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【解説】米・ペロシ下院議長の台湾訪問…中国は激怒 人物像は? 天安門広場で“横断幕”掲げたことも

2022年8月3日 20:12

アメリカ下院のナンシー・ペロシ議長が、2日から台湾を訪問しています。これに対して、中国が軍事的な威嚇も見せつけ、激怒しています。

「ペロシ議長はどのような人?」、「台湾訪問の目的は?」、「中国激怒のワケ」の3つのポイントについて、詳しく解説します。

■25年ぶりの米下院議長による台湾訪問 中国は“報復措置”を…

ペロシ下院議長は日本時間2日午後11時45分過ぎ、台湾の地に降り立ちました。そして、3日午前、蔡英文総統と会談し、次のように発言しました。

アメリカ ペロシ下院議長
「今、かつてないほどアメリカと台湾の団結が重要です。台湾と世界の民主主義を守るためのアメリカの決意は、揺るがない」

一方、中国の国営テレビは2日夜、台湾付近での軍事演習について「中国軍が一斉に活動を始めた」とする映像を配信しました。台湾の国防部は、「台湾が設定する防空識別圏に、2日だけで、中国軍の戦闘機などが、のべ21機進入した」と発表しました。

また、中国当局は3日朝、台湾のかんきつ類や魚介類の一部について「輸入を停止する」と発表するなど、矢継ぎ早に報復措置を打ち出しています。

■筋金入り「対中強硬派」 天安門事件から2年後に現場で“横断幕”を…

中国をここまで激怒させている「ペロシ議長」とは、どのような人物なのでしょうか。

アメリカの下院議長として25年ぶりに台湾を訪問したペロシ氏は、現在82歳です。アメリカでは、下院議長は大統領、副大統領に次ぐ事実上の“ナンバー3”のポジションです。年齢で言えばバイデン大統領の3歳年上で、今から15年前の2007年に「アメリカ史上初の女性議長」に就任した人物です。

82歳で現役議長を務めているペロシ氏は、5人の子供と9人の孫がいます。米・ワシントンポスト紙によると、大学生時代の恋人である夫と結婚した後、6年間で1男4女の、5人の子供を産んだという、“超パワフルな母親”でもあります。自身の父親も政治家で、一番下の子供が高校生になった1987年に民主党議員として初当選しました。以来、西部・カリフォルニア州の代表を35年間務める、女性のリーダーです。

実はペロシ氏は、筋金入りの「対中強硬派」として知られています。

有名なのが、“天安門広場での行動”です。その時の模様が、ペロシ議長の公式ツイッターに投稿されているニュース映像に収められています。

ペロシ氏らは今から31年前の1991年に、北京の天安門広場を訪問しました。民主化を求める学生らが武力制圧され、多数の死者を出した「天安門事件」から、わずか2年後のことです。ペロシ氏らが手に持った横断幕には「中国の民主主義のために命を捧げた方々へ」と書かれていました。この後、中国の警察官に制止され、テレビクルーは拘束されて、議員たちは広場から追い出されました。

ペロシ議長はその後も、中国の人権問題――特にウイグル人やチベット人など中国政府によって抑圧されているとされる人たちのために、声を上げ続けてきました。

2009年には、アメリカ下院議長として、当時の中国の胡錦濤国家主席と会談しました。後にノーベル平和賞を受賞した中国の民主活動家・劉暁波氏ら政治犯の釈放を求める手紙を手渡しました。また、北京冬季五輪が開催された際には「外交的ボイコット」も主導してきました。

なぜ今、台湾を訪問するのでしょうか。

台湾へ着陸直後、ペロシ議長と議会の代表団が出した声明では、「台湾の活力ある民主主義を支援するという、アメリカの揺るぎない関与を示すものだ」としています。

■中国は猛反発 実弾使用の「重要軍事演習」実施を発表

ただ、この訪問に対する中国の猛反発は明らかです。

中国軍は、4~7日まで、実弾を使った「重要軍事演習」を行うと発表しています。その演習区域は、台湾を取り囲むように6か所設定されています。日本の与那国島も、南北を軍事演習の区域に挟まれる形になっています。中国側は、「軍事演習の期間中は船舶や航空機の通行を禁じる」としています。

さらに、中国外務省が3日朝、王毅外相の最新の声明を発表し、「台湾問題で挑発してトラブルを起こし、中国の発展を遅らせようと企てるのは全くの徒労であり、必ず頭が割られて血が流れる」と強い表現を交え非難しました。

■反発の理由 専門家は「“関与のレベルが上がった”と中国側はみている」

中国がここまでペロシ議長の台湾訪問を嫌がる理由はどこにあるのか、中国・台湾関係に詳しい東京外国語大学の小笠原欣幸教授に聞きました。

アメリカの議員が台湾を訪問し、蔡英文総統と会談すること自体はこれまでも何度もあったことですが、「今回はペロシ下院議長ということで、『アメリカの台湾関与のレベルが上がった』と中国側がみていることが反発の大きな理由」だということです。

小笠原教授によると、中国側は「このまま見過ごすと、いろいろな国の議員や議長が続々と台湾を訪問することにつながりかねないという警戒感がある。だから、ここで大きく釘を刺しておこう」としているといいます。

もう1つの理由として、中国の国内事情があります。

この秋に、習近平国家主席は任期延長、異例の3期目がかかる「共産党大会」を控えています。小笠原教授は、「党大会を前に弱腰とみられるのはどうしても避けたいので、強い行動に出る可能性が高い」とみています。

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秋には中国で共産党大会があり、アメリカも中間選挙を控えていて、どちらも相手への強硬姿勢を崩せないという国内事情を抱えています。今すぐ軍事的対立に発展することはなくとも、今後、「中国が“台湾統一”に向けて圧力を強めていく」とアメリカは非常に強い警戒感を持っていて、これからの中国の出方が注目されます。

(2022年8月3日午後4時半ごろ放送 news every. 「知りたいッ!」より)

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