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戦地で最愛の人を失い…「勝利しても真の喜びはない」ウクライナ女性兵士の思い

2023年11月15日 18:11
戦地で最愛の人を失い…「勝利しても真の喜びはない」ウクライナ女性兵士の思い
ロシア軍によるウクライナ侵攻の開始から1年9か月、戦況は膠着(こうちゃく)状態に陥り消耗戦が続いています。こうした中、ウクライナ軍の女性兵士は「ロシアに勝利をしたとしても、その先に真の喜びはない」と語ります。その思いとは。

   ◇◇◇

ロシアによるウクライナ侵攻の開始から1年9か月。ウクライナ軍の反転攻勢も決め手を欠き、過酷な環境での消耗戦が続いています。

こうした中、私たちは先月、首都・キーウを取材しました。出会ったのはアリーナさん(29)。休暇で久しぶりにキーウに戻ったといいます。日常を取り戻しているようにも見える街並み。しかし、アリーナさんに笑顔はありません。

アリーナさん
「キーウの人々の生活は、派手すぎると思うことがあります」

アリーナさんが普段身を置いているのは、多くの兵士が命を落としている戦場。ウクライナ軍の衛生兵なのです。

この日、アリーナさんは、共に戦ってきた仲間が眠る墓を訪れました。「ダビンチ」のコードネームを持ち、“史上最年少指揮官”として部隊を率いたドミトロさん。今年3月に戦死しました。27歳でした。

アリーナさん
「彼は偉大な司令官でした」

ドミトロさんの死は、ウクライナ国内に衝撃を与え、ゼレンスキー大統領もその死を悼みました。

ゼレンスキー大統領(大統領SNSより)
「本日、『ダビンチ』が戦闘で亡くなった。彼の勇気は永遠にウクライナの歴史に刻まれる」

葬儀には数千人もの人々が参列しました。しかし――

アリーナさん
「葬儀に集まった人々を見ても何の感情もわきませんでした。ただ愛する人に生きていてほしかった」

実は、アリーナさんにとってドミトロさんは、同じ部隊の仲間であり、6年間を共に過ごした恋人でもありました。ロシア軍の砲弾を受け、深手を負ったドミトロさんの救命に向かったのもアリーナさんでした。

アリーナさん
「あの日、ドミトロは戦闘任務についていました。無線で何度も連絡をくれて、『大丈夫だ』『すぐに終わらせる』と言っていたんです。重傷を負った彼を一目見て、救命は厳しいと分かりました。それでも最後まで蘇生処置を続けました」

目の前で最愛の人を失ったアリーナさん。深い心の傷を抱える中、生きる支えになっているのは、ドミトロさんが残してくれた“忘れ形見”です。秋田犬のヒューゴ。2年前にドミトロさんが贈ってくれた大切な家族です。普段は両親に預けていて、休暇で前線を離れるときだけ一緒に過ごすことができます。

アリーナさん
「以前は別々に寝ていたんですけど、今は一緒のベッドで寝ています。戦争が始まって、人生がいつ終わるか分からないと思って…」

――軍隊をやめたいと思ったことはありますか?

アリーナさん
「毎日思っています。親しい人たちが死んでいくのを見続けるのは本当につらいです」

それでもなお、戦場に立ち続ける理由は…。

アリーナさん
「国や国民のためと高尚なことを言うつもりはありません。ドミトロのためです。私たちの部隊が続くかぎり、ドミトロも生き続けるんです」

アリーナさんは、「ドミトロさんのために」と自分に言い聞かせ、部隊と行動を共にする覚悟を決めました。その一方で、ウクライナが勝利したとしても真の喜びはないといいます。

アリーナさん
「私が思い描いていた勝利は、ドミトロの死によって意味のないものになりました。ウクライナの人々は誰も勝利を祝うことはできないでしょう。あまりにも多くものを失ってしまったから」

取材の数日後、前線に戻ったアリーナさん。ドミトロさんを仲間とともにしのびました。

アリーナさんは戦地から、「あなたの匂いがする服が、崩れ落ちていくものにしがみつく力を与えてくれる。ここは最悪の状況だけど、私たちは耐え続けている」とSNSに投稿しました。