「売れば売るほど赤字」「なんでこんな値段がつくのか」備蓄米21万トン放出へ 飲食店・販売店・生産者は
深刻なコメ価格の高騰への対策として国は14日、21万トンの備蓄米を放出すると発表しました。福岡の生産者やコメを取り扱う人たちからは安堵の声も聞かれた一方で、不安もまだ残るようです。
福岡市・天神の釜飯専門店を訪ねました。一番の人気メニューは、1954年の開業当時から親しまれる、ちょっぴり甘口の「博多釜めしそぼろ」です。
■白野寛太記者
「だしが染み込んでいて、おいしいです。」
自慢のだしがしみ込んだ、ふっくらと炊き上げられたごはんを求めて、連日多くの人が訪れます。頭を抱えるのは主役であるコメの価格高騰です。
■ビクトリア・加藤康裕社長
「去年の安定していた価格から約2倍です。どんどん値上げが起きて、非常に苦労しています。」
高止まりするコメ価格への対策として14日、政府は備蓄米の放出についての概要を発表しました。
■江藤拓農水相
「販売数量は21万トンとします。これは流通が滞っている状況を何としてでも改善したいという、強い決意の数字だと受け止めていただきたいと思います。」
放出される量は、2024年に生産されたコメを中心に、2023年のコメも加えた21万トンです。
今回政府が放出する21万トンの備蓄米は、年間の玄米の仕入れ量が5000トン以上の集荷業者に対し販売されます。この21万トンというのは、江藤農水相が「流通が停滞している」と指摘する量で、この放出により市場にコメが増え、政府は価格が安定するとの期待を寄せています。放出分は、原則1年以内に政府が集荷業者から買い戻しを行うということです。
この買い戻しについて、江藤農水相は機動的に対応するとしています。
■江藤農水相
「1年という期限があるから必ず買いますというと『上げ圧力』になりかねない。私の判断で1年を超えることもあると。」
また江藤農水相は、21万トンのうち最初に15万トンを業者に販売し、残り6万トンは供給過剰とならないよう状況を見極めて放出するとしています。21万トンで効果がなければ、さらなる放出も辞さない構えです。
平日は毎日15キロ、土日は30キロのコメを炊くという、福岡市・天神の釜飯専門店の社長は、効果があるのか半信半疑だと話します。
■加藤社長
「21万トンを日本人の人口で割ると、1人あたり1キロぐらいにしかならないらしいです。コメの値段が安定してくれればいいなと思うんですけれど。」
厳しい状況が続き、政府の対応に冷ややかな反応を示す飲食店と同様に、コメを納品する業者からは、政府の対応の遅さに厳しい声が聞かれました。
■姪浜小田部米穀店・西嶋幸弘さん
「もうちょっと早く手を打ったほうが良かったんじゃないかなとか、これほど価格が上がるまで放置せずにというのは素直に思います。」
福岡市西区のコメの販売店では、飲食店や一般家庭に販売を行っています。コメの仕入れ値が前年の3倍以上となることもあり、売れば売るほど赤字で、閉店することも考えざるを得ない状況に追い込まれたといいます。
■西嶋さん
「1月は、従業員である家族にも給料をあげられていないくらい、買い付け金額が上がっています。市場にはコメがあるのですが、価格がつり上がりすぎて手が出せないというのが素直なところです。スーパーに並んでいない現象が起きているので、国としての対策ができていないと批判されているから仕方なく出したのかなというふうにしか受け止めていません。個人的にはあまり変わらないんじゃないかと思います。」
備蓄米が放出されても、厳しい状況からは解放されないだろうと話します。
こうした状況を生産者はどのように見ているのでしょうか。
■コメ農家・釜瀬博志さん(77)
「ここが私の田んぼです。次の田んぼの準備で、トラクターでおこしています。」
福岡県宗像市でコメを生産する釜瀬博志さんです。年間480キロのコメを作っています。2024年秋に収穫したコメは5キロ2000円で取り引きし、これまでより500円ほど高く売れたといいます。
■釜瀬さん
「すごく良さそうですが、肥料や農薬代が3~4年前の倍になっています。」
収入は増えましたが、農家として生活を維持するには、肥料や燃料費などさまざまなものが値上がりしているためギリギリのラインだといいます。コメの市場価格は高騰していますが、生産者に還元されていないのが現状です。
■釜瀬さん
「なんでこんな値段がつくのかと思っていました。」
コメの価格高騰が止まらないなか、原因の一つとされているのが、行方の分からない21万トンのコメです。
■釜瀬さん
「(コメがどこへ行ったか)本当に不思議ですね。どこに消えたかと思っていますが、今回の(放出される備蓄米)21万トンで、ある程度出てくるのかなと思います。隠されている部分が出てくると思います。」
今回の放出決定について、生産者としての思いを聞きました。
■釜瀬さん
「早く備蓄米を出して適正な価格まで落ち着かせる、これはやってほしいと思っています。コメ離れも懸念しますから。」
早ければ3月末から4月にかけて店頭に並ぶとみられる、放出される備蓄米。これでコメ価格の高止まりが抑制されるかどうかが、今後の焦点となります。