W杯が南アフリカ経済にもたらした影響
「2010 FIFA ワールドカップ 南アフリカ」は11日に決勝を行い、約1か月の戦いに幕を下ろす。アフリカ大陸初の開催として注目された今回の大会が南アフリカの経済にもたらした影響について、南アフリカの最大都市・ヨハネスブルクから岩崎建記者が報告する。
民間の国際会計事務所が算出したところによると、ワールドカップによる経済波及効果は930億ランド(1兆600億円)に上る。さらに、GDP(=国内総生産)を0.54%押し上げると予測している。
ゴーダン財務相が明らかにしたところによると、ワールドカップ開催のための国の拠出額は300億ランド(約3400億円)。内訳は、スタジアム周辺の駅や道路、空港の整備に130億ランド(約1500億円)、スタジアムの建築・改修に約105億ランド(約1200億円)などとなっている。
大会期間中の外国人訪問者数は約40万人と見込まれており、02年の日韓大会の時の25万人を上回っている。外国人による消費支出は、150億ランド(約1700億円)になるという。
南アフリカがワールドカップで得た最大の成果について、JETRO(=日本貿易振興機構)ヨハネスブルクセンター・石井茂所長は「アフリカでもやればできるんじゃないかと、(南アフリカ人の)心の中に与えた影響、世界に対して自信を持てたことは、非常に大きなインパクトがあることではなかったのかなと」と指摘している。世界の不安や懸念の声をよそに、大会を成功させたことで、「国際社会での信用度をアップさせた」とともに、「南アフリカ国民の心にも自信を植えつけた」というのだ。これこそが最大の成果だといえる。
また、イメージアップの効果も見逃せない。ケープタウンで観光客に対して行ったアンケートの結果によると、74%が「安全と感じた」、98%が「また来たい」と回答している。外国人にとって治安面での不安が最大の懸念材料である南アフリカにおいて、この数字は非常に意味がある。
大会前は、インフラ整備が間に合うのかと懸念されていた。当初は「スタジアム建設も間に合わないのではないか」と指摘されていたほどだが、これらは杞憂(きゆう)に終わった。
特に南アフリカの将来にとって大きな財産となったのが、道路や鉄道といった「交通インフラ」の整備。ヨハネスブルクではこれまで、空港と市内を結ぶ公共交通機関すらなかった。ところが、空港や鉄道、道路と大がかりな交通インフラの整備を行ったことで、今後、外国資本を呼びこむことにもつながる大きな財産を得たことになる。
ワールドカップ開催は良いことずくめのようだが、将来に向けてあらためて見えた課題もある。南アフリカの社会構造で大きな問題となっているのが、「貧富の格差」と「失業問題」だ。ワールドカップは、建設業やサービス業などを中心に大きく雇用創出に貢献した。13万人の雇用を生み出したというデータもある。しかし、これはいわば一過性のもので、大会が終われば、こうした人たちは再び職を失い、失業率は上がることになる。
ただでさえ、去年はリーマンショックの影響もあって90万人が失業している。南アフリカの主な産業は、豊富な地下資源に基づく鉱業と自動車生産を中心とする製造業だ。しかし、これらは世界の景気に大きく左右されるため、ワールドカップ後の失業者をすぐに吸収できるわけではない。
南アフリカの経済規模はアフリカ大陸では圧倒的だが、ワールドカップの成功は、世界にさらなる成長の可能性を示した。ズマ大統領は早くもオリンピック招致に言及している。今後、ワールドカップで得た国際的な信頼を維持し続けられるかということが、南アフリカにとっての大きな試金石であり、日本をはじめとして国際社会がさらに本格的に進出していく上での鍵となるとみられる。