【専門家解説】ウクライナが反転攻勢…狙いは? ダム決壊の影響は【バンキシャ!】
日本時間の10日夜、ゼレンスキー大統領は、「ウクライナでは反転攻勢が始まっている」と明かした上で、「どの段階なのか、詳細は話さない」と述べた。
ゼレンスキー大統領
「我が軍の司令官たちは自信を持っていると、プーチンに伝えてほしい」
領土奪還へ向け攻勢をかけるウクライナ。攻撃の映像も次々と公開している。戦局は今、新たな局面を迎えた。
バンキシャ!は、現代軍事戦略が専門の高橋杉雄さんに話を聞いた。(バンキシャ!)
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──日本時間の10日夜、ウクライナのゼレンスキー大統領は反転攻勢は始まっていると明らかにしました。高橋さん、ウクライナ側はこれまで反転攻勢については明言しないという方針だったかと思うのですが、なぜこのタイミングで宣言したのでしょうか。
高橋さん
「すでに前線で激しい戦闘が始まっていて、いろいろな情報や報道が流れてきているので、事後的に宣言するという形をとったんだと思いますね」
──この反転攻勢というのが、ウクライナ情勢で新しい局面へ移る証拠になるというのは、どういうことなのでしょうか。
高橋さん
「この反転攻勢が成功するかしないかが、かなり来年以降の戦況にかかわってきます。つまり、これが成功すれば、ある程度、来年以降のウクライナの戦いの足がかりになるので、今年の攻勢に成功すると、うまくいけば今から2~3年で終結に導ける可能性が出てきます。一方で、この反転攻勢に失敗するようなことがあると、なかなか戦線が大きく動かずに、そのまま10年ぐらい続くような長期戦になっていく可能性というのが出てくるということですね」
──ここからどう動いていくかが、今後を左右することになると?
高橋さん
「はい」
──ここからの反転攻勢というのは、ウクライナは具体的にどういった方向性にあるんでしょうか。
高橋さん
「現状、ロシアが占領している地域がドンバス地方からクリミア半島まで、東側の三日月状の地域を占領しているんですけれども、ウクライナの目的は、これをどこかで分断すると。どこかで分断して、ロシア側を2つに分けるというのが今回の目的ですね」
──それには、どういった意味があるんですか?
高橋さん
「そうすることによってロシア側はその後、例えばクリミア半島周辺と、ドンバス地方周辺のこの2つに自分たちの軍隊を分けなければいけなくなる。そのときに5対5に分けるのか、どちらかを重視するのかは分かりませんが、まずその判断をしなきゃいけない。で、ウクライナとしてはそのうちの弱い方、あるいは攻めやすい方を狙って、次の年の攻撃をかけることができるようになるということですね」
──なるほど。ロシア側を分断できるかどうかが一つ、成功か失敗かの目安となる。しかし、もしこれが分断できて成功した場合でも、なぜ2~3年で決着がつきそうと言えるのでしょうか?
高橋さん
「恐らくまず今年の段階で、この今回の攻勢の後、第2回の攻勢をかける力は残らないんです。ですから、まず1回分断した後で、来年にクリミア半島なのか、ドンバス地方なのか、弱い方に攻撃をかけると。それで奪回に成功すれば、その次の年に今度はクリミア半島、あるいはドンバス地方の奪回、残した方の奪回を試みるという形で。ステップ・バイ・ステップで進んでいって、占領地を奪い返すという流れになるのではないかと思いますね」
──しかし、ウクライナが全てのエリアを奪い返したとして、それが戦争の終結につながりますか?
高橋さん
「まず、それが前提だということですね。ウクライナとしては現状の状況では停戦を受け入れられないわけですよ。つまり占領されていますし、人が住んでいますから。単なる土地をやりとりするだけではなくて、人のやりとりをしなければいけない。人をロシアに譲り渡すということになるので、それはできない相談なんですよね」
──ウクライナ側にとっての停戦の条件が最低限整うということになるんですね。
高橋さん
「そうですね。で、片方の停戦の条件が整うことがまず前提ですから、その上で、その他の条件が議論されていくということではないかと思いますね」
──ただ一方で、反転攻勢が失敗した場合、先ほど「10年」というちょっとショッキングな数字がでましたけれども、これはどういうことなんでしょうか。
高橋さん
「つまり、今回の反転攻勢が失敗した段階で、ウクライナとして来年以降にまたパンチ力のある反攻を仕掛けられるかどうか、かなり疑問になってくるということがあります。そうなっていくと、今のこの境界線を境に、ずっと小競り合いのような戦いが続いていくだろうと。で、お互い決め手を欠くままに長期にわたって戦いが続くという形ではないかと思いますね」
──反攻はまだ始まったばかりかと思いますけれども、現時点で高橋さんからご覧になって、反転攻勢というのは今うまくいっていそうなんでしょうか。
高橋さん
「まだ、本格的な戦闘が始まって数日なので、ちょっと評価はできない部分はあります。例えば、一番本命と言われているのが、メリトポリという街を狙った攻勢ですが、ここはロシア側の守りも堅く、ウクライナ側が相当損害を出しているという報道があります。一方、マリウポリという街があるんですが、こちらを狙った攻勢はある程度進めているということで、お互い一進一退というか、情勢としてはまだ判断はできない。ただ、激しい戦いが行われていることだけは確かです」
──このタイミングになった理由というのは何でしょうか?
高橋さん
「1つには1月下旬に西側の戦車の供与が決まった。その後、訓練がまとまった形で終わったのが4月の末であったということです。もう1つは、4月が大雨だったそうで、地面が固まって戦えるようになってきたのが5月の下旬以降であったと。あとは、月齢なんかで見たときに、6月の4日が満月であったであるとか、そういった要素、いろいろな天候とか気候を見て、タイミングが決まったように感じます」
──ただ、こういった状況下で起きたのがダムの決壊でした。東京23区に匹敵する広さが水没したとも伝えられています。高橋さん、これは攻勢への影響はどうなるでしょうか。
高橋さん
「ウクライナの反転攻勢として予想されていたルートの中に、このダムがあるドニプロ川を渡るというものが含まれていました。実際に準備していたかどうかは分かりませんが、ダムを切って洪水になったことによって、そこをウクライナは今は渡れない。よってロシア軍としては、この川を守ることは今は考えずに、ザポリージャ州北部のウクライナの攻勢に対処すればいいという状況になった。その意味では、短期的にはロシアが有利になっているということは言えます」
──長期的には違うんですか?
高橋さん
「この川を渡る作戦というのは想定されていたので、ロシア側もその対岸に地雷を埋めたり、塹壕(ざんごう)を掘ったりしてたわけですが、その辺の防御陣地が全部いま洪水で流されちゃっているわけですね。なので、この水がしばらくして引いた場合には、今度はロシア側の守りが薄い状態で、ウクライナは川を渡る作戦ができる。ですから中期的に見ると、ウクライナにとっても逆に有利になる展開は考えられます」
──そんな中、プーチン大統領は9日、『この数日間、ウクライナ軍との激しい戦闘があったが、ウクライナ軍の作戦は失敗した』と強調しました。その上でロシア軍について、『現代的な兵器が足りていない』と、大統領自ら兵器不足を認める異例の発言をしました。一方で、隣国ベラルーシへのロシアの核兵器の配備について、来月7日から8日に核施設の建設が終了するとしています。高橋さん、これはどう解釈されますか?
高橋さん
「まず第1に、核兵器の不安を常に与え続けると。そうすることでウクライナを不安にし、米欧の支援を細らせるということですね。もう1つは、今、前線での激しい戦闘の中で、ウクライナ軍の前進を阻止できている局面もありますから、その部分を強調しているということだと思います」
──ありがとうございました。
(*6月11日放送『真相報道バンキシャ!』より)