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日本のリニア技術を初めてニューヨークで売り込み アメリカで日本製リニアが走る未来は?

2023年2月23日 14:25
日本のリニア技術を初めてニューヨークで売り込み アメリカで日本製リニアが走る未来は?
リニアイメージCG/提供:NORTHEAST MAGLEV

日本のリニア技術を売り込むイベントが今月22日、アメリカ・ニューヨークで初めて行われた。JR東海が品川ー名古屋間に建設中の「超電導リニア」をアメリカ企業に技術協力し、首都ワシントンからニューヨークを1時間で結ぶプロジェクトを会長が直接PRした。アメリカに日本のリニアが走る未来は訪れるのか。

■アメリカでの高速鉄道プロジェクト…日本の技術協力は?

広大な領土を持つアメリカでは、移動手段は車や飛行機が中心である。ニューヨーク、ワシントン、ボストンなど大都市周辺には鉄路は張り巡らされているが、都市間鉄道輸送は運行頻度、定時性、高速運転など日本の鉄道にはかなわない。そんな中、アメリカ国内に高速鉄道を導入している場所、これから導入しようとしている場所が4つある。

<1.カリフォルニア高速鉄道>
全米最大の人口を擁する西部カリフォルニア州では大都市サンフランシスコ、ロサンゼルス、サンディエゴなどを結ぶ高速鉄道が計画されている。専用軌道を建設しつつ、大都市通勤圏では既存の在来線に乗り入れる方式を採用している。このため山形・秋田新幹線で在来線に乗り入れる新幹線を運行するJR東日本がかつて入札を検討していたが、採算性に疑問があるとして撤退した。カリフォルニア高速鉄道は2015年に着工されたが、運行は2030年頃になる見込みだ。

<2.フロリダ高速鉄道>
南部のフロリダ州では、「ブライトライン」と呼ばれる高速鉄道が2018年からマイアミーウェストパームビーチ間で運行を開始している。さらに線路をオーランドまで2021年に延伸する予定にしていたが、新型コロナウイルス流行などの影響で開業は延期となっている。

<3.テキサス高速鉄道>
JR東海が技術協力をして日本の新幹線方式を採用するのがテキサス高速鉄道だ。ダラスーヒューストン間のおよそ380キロを90分で結ぶ予定で建設に向けて作業が進んでいるが、ここに至るまで大きな苦労があったという。それは日本とアメリカの安全基準の違い。アメリカの鉄道は、踏切で自動車やトラックと衝突しても乗客の命が守られるように、先頭車両が頑丈であることが求められる。

一方、日本のフル規格新幹線は専用軌道で全線立体交差で踏切がなく、トラックなどと衝突する恐れはない。そのためスピードを上げるために車体には軽いアルミが使われている。

JR東海の関係者によると、アメリカの重厚な車両と比べるとアルミの車体は“セミの抜け殻”のようなものだという。衝突事故を前提に、図体が大きくて丈夫な車両を要求するアメリカの安全基準に対し、日本の新幹線はそもそも衝突を避ける(クラッシュアボイダンス)という哲学で設計されている、この違いを数年にわたって運行当局と協議し、特例として安全基準をクリアするところまでこぎ着けた。

環境影響評価もすでに終了していて建設資金の調達が進められていたが、コロナの影響でペースダウン。資金集めの体制を現在立て直しているところだという。

JR東海によると、安全基準と環境影響評価が終わっているので、資金のメドがつけばテキサス高速鉄道の着工には比較的すぐこぎ着けられるだろうとする。

■4.ニューヨーク・ワシントンを結ぶ“北東回廊”は?

そして今回、JR東海が照準を合わせるのがニューヨークーワシントン間の“北東回廊”だ。しかも新幹線ではなく、品川ー名古屋を40分で結ぶべく建設中の「超電導リニア」方式での技術協力。建設には新幹線よりも莫大な費用が必要となる。

世界を見渡すと、高速でのリニアモーターカーが実用化されているのは、上海浦東国際空港と市内を結ぶ路線と、JR東海のリニア中央新幹線ぐらいに限られる。

JR東海はなぜ、“北東回廊”に目をつけたのか。“北東回廊”とはボストン・ニューヨーク・フィラデルフィア・ボルチモア・首都ワシントンDCという名だたる大都市が連なる地域をさす。このエリアにはアメリカの人口の17%が居住していて、東京・大阪・名古屋圏を合わせたGDPよりも大きい。

JR東海によると、人口だけではなく「時間を金で買う」ビジネスパーソンがたくさんいるため採算がとれると判断される路線は、世界を見渡しても東京ー大阪間と、アメリカの“北東回廊”ぐらいしかないという。

現在のニューヨークとワシントン間の高速鉄道アセラでの所要時間は3時間弱。在来線軌道を使用しているため高速運転できる区間も限られる。本数も1時間に1本あるかないかで、東海道新幹線の高頻度運行に比べると使い勝手は悪く、筆者の個人的な経験でも座り心地はアセラのビジネスクラスより新幹線の自由席の方が快適だと感じる。(アセラには普通席はなくファーストクラスとビジネスクラスのみ)

■ニューヨークーワシントン間が1時間 経済効果をアピール

22日のイベントでJR東海の柘植康英会長は、リニアの速達性、高頻度運行、定時性に加えて「ニューヨークとワシントンが1時間で結ばれると、巨大経済圏が形成され間違いなく大きな経済効果や人々の生活にポジティブなインパクトがもたらされる」とニューヨーカーらにアピールした。さらに、航空便への波及効果についても言及。高頻度で鉄道が運行されることで、国際空港のスロットや機体をより需要の高い航空路線に振り分けられるとした。

JR東海と協力して現地展開を行う「ノースイースト・マグレブ」のウェイン・ロジャースCEOは、車に比べると温室効果ガス削減につながり、新たに雇用も創出されると経済効果を訴えた。

一方で、「リニアは既存のアムトラックを補完するものだ」として、現在運行しているアムトラックへの配慮もにじませた。

イベントに参加した在ニューヨーク日本総領事館・森美樹夫総領事は、非常に素晴らしい民間企業同士の協力だとした上で、「日米関係を象徴するプロジェクトであり今後、日本政府としても様々な形で協力していきたい」と述べた。

会場には、地元自治体の議員や企業関係者など95名が集まった。参加者の1人は、「これまで3~4時間かかっていたのが1時間に短縮されるのは素晴らしい。アセラよりもずっと素敵なものになりそうだ」と語った。

ニューヨークに日本のリニアが乗り入れる未来は訪れるのか。「ノースイースト・マグレブ」社によると、計画はまず第一弾として首都ワシントンからメリーランド州のボルチモア間65キロを15分でつなぐ予定だという。2033年から2034年ごろの完成をめざして環境影響評価が現在進められている。

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