日本に避難から2年 戦争に翻弄される若者たち……ウクライナ留学生 将来の選択と決意『every.16時特集』
ロシアの軍事侵攻から2年半。ウクライナから来た若者たちが日本の大学で学んでいます。戦争が長期化する中で、長引く滞在。日本での就職や進学など、将来の選択を迫られる若者たちの今を取材しました。
茨城県つくば市にある筑波大学。
ウクライナ人学生
「おはようございます」
集まったのはウクライナの学生たち。ロシアの軍事侵攻によりウクライナで学ぶことが難しくなった学生らを、筑波大学は無償で受け入れています。これまでに受け入れた人数は国内の大学で最大規模の42人。
この日、彼らのために開かれたのは、「日本の就職活動」についての講演会。
日本企業で働く シリア出身の男性
「可能な限り多く、(例えば)100社に申し込んでください。このうち1割は面接に進めるかもしれません」
滞在が長期化する中で、ウクライナの学生たちは日本での就職や進学など将来のための選択を迫られているのです。
迫られる選択――。
英語と日本語で交流するサークルに参加していたのは、ウクライナ避難民のステファニーア・パルベッツさん(25)。2022年10月に日本にやってきました。
ステファニーアさん
「あなたはベジタリアンだったね。覚えてるよ、あなたは埼玉からでしょ?」
明るい雰囲気で場を盛り上げるステファニーアさん。
サークル仲間 日本人学生
「(ステファニーアは)すごくコミュニケーション上手で明るくて話し合っていても楽しいなって」
ステファニーアさん
「ありがとう」
半年ほどで終わると思っていた日本生活は、戦争の長期化に伴い、もうすぐ2年に。日本語はいまも勉強中です。
ステファニーアさん
「これが日本語の勉強に使っている本です」
記者
「日本語は難しいですか?」
ステファニーアさん
「はい、めっちゃ難しい」
日本への関心はあったものの、留学までは考えていなかったというステファニーアさんですが…
ステファニーアさん
「戦争が始まった頃、すごく怖かったんです。戦争は『死』をもたらすから」
いつ命を落とすか分からない日々の中、「やりたいことはすぐ挑戦すべき」と価値観が変わったといいます。
ステファニーアさん
「(日本は)とても遠いので、来年、来年と先延ばししていました。でも(戦争が起きて)“来年”はないかもと思ったのです」
ステファニーアさんは筑波大学の支援プログラムを終えて、「日本で大学院に進む」という大きな決断をしました。
筑波大学 内藤久裕教授
「(課題の論文を読んで)面白かった?」
ステファニーアさん
「はい。食料支援と内戦(の関係)を考えたことがなかったので…」
研究のテーマに選んだのは国際公共政策。その理由は――
ステファニーアさん
「(いつか)ウクライナに戻り、日本で学んだことをいかしたいです。特に戦争後の復興など日本から学べることはたくさんあります。命をかけている人たちのため、私は倍働き、倍努力すべきなのです」
強い決意の一方で、家族と離れて暮らす寂しさも。首都・キーウに残る家族とはほぼ毎日、連絡をとるといいます。
母 イリナさん
「停電になったけど、その前にスマホの充電はできたよ」
ステファニーアさん
「ちゃんと電気がきているか聞こうと思ってたんだ」
何気ない会話にも戦争の影が。母のイリナさんに、娘が日本にいることについて聞くと…
母・イリナさん
「日本は比較的安全な国ですし、娘の周りには思いやりのある人がたくさんいます。娘がウクライナに残るよりも私は心配しなくてすみます。だから…とても感謝しています。娘がこんな素晴らしい機会を…」
ステファニーアさん
「わかった!もう泣かないで。だって私も泣いちゃうから」
少なくともあと3年、ふるさとを思いながら日本で学ぶことになります。
一方で、進路が決まっていない学生も多くいるといいます。
筑波大学 ウクライナ学生支援チーム 五十嵐 千恵子さん
「受験ですとか就職の活動がどのように進んでいるか、困っていることはないか。確認しながらアドバイスを行っています」
ユリヤ・ホムキナさん(21)※取材時
「ウクライナの大学で日本語を学んでいましたが、在学中に軍事侵攻が始まりました。(侵攻をきっかけに)日本の大学の支援プログラムについて調べて筑波大学を選びました」
帰国の目処がつかないなか、ユリヤさんも「日本での将来」に向けて動き出しています。
ユリヤさん
「失礼します」
この日、行われたのは支援チームとの面談。
筑波大学 ウクライナ学生支援チーム 野村 名可男 准教授
「就職と進学の2つ目的があって、両方準備しているっていうことで、大変だと思うんですけど…」
ウクライナで通っていた大学には戻らず、日本の大学に入り直すことが第一希望です。
一方で、あらゆる可能性に備え就職活動も進めることにしたのです。
ユリヤさんが参加したのは日本での「就活」に向けた、企業面接のレッスン。
面接官役
「それでは最初に1分程度で自己紹介と自己PRを教えてください」
ユリヤさん
「筑波大学の人文・文化学群 人文学類の…」
日本語で受け答えしていますが、終了後には、こんな指摘も…
筑波大学 キャリアコンサルタント 福田 華子さん
「自己PRですが、きょうは計ってみると1分15秒くらいでお話しをされていたので、あまり長すぎない方がいいと思う」
大学の講義に就職活動、そして進学のために必要な留学生向けの試験の勉強と、毎日が慌ただしく過ぎていきます。
ユリヤさん
「ちょっと忙しくなって、ちょっと勉強も大変」
しかし、その合間を縫って続けていることが…
日本語教師
「今日もよろしくお願いします」
参加者
「よろしくお願いします」
それは、日本で“言葉の壁”に苦しむウクライナの人々を助けること。
NPOがウクライナから避難してきた人などのために行っている、無料の日本語レッスン(日本ウクライナ友好協会KRAIANYが実施)。ユリヤさんは週1回、アシスタントとして参加しています。
日本語教師
「『お金をおろしたいんですが』というビデオを見ます」
ユリヤさん
「(ウクライナ語で通訳)いまから『お金をおろしたい』というトピックの動画をみます」
同じふるさとの人々の助けになりたいのです。
ユリヤさん
「皆さんの頑張る気持ちをみて、私のやりがいも高まっています」
6月、進学に向けた試験当日。試験を終えたユリヤさんは…
ユリヤさん
「頑張りました。私が思ったより難しかった」
進学か就職か――。
その結論がでるのはまだ先です。
終わりの見えない戦争に人生を翻弄されるウクライナの若者たち。異国の地で未来への模索が続いています。
(8月19日『news every.』16時特集より)