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北方領土問題で進展は ロシアの思惑とは

2017年1月3日 21:22
北方領土問題で進展は ロシアの思惑とは

 2016年は北方領土問題の進展が難しいことを再認識することとなった。3度の首脳会談を経て、迎えた12月のプーチン大統領の来日では、期待の高まりとはうらはらに結果は厳しいと言わざるを得ないものだった。

 2017年、領土問題に進展はあるのか。3つのポイントから考えてみたい。

■「共同経済活動」協議

 1つ目のポイントは、共同経済活動に関する協議だ。12月の首脳会談の成果と言えるのは、北方4島での「共同経済活動に関する協議を開始する」ことだった。北方領土での共同経済活動は、ロシアの主権を認めることにつながる恐れがあり、これまで日本は慎重な姿勢を示してきたが、ここにきて大きく譲歩した形だ。

 安倍首相はプーチン大統領との共同会見で、共同経済活動を行うために、「特別な制度」の導入で合意したことを強調した。「特別な制度」とはロシアの主権を認めない形での制度だと予想できる。とはいえ、どこまで日本の主張を踏まえたものになるかは不透明だ。

 そもそも、この日発表されたプレス向け声明に「特別な制度」の文言はなかった。また、会見前日には、ロシアのウシャコフ大統領補佐官が、共同経済活動は「ロシアの法律に基づく」と発言し、日本をけん制した。

 さらに、別の高官は、「放棄できないもの」として「歴史認識」を挙げている。ここでいう歴史認識とは、北方領土は第2次世界大戦の結果、合法的にソ連の領土になった、つまり、4島の主権はロシアにあるということだ。

 こうした中、「特別な制度」の交渉は難航が予想される。共同経済活動の協議開始は成果ととらえられる一方で、領土交渉の入り口段階での新たな宿題を抱えたという見方もできる。

■安保対話

 2つ目のポイントは、安全保障面からの領土交渉の進展だ。去年の日露交渉で大きくクローズアップされたのは、経済協力だった。安倍首相が提示した8項目の経済協力プランは、プーチン大統領が「唯一の正しい道」と評したように、経済、特に極東の開発に苦慮するロシアのツボをついたものだった。

 しかし、それだけでは領土問題は解決できない。今年は安全保障面からの対話がポイントになってくるだろう。北方領土はロシアにとって極東の軍事的な要衝だ。択捉島と国後島の間の国後水道は、オホーツク海から太平洋に抜ける軍の艦艇や潜水艦の重要な出入口となっている。

 去年5月、ロシア東部軍管区のスロビキン司令官は「クリル諸島や北極圏などでの軍事施設の強化は、国家的な優先課題であり、そのために前例のない措置をとる」と当該地域の軍備強化への強い意欲を示した。ロシアは現在、択捉島に近いクリル諸島のマトゥア島で軍事基地の設置に向けた準備を進めているほか、11月には、択捉島と国後島に、最新の地対艦ミサイルを配備していたことも明らかになった。

 さらに、近年では、地球温暖化にともなう北極海航路の誕生によって、オホーツク海の戦略的価値がさらに高まっている。ロシアにとって北方領土が持つ安全保障上の価値・重要性は、経済協力と引き換えでも手放せるものではない。この点においては、2013年11月に一度行われたままになっている外務・防衛閣僚協議、「2プラス2」の再開が今後の交渉進展をはかる1つの基準になるとみられる。2プラス2の再開について、ロシアの政府高官は「今回はモスクワで行う」と前向きな姿勢を見せている。

■政治の季節

 3つ目のポイントとしては、ロシア国内外の政治情勢が挙げられる。まず、プーチン大統領は2018年春の大統領選での再選に向けて、政権の地盤固めを行うとみられる。独立系世論調査機関「レバダセンター」によれば、大統領の支持率は2014年3月以降、80%台を維持している。それまで60%台だった支持率が急上昇した要因は、同時期に行われたクリミアの編入だ。

 いわば“領土の拡大”によって高支持率を維持している中で、北方領土で譲歩することは難しい。しかも、プーチン政権は、この高支持率にも慎重な姿勢を見せている。大統領自身は去年12月のインタビューで、「(国民の)信頼を乱用する権利はない」と話している上、大統領に近い高官も「いろいろな政党、意見があり、世論を無視できない」と指摘している。その意味では、領土問題での大胆な判断が難しい時期と言える。

 一方で、国外に目を向けると、様々な政治環境の変化がある。最大の変化はアメリカのトランプ大統領の誕生だ。ロシアとの関係改善に意欲を見せるトランプ氏に対して、プーチン大統領も呼応する姿勢をたびたび示している。年末恒例の内外会見では「米露関係改善のために何をするべきか一緒に考える」と意欲を示した上、「招待されれば行く」と、訪米も示唆した。

 米露の歩み寄りが領土問題にどう影響するのか。日本では、米露関係の改善によって相対的に日本の価値が下がると懸念する声が多いが、ロシアでは逆の見方も少なくない。日露関係に精通し、過去に領土交渉にも関わった元駐日ロシア大使のパノフ氏は、「米露関係の改善は日本にはプラスだ」と指摘する。

 「ダレスの恫喝(どうかつ)」に象徴されるような冷戦時代の米ソ対立が、日ソ、日露の領土問題を複雑化してきたことを考えれば、米露関係の改善によってアメリカの干渉が減り、交渉はやりやすくなるというわけだ。ある日露外交筋も同様の指摘をしている。

 このほかにも、シリア情勢など、ロシアを取り巻く環境を大きく変える可能性のある出来事が控えている。まさに、2017年、ロシアは“政治の季節”に突入する。

 2017年9月には、極東ウラジオストクで東方経済フォーラムの開催が予定されている。安倍首相が去年に引き続いて出席し、首脳会談が行われる見通しだ。これが2017年の北方領土交渉進展の1つの試金石になると言えそうだ。