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EU離脱交渉で英経済・企業はどうなる?

2017年1月3日 22:11
EU離脱交渉で英経済・企業はどうなる?

 「2017年3月までにEU側に離脱を通告し正式に交渉をスタートさせる」と明言したイギリスのメイ首相。交渉の内容次第では、堅調を維持するイギリス経済が大きく減速する可能性がある。

 世界有数の金融街「シティ」の市場関係者が懸念するのが「シングルパスポート」という制度の維持だ。EUには金融機関が、加盟国の1国で免許を取得すればEU全域で事業を展開できる制度がある。多くの金融機関はこの「シングルパスポート」を利用してイギリスで免許を取得し、ロンドンに拠点を置いて他の加盟国でも業務も行ってきた。

 しかし、EUから離脱してこの制度を維持できなくなった場合、EU域内で引き続き事業を行うためには新たにそれぞれの国で免許を取り直す必要があり、金融機関そして市場にも混乱を来す可能性があるのだ。

 実際、イギリスに拠点を置く金融機関の中には、2017年中に移転を検討するなどの対応策を示した企業もある。

 ロイター通信によると、アメリカ保険大手のAIGのヨーロッパ担当CEO・ボールドウィン氏は「2017年中にヨーロッパの本社機能をイギリスから他のEU加盟国に移す可能性がある」と話したという。

 日系の金融機関も追随の動きを見せる。三菱東京UFJ銀行は、ヨーロッパを統括する本部はロンドンに残す一方で、2017年中に、ドイツなど大陸の拠点をオランダ・アムステルダムの現地法人の管轄にすることを明らかにした。これは、イギリスのEU離脱後を見据えヨーロッパでの事業展開を円滑に進める狙いがあるとみられる。

 さらに、「フィナンシャル・タイムズ」はロンドンに拠点を置く複数の日系金融機関が「シングルパスポート」が維持されるかどうかなど離脱の条件がはっきりわからなかった場合、2017年6月までに機能の一部をイギリス国外に移転すると政府に対し警告したと報じた。

 日系金融機関がイギリス政府に対しプレッシャーをかけた形だ。3月からの交渉内容次第では金融機関の移転が現実のものとなり、イギリス経済に大きなダメージを与える可能性もあるといえる。

 一方、製造業は、金融機関とは違う動きを見せる。日産自動車はイギリス中部にあるサンダーランドの工場で、国内では最大となる年間50万台近くの車を製造し多くをEU向けに輸出している。EU離脱後には域内への輸出に関税が課される可能性があるが、日産自動車は、SUVの「エクストレイル」などの次期モデルを、サンダーランドの工場で生産すると発表した。2017年以降、さらに、この工場への投資を増やすとしている。日産自動車は「イギリス政府が支援を確約したから」としているが、製造業は金融機関と違い、工場などのインフラが国内に整備されていることなどから簡単に国外へ移転という訳にはいかないという本音も垣間見える。

 一方で、イギリスで原子力発電所の建設・運営を政府から委託され、大規模な鉄道事業も展開する日立製作所の中西宏明会長は、イギリス政府に対し今のビジネス環境を維持するよう直接求め、これまで通り、EUの単一市場へのアクセスを続けるようけん制している。

 しかし離脱交渉次第では、イギリスに拠点を置く製造業も戦略の見直しを迫られるのは必至だ。今後のイギリスの命運を握る重要な交渉相手となるEU各国の首脳は、元々イギリスが国民投票を行うきっかけとなった「移民の制限」と「EU単一市場へのアクセス」の両立という、いわゆる“いいとこ取り”は許さない姿勢を崩していない。3月から始まる離脱交渉でメイ首相は、どう折り合いをつけ国内経済へのダメージを回避させるのか。2017年はその先行きを示す重要な1年となりそうだ。