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「またトラ」は日本経済にどう波及?トランプ新政権の経済政策の影響を占う(前編)

2024年12月30日 13:00
「またトラ」は日本経済にどう波及?トランプ新政権の経済政策の影響を占う(前編)
2期目となるトランプ政権。日本企業の最大の関心事は、円安傾向が続く為替市場への影響だ。(写真はトランプ氏のXより) 

2025年1月20日、アメリカでトランプ氏が再び大統領に就任する。関税引き上げや、経済政策による為替への影響がすでに取り沙汰される中、「またトラ」は日本経済にどう影響するのか?前編では、株・為替と日本経済全体への影響、日本企業の受け止めについて解説する。
(日本テレビ経済部)

■「またトラ」の影響 ベースとなる株・為替の動きは?

トランプ次期政権の政策の影響について、日本企業が最も大きな関心を寄せるのが「為替」だ。東京商工リサーチが2024年12月に実施した、全国約6000社への調査では、トランプ政権の政策の注目点として「通貨・為替政策のあり方」を挙げた企業が全産業で最多の52.4%になった。

2024年12月下旬には、ドル円相場は1ドル=158円を上回るところまで円安が進んだ。大統領選終盤からトランプ氏当選直後にかけては、トランプ氏の掲げる追加関税の導入や移民制限の政策がアメリカの物価高を継続させ、中央銀行にあたるFRB(連邦準備制度理事会)の利下げを遅らせるとの見方から、ドル高・円安が進み「トランプ・トレード」と称された。

さらにFRBが12月の金融政策を決める会合後に公表した2025年の経済見通しでは、2025年の利下げ回数が前回9月の4回から2回に半減。年末のドル買い・円売りの要因となった。

ただ、トランプ政権発足後の為替の動きについては、「どこかでドル安・円高に転じるのではないか」との見方も出ている。ある市場関係者は「追加関税は、相手国からの報復関税でアメリカ経済がダメージを受ける可能性もある。トランプ減税も、2期目の今回は余地が限られている上に、イーロン・マスク氏が率いる政府効率化省(DOGE)が急速に歳出削減を行えば、GDPの下押し要因になる。全体としては米景気を減速させる可能性がある」と解説する。

つまり、追加関税による物価高と景気減速・悪化が同時に起これば、アメリカの通貨安からドル安・円高になりやすい、という指摘だ。そもそも、トランプ氏本人も、アメリカ製品の輸出に有利なドル安を好むとされている。

トランプ新政権の政策や方向性は、ドル高とドル安の要因が両方とも混在していて、その“綱引き”によって為替も左右されそうだ。複数の市場関係者に話を聞くと、方向性が読みにくいものの、1ドル140円~160円くらいのレンジでの動きを予想する関係者が比較的多い。

日本株の動きも、アメリカ経済の動向やドル円相場の影響を受けやすい。仮に円高局面になれば、日経平均株価も上昇しにくい展開になるリスクがある。

■政策上の最大の焦点「追加関税」の影響は

冒頭の東京商工リサーチの企業への調査で、「通貨・為替」の次に企業の関心が高かったのは、やはり「関税政策のあり方(51.5%)だった。トランプ氏はすでに、中国からの全輸入品に対して10% の追加関税を、また隣国のメキシコとカナダからの全輸入品に対して、25%の関税を課すことを表明している。

関税の賦課は、場合によっては大統領権限で行うことが可能なため、メキシコとカナダへの関税については、2025年1月20日の就任初日に大統領令に署名する意向も示した。

こうした関税措置は日本経済にどう影響するのだろうか。大和総研によれば、上記の3か国とアメリカの相互の輸出が減少することで、これらの国々に自動車の部品などの「中間財」を出荷する日本の製造業や輸出関連の非製造業の企業が影響を受ける見込みだ。

日本の実質GDPへの影響は-0.1%程度と試算されている。一見、影響は小さいように見えるが、自動車や一次金属、貿易動向の影響を受けやすい卸売り・小売業など、一部のセクターに影響が集中することに注意が必要だとしている。

さらに、アメリカと上記3か国を含めた海外経済が減速した場合、日本経済への影響が急速に拡大する可能性があり、最も影響が大きいケースでは、日本の実質GDPへの総合的な影響は、最大で-1.4%程度に拡大するリスクもあるとしている。

一方で、ある日本政府関係者は「トランプ氏は不法移民問題に直結するカナダ、メキシコに真っ先に手をつけて、成果を出したいようだ。関税はあくまで交渉のための材料であって、カナダやメキシコに対して(25%まで引き上げない代わりに)不法移民の数を減らさせるなどの政策を勝ち取る方向性なのだろう」との見方を示している。

とはいえ、同じ政府関係者は、「トランプ政権の強みは、脅しといいながらも第一次政権では、中国にも同盟国にも、実際に関税をかけているところ。本当に刀で切ってくる印象がついている」とも指摘している。各国にどの程度関税が課されるかは、アメリカと各国の二国間交渉の行方次第、と言えるのかもしれない。

■トランプ氏の「予測不可能性」に日本企業はまずは見極めの姿勢

トランプ次期政権に対する日本企業の受け止めを取材すると、不安の声が目立つ。たとえば、LNG=液化天然ガスなど世界各地で多くのエネルギー資源を扱う総合商社は、各社がトランプ氏の再選によって予想される、脱炭素化からのエネルギー政策の転換を警戒する。

また、貿易関連企業からは、物流への影響を心配する声もあがる。「関税引き上げによって、(国際的な)インターネット通販関連の物量に影響が出るのではないか」「より予測が難しい政権になったことで、“Just in Time(需要に応じた量を生産し、在庫を抱えない生産方式)”から Just in Case(万が一に備えて従来より在庫に余裕を持たせる)重視への変化がさらに進むのではないか」などの声が漏れる。

食品大手の関係者も「北米はいま売り上げが好調なエリアなので、トランプ政権の政策で仮にアメリカ経済が減速すれば困る」と不安を口にする。

一方で、ある総合商社幹部は、「打撃を受ける部分ももちろんあるかもしれないが、我々的には大きなビジネスチャンスと捉えている。変化があるところには必ず、ビジネスチャンスがある」と述べ、したたかに新たな商機を見いだす姿勢を見せた。

また、上記のように大きな変化への警戒感が根強いエネルギー政策についても、実際の変化は限定的ではないか、という見方がある。あるエネルギー政策の専門家は、「アメリカではすでに州レベル、ビジネスレベルで再生可能エネルギー導入の動きは拡大している。アメリカでは州政府の権限が強いので、トランプ政権になっても、この動きは継続するだろう」と指摘する。

後編では、「トランプ関税」によって大きな影響を受ける可能性がある自動車業界の反応や、日米貿易交渉の展望、さらに日本製鉄によるUSスチールの買収問題についても解説する。(後編へ続く)

最終更新日:2024年12月30日 13:00