に、じゃあ、そのリスクに見合ったプロジェクトなりビジネスをどうやって展開していくか、そこのところは許容リスクの中で言えば、やはり権限を委譲してボトムアップでやると。そうしないと人が育たない」
「度量というか、これは絶対必要ですよね。ですから、組織はボトムアップと同時にトップダウンも必要なわけで、トップダウンとボトムアップが調和している組織というのは強い組織だと思うんです」
「乾坤一擲のプロジェクト、あるいはその乾坤一擲のリスク管理、これはやっぱり最終的にはトップがやらないとダメ。そこのところで下に委ねて下に責任を投げるような、それは絶対やっちゃいかんと僕は思ってますから」
※“再建のプロ”「昭和」から日本語る(下)――に続く