最も危険な海のゴースト 意外なものに変身
■海を漂う“網の幽霊”
毎年800万トンが海に流れているともいわれるプラスチックごみ。プラスチックは自然に分解されることがなく、数百年から数千年もの長い間、海に残ってしまう。そんなプラスチックごみの中でも、特に危険とされるのが、廃棄された「漁網」だ。
漁網は魚を捕ることに特化し、簡単に抜けられない構造となっているため、生きものが衰弱死・窒息死するケースが相次いでいる。これらは人の手を離れた後、何百年も海を漂い生きものを苦しめることから「ゴーストネット」すなわち「網の幽霊」と呼ばれている。
■“ゴースト”を減らすために…
世界自然保護基金(WWF)の報告書によると、海に流出する漁網やロープなどの漁具の総量は、毎年50万トンから100万トンにものぼると推定される。流出した刺し網の被害で、珍しい種類のイルカが絶滅寸前になった事例もあるという。
こうした被害を防ぐためにどうするべきか。WWFジャパンで海洋プラスチック問題を担当する浅井総一郎氏によると、重要なのは、「予防・軽減・回収」の3点だ。
自分の漁具を識別できるようマーキングするなどの「予防」を徹底したうえで、流出しても自然に分解される素材を使用するなどの「軽減」策を講じる。
また、海がつながっている以上、すでに海に流出している漁具の「回収」には各国が足並みをそろえる必要がある。
しかし、魚網などの取り扱いを巡っては、いまは個別的断片的な条約が乱立する状況のため、1つを批准すれば対策ができる「包括的な枠組み」が必要だと話す。
■漁網が意外なものに変身!
さらに、漁網を“活用”して、海への投棄を防ぐ動きも。日本一の鞄生産量を誇る兵庫県豊岡市で販売しているのは、廃棄された漁網から作った鞄。北海道で回収した漁網を溶かしてチップに加工。そこから糸を作り、鞄の生地にしている。鞄の売り上げの一部は、海の環境保全の費用に充てられるという。
「豊岡鞄」地域ブランド委員会の橋本浩委員長は、「50年後、100年後と豊かな海を守るためにも、このような活動を広げて“当たり前”の時代になってほしい」と話す。
人が作り、海の生物の命を奪い続けているゴースト。人の手による対策が求められている。
■写真:Michel Gunther / WWF