北朝鮮「軍事パレード」に“中国の存在感”
10月に北朝鮮が労働党の創立70年に合わせて行った大規模な軍事パレード。国を挙げたイベントの舞台裏とは―
■平壌近郊の様子は―
10月6日、平壌郊外に作られた真新しい空港ターミナル。空港から市内に向かう道路では市民らが動員され、新たな欄干を取りつける工事が進められていた。道路脇には、「70周年」などと書かれた多くの飾りが取り付けられている。
今回、入国を認められた外国メディアは約150人。北朝鮮の労働党創立70年に合わせた軍事パレードが行われるまでの間、様々な場所を取材するツアーが組まれた。しかし、その多くは朝鮮戦争以降のアメリカとの戦いに関するものだった。
■ツアーでは、娯楽施設も
「祖国解放戦争勝利記念館」には朝鮮戦争でアメリカから奪った戦車や戦闘機の実物が保存されていた。敷地内の川には、1968年に北朝鮮が拿捕(だほ)したアメリカ軍の情報収集船「プエブロ号」の実物も。船内にはこんなビデオが―
ビデオ「我が国の領海でスパイ行為をはたらいたアメリカ帝国主義の武装スパイ船
『プエブロ号』を拿捕し…」
日本のメディアには“日本語音声”で事件の経緯を説明するビデオを上映。内部には、押収した通信機器などが展示されていた。
案内された施設には、平壌市内の川に浮かぶ遊覧船もあった。金正恩第1書記が党の創立70年の前に完成させるよう指示し、メディア訪問の数日前にオープンしたばかりだった。中では昼間から食事やカラオケを楽しむ家族連れの姿が―
訪れた親子「祝日を楽しもうとやって来ました」
■いよいよ軍事パレード当日
軍事パレードの日が近づくと、市内では交通規制が敷かれ、あちこちで渋滞が発生。また、広場では着飾った若者たちが行進の練習をする姿も見られ、周到な準備が進んでいることをうかがわせた。
そして、軍事パレード当日。午前中に行われるとの当初の見通しから一転し、集合がかかったのは正午過ぎ。この日は朝から冷たい雨が降っていたが、会場に着く時間に合わせたかのように青空が広がった。そして、金第一書記が姿を見せると、会場からは大きな歓声がわき起こる。
金第1書記「わが軍と人民の不屈の気性と団結力は、敵を極度の不安と恐怖に追い込んでいる。アメリカが望むいかなる戦争もすべて相手にできる」
演説で金第1書記は、アメリカへの対抗姿勢を強調。軍事パレードでは、アメリカの一部を射程に収めるとみられる改良型の大型弾道ミサイルなどが公開された。
■際立つ“中国の存在感”
一方で、パレードには金第1書記が食生活の向上のために力を入れているナマズやキノコなどのキャラクターも登場。兵器よりもむしろ市民による行進に比重を置いたものだった。挑発姿勢を抑えたパレードの背景には中国の存在がある。
原田記者「金正恩第1書記と中国・劉雲山政治局常務委員がいま、手をつないで大きく手を上げました」
パレードの最中、金第1書記は傍らの中国共産党・序列5位の劉雲山政治局常務委員と何度も手を取り、友好を強調。事実上の弾道ミサイルの発射も見送った。
パレードが終わると、天候は再び悪化し、雷雨に。若者たちは、ずぶ濡れになりながらも、金第1書記が見守る中、たいまつを両手に持って行進。党の創立70年を祝う文字などを人文字で描いていた。
国を挙げた大規模なイベントで、国民の団結をはかった北朝鮮。日本の安全保障にも大きな影響を及ぼすこの国の情勢から、今後も目を離せそうにない。