「チャットGPT」で近未来はどう変わる?…アメリカで注目の技術者に聞く
マイクロソフトが数千億円の出資を決めた人工知能「チャットGPT」。アメリカでは人工知能によるボットを使って企業の問い合わせを全て自動化して料金交渉を行うアプリや、チャットGPTを見抜くAIも登場している。“ロボット弁護士”が法廷に立つ日も現実味を帯びているアメリカで開発者に話を聞くことができた。
■“ロボット弁護士”開発者の自宅へ・・・「チャットGPTは最も訓練されたAI」
“ロボット弁護士”の開発者であるジョシュア・ブラウダーさんに招かれたのは、マンハッタンの一等地にある高層アパートメントの自宅。取材当日は空気が澄んだ晴れた日で窓からは眼下に摩天楼が広がっている。ブラウダーさんは拠点がある西海岸のサンフランシスコから、2週間前に引っ越したばかりで、今後はニューヨークでも拠点を設ける予定だという。
ブラウダーさんが運営するアプリはその名も「DoNotPay」(払っちゃだめ)。AI技術で業者に送るクレームの文言を自動化し、返金交渉を行ってくれる。登録者数は1月は25%増と評判は上々で合計およそ30万人に達したというが、従業員はたった25人で回しているという。
「消費者の権利を自動化することが目的だ」と話すブラウダーさんは、チャットGPTはあらゆる文書・本・ウェブサイトからの情報を取り込むのに優れていて「最も良く訓練されたAI」だと評価する。とはいえ、インターネット業者との料金交渉のシミュレーションを行うと、うその事実をでっち上げたりしたケースがあったため、これまで手がけてきた過去7年にわたる200万ケースを学習させて、実際に返金に成功するまでのレベルに達したという。ブラウダーさんは、月額10ドルの返金交渉のために、ユーザーが資料を読み込んだり、問い合わせフォームを入力したりするのはコストにあわず、その手間を肩代わりするのにAIは最適だと語る。
■「自分のポケットに弁護士を入れる時代が来る」
そんなブラウダーさんは、“ロボット弁護士”を法廷に登場させると発表し、アメリカメディアから注目を浴びた。“ロボット弁護士”は2月22日に史上初めて法廷にお目見えする予定で準備を進めていたというが、弁護士会から違法だという指摘や反対が相次ぎ、延期を決断せざるを得なかったという。ブラウダーさんは今年半ば頃には“ロボット弁護士”を法廷に立たせたいとした上で、次のように語った。
「多くの弁護士は、テクノロジーを非常に恐れ、AIを恐れています。チャットGPTは1万件の書類を読み込んでアドバイスをくれます。1万件の書類を読む暇がある人なんていません。自分のポケットに弁護士を入れる時代がくると思います」
■教育現場ではカンニングに使われるという指摘も
チャットGPTは高い性能が評判となっていて、ペンシルベニア大学の教授がMBA=経営学修士の試験を解かせたところ、合格点に達したという実験結果も発表されている。スタンフォード大学は、学生の17パーセントが宿題や試験でチャットGPTを活用し、5%はほぼ編集なくそのまま提出したという調査結果を発表した。
ニューヨーク市は、学校の端末からチャットGPTへのアクセスを禁止する措置をとるなど、教育現場では対策が求められる事態になっている。
■「人間が書く文書はAIにはマネできない」ー“AIを見抜くAI”を大学生が開発
その教育現場から今注目を浴びているのは、“AIを見抜くAI”、その名も「GPTゼロ」。レポートがチャットGPTで書かれたかどうかを見抜くAIでプリンストン大の4年生、エドワード・ティアンさん(22)が開発した。カナダ国籍で幼い頃に日本に住んでいたこともあると話す。
ティアンさんがGPTゼロをリリースしたのが今年1月。冬休みのわずか2、3日で近所のコーヒーショップで制作したところ大評判となり、世界30か国4万人以上の教育関係者が登録したという。中には日本の大学からも含まれていると教えてくれた。
「チャットGPTは新しいイノベーションだが、オリジナルなものは何も生み出さない」と話すティアンさん。文書作成パターンは一定なので、その痕跡を検知するシステムを組むのはそんなに難しくなかったという。
■「チャットGPTはパンドラの箱を開けたようなもの」ー偏見・分断を助長する懸念を指摘
かつてイギリスの公共放送局BBCの調査に参加して、陰謀論やツイッターのボットについて調べた経験のあるティアンさんは、あることないことが入り乱れているインターネット空間から学習するチャットGPTはパンドラの箱を開けたようなものでフェイクニュースの温床になりかねないと警鐘を鳴らす。
「チャットGPTはニュースを作り出すのに優れています。本物のニュースのように見えるのです。悪用される可能性は大いにあります」
ネットからの学習データに偏りがある場合は、そのまま文書に反映されるため、特にソーシャルメディアを通じて誤った情報により差別や分断が助長されかねないとの懸念を示したティアンさん。人は誰でも真実を知るに値するとし、自らが開発した「GPTゼロ」は、チャットGPTが悪用されることなく使われるようなセーフガードを構築することを目的としているという。
新たなツールを採用する際には、結果や責任を持って採用することが重要だと強調したティアンさんは、10年後、20年後には誰もが自分らしい本来の文書を書かずに、チャットGPTで文書を書くようになる時代が来ると思うと残念でならないと話す。そして、未来ではオリジナルな文書が書けることが個人の重要なスキルになるであろうと予想した。
「人が書くものは美しいのです。チャットGPTが書く文書は一定ですが、人間は創造力を爆発させることができ、コンピューターに決してマネできないものがあるのです」
チャットGPTは未来の世界をどう変えるのか。その使われ方に今後も目が離せない。