「障害への配慮」の考え方変わる企業 法律で「合理的配慮」義務づけ
4月から、障害のある人への対応についての法律(障害者差別解消法)が変わり、事業者は「合理的配慮」をすることが義務づけられました。
こうした中、企業でも「障害への配慮」の考え方が変わりつつあります。ソニーグループは、誰もが使いやすいものづくり、「アクセシビリティー」の考え方を全製品・サービスに広げるべく、動き出しています。
■社員の6割に「障害」
4月3日、大分県のある工場で新年度の全体会同が開かれました。
「昨年度はダイバーシティ研修などで多くの方が貢献してくれた」「世の中でアクセビリティの重要性が高まる中で、貢献の幅をさらに広げていく」社長の話に耳を傾ける社員たち。車いすの利用者が目立ちます。
ここはソニーグループ子会社の「ソニー・太陽」。プロのミュージシャン向けのマイクやヘッドホンなどを製造しています。
およそ200人の社員のうち6割以上が何らかの障害を持っていて、工場の中は車椅子でもスムーズに動けるよう通路を広く設計。作業場には各自の障害に合わせた机や道具が置かれ、無理のない姿勢で働けるようになっています。
たとえば、握力が弱い人には、足下のペダルを踏むとドライバーに付けた小さい浮き輪のようなものが膨らんで手に固定される装置があったり、両腕の障害により足でパソコンを操作する人には、机の下にちょうどよい角度の台があったりと、各自が能力を最大限に発揮できるよう“カスタマイズ”しているのです。
■ものづくりの原点に
「ソニー・太陽」は、ソニー創業者のひとり、井深大氏の「障がい者だからという特権なしの厳しさで、健丈者の仕事よりも優れたものを、という信念を持って」との理念の下、1978年に設立。障害者雇用の草分け的存在でした。
ここが今、ソニーのものづくりの“原点”になっています。
去年、ソニーは新入社員の研修をこの工場で行いました。
新入社員たちに与えられたミッションは「別府タワーの写真を撮る」「海岸で貝殻を拾う」「バス停で時刻表を読む」など。これをソニー・太陽の障害を持つ社員とチームになってクリアしていくのです。
さほど難しくないミッションに思えますが、障がいのある人たちと一緒に動いてみると、至る所に障壁が。段差や砂浜は車いすでどのように進む?両腕のない人はどうやって写真を撮る? 実際にやってみることで「気づき」を得ることが研修の目的です。
ソニーグループは2025年度までに原則、全ての製品やサービスの開発に障害者らの意見を取り入れることを決めています。
すでにデジタルカメラやスマホのカメラに水平を計る水準器や操作の音声ガイド機能がついたものが商品化されていて、この開発には視力に障害のある社員が協力しました。
ミッションに参加した「ソニー・太陽」の社員も「アクセシビリティの観点では障害が役に立つこともある」「自分の行動で気づきを与えられることがうれしい」「この気づきが製品に生かされ、よりよい社会になれば」と研修の意義を感じています。
■「個別」から「誰でも」へ
誰もが使いやすいものづくりというアクセシビリティーの考え方は、「ソニー・太陽」が行ってきた「一人一人に合わせたカスタマイズ方式」にも変化をもたらしています。
工場の設立当時は、ベルトコンベヤーで部品が流れてきて共同で作業を行う方式でした。しかし、障害の個人差が大きく、コンベヤーの高さが合わない、作業スピードが合わないなどで共同作業は難しく、効率が悪かったといいます。
そこで、2000年代にはコンベヤーを廃止。カスタマイズされた各自の作業ブースで、一人で全工程を受け持ち、製品を完成させる方式に切り替えました。これにより作業効率も責任感も大幅にアップしました。
そして20年後の今。作業台は高さ調節が簡単にできるものに、作業台の上のレイアウトも可変式になりました。障害の有無、身長の高低、利き手などにかかわらず、作業しやすい工場に変わってきたのです。
人事担当者によると、「一人一人の要望を聞き、障害の特性に合わせた作業場の開発を突き詰めた結果、誰でも使いやすい作業台に行き着いた」といいます。
障害のある人たちへの「配慮」だったはずが、結局はすべての人への配慮につながる--。こうした「インクルーシブデザイン」の製品やサービスが広がっていくことが期待されます。