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日韓交流セミナーで日本人女性を勧誘 韓国新興宗教“新天地”が背後に…K-POP人気も利用

2022年10月15日 10:00
日韓交流セミナーで日本人女性を勧誘 韓国新興宗教“新天地”が背後に…K-POP人気も利用

韓国発祥のある新興宗教団体が、最近、日本人を相手に勧誘活動を活発化させている実態が日本テレビの取材で明らかになった。K-POP人気や韓国語学習者が増えている状況を利用して、日韓交流セミナーや語学学習をうたい文句に、徐々に宗教へと誘い込む手法。

宗教団体と伏せたままセミナーを行っている主催者の言い分はー?取材で浮かび上がったのは、誰もが陥る可能性がある“新興宗教”のリスクだった。

■謎のオンライン・セミナー『花より日韓』 日韓交流のはずが“宗教的に”

今年8月下旬、ソウルに駐在する私のもとにある情報が寄せられた。内容は、「日韓の交流セミナーにオンラインで参加したところ、宗教的な内容だった」というものだ。一体、どんな団体が何の目的で行っているのか?実際に途中までセミナーに参加した複数の日本人女性を探し、聞き取り取材を始めた。

関東に住むミクさんは今年4月、韓国人と交流するアプリを通して、ある韓国人と知り合った。仲良くなると「花より日韓」という団体が主催する日韓交流セミナーに誘われ、参加することに。

○セミナー参加者 ミクさん
「初回、3~4回くらいは文化や言葉を教えてくれたんですけど、いきなり聖書の話になって、そこからはずっと聖書ですね」
「1回でも参加が欠けると、本当に、もう毎日のように催促のLINEが来るの…。やめようと思ったのは、もう強制感がすごいから。」

宗教の話が出たことで不審に思い、やめようとしたものの、執拗なひきとめもあったという。

同じく交流アプリを通して、このセミナーに参加したモリさんは、セミナーの動画の数々を記録していた。参加者は100人以上いて、その多くは日本人の女性だったという。

中心的な講師は「花」と名乗る韓国人だった。「花」は数十年間、日本に住んでいて、日本語が堪能だ。セミナーの動画を見ると、時には笑いも交えながら、宗教的な内容を語っていく。

○セミナー講師 花
「この世の中は誰が支配しているんですか?」
(参加者:「竜、悪魔」)
「その通りです。竜、悪魔が全世界を支配して、人間は生まれたら死に向かっていますね」

モリさんは仲良くなった別の参加者を気遣い、40回ほど参加。しかし、途中で別の参加者が“ある新興宗教団体”との関わりを指摘し、講師の「花」が激高するのを見て、疑念を深めたという。

○セミナー参加者 モリさん
「(参加者の)どなたかが“新天地”というのに気づいて、詐欺とか、騙したというふうに訴えた」

■浮上した新興宗教団体“新天地”との関係 元幹部「典型的な“新天地”の教え」

“新天地(しんてんち)”その正式名称は、「新天地イエス教 証しの幕屋聖殿」という韓国の新興宗教団体。拠点はソウルから車で1時間半あまりの京畿道・加平(カピョン)にある。

山道を進んだ先、湖のほとりに大きな白い建物が現れた。“新天地”の教祖が住むとされる施設だ。“新天地”の教祖は、李萬煕(イ・マンヒ)総裁、91歳。今年8月、韓国の最高裁で教団の資金5億円あまりを横領した罪で執行猶予付きの有罪判決が確定。また、“新天地”は別の民事訴訟の判決でも所属と身分を隠して布教をする行為について、「社会的・倫理的に非難を受ける行為」だと不法性が認定されている。

日本人女性を集めたあのセミナーは“新天地”によるものなのか。内情に詳しいキリスト教の牧師、申鉉郁(シン・ヒョンウク)さんのもとを訪ね、取材を進めた。実は、申牧師は2006年まで“新天地”の中で教育を統括する立場だった元幹部だが、教団内のスキャンダルを知り、嫌気がさして脱退。今は、新興宗教から抜け出した元信者の相談や、教育プログラムを行っている。

申牧師に、多くの日本人女性らが参加していたあのセミナーの動画を見てもらった。

○“新天地”元幹部 申鉉郁さん
「“新天地”の李萬煕教祖は天秤が好きなので、天秤に例えて説教します。比喩、秘密、天国などの内容もある。引用する本文だけ見てもすぐ分かります。これは、典型的な“新天地”の教えです」

申牧師は“新天地”が使う独特の言葉や解釈などから、すぐにセミナーが“新天地”のものだと断定した。

牧師は、セミナーでいわゆる“統一教会”を頻繁に取り上げ、批判していることにも注目した。

○“新天地”元幹部 申鉉郁さん
「あらかじめ先手を打つように、“統一教会”や他の“異端宗教”を批判しながら、『私たちは“統一教会”のような“異端宗教”ではありません』と安心させる。韓国語を学びたい人も多く、そのようなことを利用して近づくのです」

申牧師の教会には、新天地の元信者ら約150人が所属。この日の教育プログラムには、娘が8年間“新天地”に入信し、最近、抜け出したばかりという親子が初めて相談に来ていた。

○“新天地”から抜け出した娘
「路上で勧誘されて入りました…伝道(信者獲得)がうまくできず、私に足りないところがあると言われ、心の重荷になりました…」

両親に支えられながら、消え入るような声でやっと答えた娘。信者獲得のノルマに追い詰められていったという。

○父親・娘が元信者
「娘がそこ(新天地)にいると知って、見過ごすことはできないからここに来ました…。誘惑して信じ込ませて、1人の人間に忠誠を尽くすようにさせるのは、正常な宗教ではないです」

“新天地”の実態について申牧師は、「“異端宗教”であり、“カルト集団”に近い。イエス様も信じるが、教祖・李萬煕(イ・マンヒ)も信じてこそ救われると主張するのが核心だ」と語る。献金を強要するなどのトラブルはほとんどないものの、のめり込んだ学生が大学をやめたり、夫婦が離婚したりして、家庭が崩壊するケースが後を絶たないと語気を強めた。

■セミナー主催者「花」を特定 追及すると「私は“新天地人”」

多くの日本人女性が参加したセミナー「花より日韓」。“新天地”の目的は?主催者の「花」とは何者なのか?参加者から得た情報をもとに、「花」を名乗る人物を追うと、名古屋にあるNPO法人に関わりがあることが分かった。

インタビューした参加者から、語学交流アプリやLINEの「花」のアカウントを教えてもらっていたが、いずれもすでに使用されておらず、連絡はできない状態に-。私は、直接接触を試みるため、ソウルから名古屋へ向かった。

場所は、名古屋市内の住宅地の一角だ。その住宅の表札には、調べていたNPO法人と「花」の名字が書かれていた。しばらくして建物から出てきたのは、セミナーで講師をしていたあの「花」と同じ顔の人物。名前を尋ね、本人であることを確認した上で、セミナーをめぐる疑問をぶつけていった。

Q.「花より日韓」というセミナーのことを調べています。
「テレビ(カメラ)つけているんですか!?」

Q.このセミナーは“新天地”ではないのですか?
「それとまた違います!」

Q.何の宗教なんですか?
「これは宗教ではなくて、本当に日韓関係を交流するためのセミナーです」

Q.“新天地”とは関係ないんですか?
「私は“新天地人”ではあるんですけれど、セミナー自体は“新天地”とは関係ないんです」

Q.あれはどういう意図でやっているのですか?信者を増やそうと思っているのではないですか?
「信者を増やしたいということもあるんですけど、その方法ではなくて、日韓交流を通して仲良くしたい」

講師の「花」は、自らが“新天地”の信者であること、信者を増やしたいという思いがあることも認めた。さらに、今回、参加者たちが最も不信感を抱いていた“身分を伏せた勧誘手法”をただした。

Q.どういう団体なのか全く名乗らずにやると、誤解している人がいるんです。
「いや、そんなことはないんです!賛成して集まってきた人たちで、私たちは嘘をついたり、だましたりということはないんです?」

Q.“新天地”だと説明していますか?
「“新天地”ということはないです。けれど『花より日韓』を通じて楽しく付き合っていて…」

主な目的は日韓交流で、だますつもりはなかったと主張し続けた。

■“新天地”が日本を狙うワケ K-POP人気「警戒心が少ない国を…」

では、なぜ“新天地”は、日本など韓国外で布教活動を行っているのか。実際に国外の“新天地”信者を獲得する活動を行っていた20代女性の元信者に話を聞くことができた。

○国外の信者獲得に従事した“新天地”元信者
「私は特伝隊(特別伝道隊)といって、国外にいる人々を伝道する役割をしました。国外にいる人は、韓国よりは比較的“新天地”についてよく知らず、伝道の手口も分からないため、警戒心が少ないです。K-POPなどで韓国に対してのイメージが良く、言語の交流で友達を作ろうとする人も多いので、簡単に接触できました。」

この元信者は、言語学習のための交流アプリなどを使って、韓国に関心がある国外の人たちに無差別に接触。連絡を取り合いながら、最終的には大規模なセミナーへと誘導していたという。

この勧誘手法は、「花より日韓」とまったく同じ。勧誘するとき、“新天地”であることは伏せたままだ。韓国国内では名前が知れ渡り、新たな信者獲得が困難になる中で、国外での勢力拡大を図っているというのだ。日本もそのターゲットの1つだと話す。日本人らを勧誘する際には、K-POPなどを入り口にして近づくこともあり、セミナーの途中、BTSのミュージックビデオが流されることもあったという。

○セミナー参加者 アヤさん
「BTSとかK-POPを利用して近づいていくというのが、すごく悪質だなと思った」

日本人への共通する勧誘手法をまとめるとこうだ。

【“新天地”の日本人への勧誘手法】
①入り口は韓国人と交流する語学交流アプリ
②接触した人物が少人数の集まりに誘い、楽しく交流
③仲良くなったところで 大規模オンライン・セミナーに誘導
④最初はBTSのMVを流してクイズなど
⑤次第に聖書を“独自解釈”する

宗教的な内容へセミナーは、教団名を伏せたまま進行する。また、参加者が共通して語っていたのは、②の少人数の集まりで仲良くなった“トモダチ”への気遣いから、怪しいと思ってもなかなか抜けられないということ。ただ、実際のところ、その“トモダチ”は国外信者を獲得するための要員=「特別伝道隊」である可能性が高い。

■日本テレビの放送をセミナーで上映 「事実と異なる」と釈明

今月10日、私たちは初めてこのセミナーの問題を日本テレビの『news every.』で放送し、警鐘を鳴らした。各方面から反応があり、同じようにセミナーに参加して途中で抜けた方、中にはまだセミナーに参加している女性からの情報も寄せられた。

参加者によると、放送翌日の夜9時から、「花」によるオンライン・セミナーが行われた。「花」は、10日の『news every.』の映像をオンラインで流しながら、放送内容は「事実と異なる」と釈明。また、元幹部の申牧師についても除名処分になった人物で信用ができない、「サタン、悪魔が正体を隠すために、偽りを語っている」などと説明したという。

この女性は、すでに“新天地”だと気づいた上で、参加し続けている。セミナーには当初150人前後の参加者がいたものの、徐々に減少。それでも、50人ほどがまだ参加しているという。私たちの報道がセミナー参加を考え直す機会になるように、今後自らの意思にかかわらず新たにセミナーに加わってしまう人が1人でも減るように、願うばかりだ。

巧妙化する新興宗教の勧誘手口。そのリスクを1人1人が改めて認識する必要がありそうだ。

(NNNソウル支局長 原田敦史)

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