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“EU離脱”の余波 混乱続くイギリス

2016年7月8日 15:07
“EU離脱”の余波 混乱続くイギリス

 先月の国民投票で、EU(=ヨーロッパ連合)からの離脱が決まったイギリス。その決定は世界に大きな衝撃を与えた。「残留」ではなく「離脱」を選んだことで混乱が続くイギリスを取材した。


■「離脱」を選んだイギリス国民
 「イギリス国民は、私とは違う道を進むと決断した。その道に進むには、新しいリーダーが必要だと判断した」―EU残留を訴えていたキャメロン首相は、自らが実施すると公約にした国民投票によって、辞任に追い込まれた。

 EUに加盟する28か国の間では「人・モノ・カネ」の移動が自由となっていて、域内の貿易では関税がかからない。しかし、今後、イギリスが正式に離脱となった場合、EUとの間の取引には関税がかかる可能性がある。

 日本でも人気の高い高級折り畳み自転車メーカー「ブロンプトン」。1台1台が全て手作りで、EU諸国を中心に全世界へ輸出している。ブロンプトンはEUへの残留を支持している。

 ブロンプトンのウィル・バトラーアダムスCEO「(EUの)フランスやドイツで販売するために、さらなる出費はしたくありません」


■離脱派・残留派の主張
 世界有数の金融街「シティ」を誇るイギリス。キャメロン首相をはじめ、EU残留派は「5億人のEUへの単一市場から離脱した場合の経済的打撃は計り知れない」と繰り返し訴えてきた。

 一方の離脱派は「EU域内から大量に流入する移民が職を奪い、公共サービスを低下させている」などと主張。去年1年間だけで過去最高の16万人以上の移民が流入する中、「EUから離脱すればこれを減らすことができる」などとアピールした。

 国民投票の結果は離脱派が勝利。直前まで苦戦が伝えられていた離脱派の人々は勝利の喜びに沸いた。

 しかし、イギリスのEU離脱は世界に大きな衝撃を与え、マーケットを中心に混乱が続いた。

 離脱に投票した人「(離脱と比べて)残留に関する情報は十分ではなかった。私は間違えた。(残留に)気持ちは変わったが、遅すぎた」


■離脱派の主要2人、表舞台から去る
 さらに、離脱派の主要人物でイギリス独立党のファラージ党首は、国民投票の前には「EUに支払っている1週間あたりの拠出金約480億円を社会保障費に充てることができる」としていたが、離脱決定後に「これは誤りだった」と発言を撤回。党首を退くことを表明した。

 また、国民的人気が高く離脱派勝利に大きく貢献した前ロンドン市長のボリス・ジョンソン氏も、事実上の次の首相となる与党・保守党の党首選に立候補しなかった。離脱派をけん引した2人が相次いで表舞台から退いたのだ。


■スコットランドで再び…
 混乱にますます拍車がかかる事態が起きた。それは「残留」支持が「離脱」を大きく上回ったイギリス北部のスコットランド。EUに残留するため、イギリスから独立するかどうかを問う住民投票を実施する意向を示したのだ。

 EU残留を求める集会に参加した人は「スコットランドの独立を望みます。自分たちのことは自分たちで決めるべきです」と話す。

 一方、イギリス国内向けの販売がメインというスコットランドの名産品「ショートブレッド」の会社を経営するアンソニー・レーンさんは「(イギリスからの独立を問う)住民投票を行ったとしても、いい事は起きないだろう。(独立したら)もっとビジネスは難しくなる」

 2014年にもイギリスからの独立を問う住民投票が行われたスコットランドでは、またしても世論が二分されているのだ。

 キャメロン首相は「離脱を巡る交渉は後任の新しい首相がすべきだ」としているが、有力候補であるメイ内相らは「年内には交渉を始めない」としていて、不透明な状況が続いている。

 歴史的な「EU離脱」の決定を下したイギリス。しかし、離脱に向けた見通しはまだ立っていない。