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ゼレンスキー大統領の韓国国会演説 議員出席2割以下で批判相次ぐ 韓国“ウクライナ無関心”のワケ

2022年4月14日 15:40
ゼレンスキー大統領の韓国国会演説 議員出席2割以下で批判相次ぐ 韓国“ウクライナ無関心”のワケ
空席が目立ったゼレンスキー大統領の韓国国会での演説

韓国の国会で今週行われたウクライナのゼレンスキー大統領の演説について国会議員の2割にも満たない50人程度しか参加しなかったとして、韓国メディアから「誠意のない態度」「恥ずかしい」などと批判が相次いでいる。

しかし、韓国のウクライナ情勢への関心の低さは今に始まったことではない。“戦争の経験”という共通項があるにもかかわらず、いったいナゼなのか-。

(NNNソウル支局長 原田敦史)

■議員の参加2割弱でガラガラの大講堂 “待ちぼうけ”のゼレンスキー大統領

11日の午後5時。予定された時間を少し過ぎて、スクリーンにはTシャツ姿のウクライナのゼレンスキー大統領の姿が映し出された。

ゼレンスキー大統領が、外国の議会や国会で演説を行うのは、韓国が24番目。会場は本会議場ではなく、敷地内にある国会図書館の大講堂が使われた。用意された座席には、明らかに空席が目立ちガラガラの状態。韓国の国会議員は定員300人だが、韓国メディアによるとその2割にも満たない50人程度しか参加しなかったという。

さらに、会場では、冒頭、何人もの国会議員が挨拶を続け、画面の中のゼレンスキー大統領が所在なさそうに長時間、待機させられていたことにも違和感を覚えた。

ゼレンスキー大統領の演説は、途中、映像を挟みながら約15分間。各地での民間人の甚大な被害に触れながら、朝鮮戦争にも言及した。

ゼレンスキー大統領
「ロシアはウクライナの都市を焦土化させようとしている。マリウポリでは、市民たち少なくとも数万人が命を失っただろう。韓国国民の皆さん、韓国は1950年代に戦争を経験し、数多くの民間人たちが命を失った。しかし、国際社会の支援で克服した」

“戦争の経験”という共通点から、共感と連帯を呼びかけた。

そして、国際社会による経済制裁は不十分で、「ロシアが自ら止まる期待は無い」と述べ、兵器の支援を要請した。

ゼレンスキー大統領
「我々がロシアとの戦争で生き残り勝つためには、もっと多くの助けが必要だ。韓国には、ロシアの戦車や軍艦、ミサイルを防げる様々な軍事装備がある。助けてくれたらありがたい」

この演説の3日前には、両国の国防相による電話協議で、ウクライナ側から対空兵器などの支援要請があったが、韓国側は「殺傷兵器の支援は制限される」と応じていない。事前のやりとりがあったにもかかわらず、中継で行われた演説で再び兵器の支援を要請した形で、韓国側の困惑は想像に難くない。

全体的には、無理強いしない“ソフト路線”で共感を呼びかけた日本での演説と、“弱腰対応”を痛烈に批判した欧米諸国での演説の“中間的トーン”と言えそうだ。

演説の終盤では、マリウポリの惨状を記録した映像も上映された。VTRが終わると、ゼレンスキー大統領の演説を同時通訳していたウクライナ人女性の言葉は震え、涙声に変わっていた。

■韓国メディアは国会を酷評「会場満杯の日米 やっと50人の韓国 恥ずかしい」

この演説の翌日以降、韓国メディアからは国会議員らの振る舞いについて、酷評が相次いでいる。

保守系の「中央日報」は、「やっと50人の韓国国会 国民は恥ずかしい」「大多数の国会議員は最小限の誠意さえ見せなかった」と批判。岸田首相らも参加し、座席が埋まった日本での演説と比べるように韓国の演説の写真を並べ、「日米と対照的だ」と比較した。

同じく保守系の「朝鮮日報」も、「一部の議員は下を向いてスマートフォンをいじり、個人PRに近い発言も行った」などと指摘。他の23か国で例外なく行われたスタンディングオベーションもなかったと、熱意のなさをこき下ろした。

さらに、革新系の「ハンギョレ新聞」も、兵器の支援要請は悩ましい問題だとしながらも、誠意のない態度は「国際秩序の変化に無関心な韓国政治の現状を示した」と手厳しい社説を掲載した。

■同じく“戦争経験”韓国でのウクライナへの低い関心 なぜ?

ただ、韓国でのウクライナ侵攻への関心の低さは、今に始まったことではない。ロシアによる侵攻が始まった当初は、韓国メディア各社も連日、トップニュースとして扱っていた。

また、ソウル市庁舎や南山のソウルタワーも、ウクライナの国旗の色にライトアップされるなど、連帯ムードも広がっていた。

しかし、3月に入るとメディアでの扱いは、日を追うごとに目に見えて低調になっていった。今ではテレビのトップニュースで扱われることも、新聞の一面に掲載されることも希になっている。

例えば、韓国のテレビニュースは1分半ほどのニュース項目を並べていく構成だが、今は全体として2本程度。専門家の解説もなく、局所的な現象を短く扱う内容にとどまるため、戦況など全体像を理解するのは到底困難である。

そもそも、ロシアやウクライナについての専門家の人材不足を指摘する声もある。

国際秩序を揺るがす大事であるにもかかわらず、なぜ扱いが低調なのか。韓国には“戦争の経験”という共通項があるだけに意外に感じ、知り合いの韓国記者に背景を尋ねてみた。

彼が挙げたのは、韓国外務省が出している旅行警報による取材の制限だ。韓国外務省は、2月13日にウクライナ全土に4段階中最も高い「旅行禁止」の警報を出し、無断入国をした場合は「旅券法によって制裁措置を取る」と警告を出している。

3月18日になって、一部の韓国メディアが「例外的な旅券使用」を許可され、数日間、ウクライナに入国して取材。しかし、その後は大手メディアだけでなく、個人の韓国人ジャーナリストを含め、ウクライナ国内から情報を伝える人はおらず、外国の通信社などの写真や映像に頼るしかない状態だという。

「ウクライナに入れない状況は、記者として悔しいし恥ずかしい」

彼はこう話し、唇をかんだ。

また、タイミングも要因の1つだ。ウクライナ侵攻からほどなくして、韓国では3月9日に大統領選挙が行われ、大接戦の末に保守系の尹錫悦(ユン・ソギョル)氏が勝利。5年ぶりの政権交代が行われることになり、大統領執務室の移転問題、閣僚人事などがめまぐるしく動き、こうした国内の動きがニュースの中心にならざるを得ない事情もあるという。

ただ、こうした事情を理解してもなお、物足りなさが残る。もはや韓国は、経済面や軍事面でも世界有数の規模だ。“戦争の経験”という点においても、より踏み込んだウクライナへの関与を見せて欲しいと感じる。

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