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カニめぐる日露協定 輸入減で価格にも影響

2014年12月12日 19:55
カニめぐる日露協定 輸入減で価格にも影響

 10日、ロシアから日本へのカニの密漁や密輸を防止する協定が発効した。これによってロシアから輸入されるカニは減少し、割高になることも懸念されている。なぜ、この協定が必要になったのか、その背景を取材した。

 北海道の稚内では、ソ連が崩壊した90年代以降、ロシアからの船が大量にカニを運んで来るようになった。稚内市内のカニ販売店には毎日、多くの観光客が訪れ、ロシアから届いたばかりの新鮮なカニが人気を集めていた。

 取材を進めると、ロシアと日本のカニの輸出入に関する驚くべきデータを入手した。そのデータによると、90年代後半、ロシア側の統計では、日本へカニを輸出した量は年間3000トンから7000トンあまり、しかし、日本側の統計では毎年、その8倍から25倍以上が輸入されたことになっていた。

 ロシアの海で違法な操業が行われているのか。サハリンの水産会社にカニ漁の取材を申しこんだところ、船の名前と乗組員の顔を映さないことを条件に許可が出た。はたして海の上では一体何が行われているのか。

 「かごを船にあげろ」

 船員が甲板で指示を出し、素早くカニを収めていく。私たちには、ごく普通のカニ漁にみえた。

 取材をはじめて3日目。荒波をぬうように1隻の船が近づいてきた。仲間の漁船だ。このとき、船室から出ないように指示され、私たちは窓越しから取材を続けた。すると、漁船からこちらの船に青いケースが次々と積み込まれたのだ。船の倉庫にはあの青いケースが積まれ、中をのぞくとそこには毛ガニがつまっていた。そして、取材班を乗せた船は、なぜかロシアの港に戻って税関での手続きをすることなく北海道の稚内へ向かったのだ。しかし、日本政府はロシアの海でとれた水産物を直接日本へ運ぶことを法律で禁じている。日本での荷揚げに問題が無いのか尋ねてみると、船長はこう答えた。

 「大丈夫だ。漁場から運ぶなというのは日本側の問題だ。ロシア側の問題ではない」

 この船は、何度も同じように北海道に入港してきたのだという。実績のある船にカニを集めて日本へ運んでいたのだ。船が日本の税関などに提出した書類は、カニ漁船のはずがなぜか貨物船となっており、さらに、サハリンの港でカニを積んだとウソの届け出をしていたのだ。水産庁管理課の武田課長(2005年2月当時)は、こう語っていた。

 「ロシア漁船による密漁、密輸の問題は、ロシア政府が第一義的に責任を持って対応すべき問題。ロシア側に自国の水域での資源管理をちゃんとやってもらうことが重要」

 サハリンの資源研究機関の調査によると、ロシアのカニは90年代のはじめと比べて40分の1になったという。自国の資源を重視するロシアは、カニを買う側の日本の責任を追及しはじめる。しかし、この4年間も、カニの輸出入量を示す日露の統計の間に大きな差がある実態は変わらなかった。ロシア漁業庁はついに、状況が改善されなければ、日本漁船に対するロシア海域でのスケソウなどの漁を認めないことを示唆した。ロシア漁業庁のクライニー長官(2012年11月当時)は、こう述べている。

 「日本政府が密漁者を黙認するなら、ロシア政府はすべての日露間協定について、ロシア海域での漁獲を認めないという権利を持つ」

 結局、ロシアは、韓国、中国、北朝鮮と密漁防止協定を相次いで署名。2012年9月には日本との間で署名式が行われた。ロシア側の強い態度に、日本も重い腰を上げざるを得なかった。11月、原田駐ロシア大使はこう語った。

 「この協定によって、カニの密漁・密輸出が抑止されて乱獲によるカニの枯渇を防ぐことによって、カニの我が国への長期的な安定供給に寄与することが期待され、まさに我が国の国益にかなうと考えています」

 そして、ロシア漁業庁のアンドレイ管理監視局長はこう語る。

 「日本側との協定の結果、ロシア極東海域には密漁、密輸ができる場所は残らないと考えています」

 北海道の港町・紋別では、協定の発効を前に、ロシアから運ばれるカニが普段の倍の量になった。今後、日本政府とロシア政府がこの協定を実行力のあるものにしていけるのかどうか、問われることになる。