AI育ちのお魚!? 東京で愛媛の魚を養殖する「スマート養殖」
各分野で進むAIやIoTを利用した「スマート化」は漁業の分野でも広がりつつあります。大手回転ずしチェーンでは魚の養殖にAIを取り入れ「スマート養殖」を行っています。漁業の人手不足や水産物の安定供給に重要な役割を果たすことになるのでしょうか?
■脂ののった「AIスマガツオ」・・・「AI」ってなに?
2022年12月、くら寿司が期間限定の新商品を発表しました。商品名は「AIスマガツオ」。残念ながら現在は販売していません。
スマガツオとはインド洋や太平洋の熱帯、亜熱帯地域に広く分布する魚です。試食会でその「スマガツオ」を食べると、「カツオ」なのに「マグロ」のような味わい。口の中に入れるととろけるように柔らかく、きめ細やかな脂のノリを感じました。
しかし、最も気になったのは、商品名「AIスマガツオ」の「AI」の部分。
■AIを活用した「スマート養殖」
くら寿司の「スマガツオ」は愛媛県で養殖されたもので、その養殖場ではAIやIoTを活用した「スマート養殖」が行われています。
これまで養殖魚へのエサやりは漁師の「経験と勘」が頼りでしたが、エサを与えるための”給餌機”をAIやIoTで管理しているのです。AIが魚の食欲を解析し、自動的にタイミングを見て、適切な量のエサを与えます。
さらにスマートフォンなどを活用すれば、遠く離れた場所からもエサやりの様子が確認できるので、将来的には東京で愛媛の魚を育てることも可能だといいます。
スマート養殖の実証実験は、去年春から続けられていて、今年に入りスマガツオの他にも、スマート養殖で育てたマダイやハマチも販売しています。
エサを適量に与えるのでエサ代を節約もでき、今後は店頭に並ぶマダイやハマチの3分の1はこのスマート養殖で育て、値上がりが続く回転ずしの値段を抑えることもできるといいます。
さらに、スマート養殖は愛媛県や愛媛大学南予水産研究センター、地元の生産者とも連携して行われていて、深刻化する漁業の「人手不足」や「若者の漁業離れ」に一役買うのではと期待が寄せられているのです。
■漁業は深刻な人手不足、他業種からの転職も
水産白書(令和3年度版)によると、漁業で働く人は減少傾向にあり、2003年に23万8000人いた漁業就業者が、2020年には13万6000人と10万人以上も減っています。
その理由について、水産白書の中で昔であれば漁師の家に生まれた子どもは、漁師になることが多かったのですが、近年では必ずしもそうとは限らなくなっていることが減少の原因だと指摘されています。
一方で、他の業種から漁業に転職する人は増えており、新たに漁業で働く人の7割が他の産業からの転職組だといいます。新しい感覚を持った漁業の担い手がスマート養殖に注目すれば、より広がりを見せることになるでしょう。
■大手通信会社が注目「スマート養殖」
また、スマート養殖に取り組む企業も増えています。注目すべきは、その多くに関わっているのが、AIやIoTを推し進めるKDDIやNTTなどの通信会社だという点です。
KDDIは福井県の小浜市でスマート養殖をしており、漁獲量が減っていたサバの養殖に成功。エサに酒粕を混ぜた「小浜よっぱらいサバ」というブランドサバを育てています。
他にも、長崎県の五島列島ではマグロの養殖にドローンを使い”天敵”の赤潮を検知。海水を採取してAIで、”赤潮の気配”があるか解析し、被害を抑える取り組みもしています。
NTT東日本も岡山理科大学などと協力し、病気に弱く、成長の遅いベニザケの育成環境をICT(=情報通信技術)で管理。安定して収穫できるよう完全閉鎖循環式の陸上養殖に取り組んでいます。
ビジネスとして成功すれば世界初になるということです。新鮮な魚を安定して食べられる「スマート養殖」。味や価格にこだわった試行錯誤は今後も続きそうです。