【解説】ナワリヌイ氏「獄死」の真相は? “暗殺”の可能性も… 遺体引き渡しも“拒否”
ロシアの元・野党の指導者で、プーチン政権批判の急先鋒として知られた、ナワリヌイ氏。去年12月に北極圏の刑務所に収監されましたが、16日に急死が報じられました。その死因についてはさまざまな情報が錯綜し、国際社会からはプーチン政権の責任を指摘する声もあがっています。
ナワリヌイ氏の死亡について、解説します。
ナワリヌイ氏は、ロシアの元・野党の指導者で、プーチン政権批判の急先鋒として知られています。
2020年8月に、移動中の機内で突然、意識不明になりました。関係者によると、飲み水から猛毒の神経剤「ノビチョク」系の痕跡が見つかったということです。
ナワリヌイ氏は経済事件に関与したなどとして、これまでに複数回、有罪判決を受け、去年12月からは、北極圏にある刑務所に収監されていることがわかっていました。
ナワリヌイ氏の死因については、さまざまな情報が錯綜しています。
ロシアの国営メディアは、ナワリヌイ氏は「血栓症」を患っていたと報じています。また、遺族らは、ロシア当局から「突然死症候群」と告げられた、ということです。一方、ロシアの独立メディアは、遺体に「あざ」があったと救急隊が語ったとしていて、死因についてさまざまな臆測をよんでいます。
また、遺体の引き渡しについては、“調査があるとして当局側に拒否された”と遺族らは語っています。
ナワリヌイ氏を含め、ロシアではこれまでも、プーチン政権を批判する人たちが“謎の死”を遂げています。
2006年には、ジャーナリストのポリトコフスカヤ氏や、ロシア情報機関・元スパイのリトビネンコ氏が、2015年には、当時の野党指導者ネムツォフ氏が、何者かに殺害されています。
去年8月には、ロシア軍との関係が悪化していた民間軍事会社「ワグネル」のプリゴジン氏が死亡しました。アメリカメディアは、“プーチン大統領の側近が暗殺を命じた”と報じています。
そのロシアでは、来月、大統領選挙が行われます。
ナワリヌイ氏は、服役中でしたが、支援者らと、プーチン大統領の落選運動を展開していました。
ナワリヌイ氏の死亡について、国際部の富田徹デスクが解説します。
藤井貴彦キャスター
「ナワリヌイ氏の死亡ですが、これは暗殺の可能性もあるのでしょうか」
国際部 富田徹デスク
「可能性としてはある、と言えると思います。
例えば、当局から遺族に伝えられた死因「突然死症候群」ですが、これについてロシアの独立系メディアは「乳幼児突然死症候群」という病名はあるが、「突然死症候群」という病名は存在しない、と疑問を呈しています」
国際部 富田デスク
「また、別のメディアが刑務所の受刑者を取材したとして、死亡前日の15日夜に“不可解な騒動”が発生したと伝えています。そしてまた、遺体に複数のあざがあったと伝えていますが、あざの原因については書かれていませんでした。
いずれにしても、遺族の元にはいまだ遺体が戻されていないわけで、“証拠隠滅”を懸念する声も出ているのです」
藤井キャスター
「そうなると、真相が明らかにされないままになる可能性もあるということでしょうか」
国際部 富田デスク
「あります。というのも、プーチン政権のもとで数々の(過去に起きてきた)暗殺が疑われる事案について、これまで全容が解明された例はほとんど記憶にありません。
では、仮に真相がわからなかったとしても、それでも、プーチン政権はナワリヌイ氏の死に責任をもっているという点、これを欧米各国が指摘しています」
国際部 富田デスク
「たとえば、ナワリヌイ氏はSNSへの投稿で、死亡が伝えられる2日前に、『彼らは私に15日間の懲罰房入りを告げた。2か月足らずで4回目だ』と書いています。ナワリヌイ氏のXによると、彼はこの3日前にも10日間、懲罰房に入っていたといいます」
国際部 富田デスク
「そして、彼が収監されていた北極圏の地域(ヤマロ・ネネツ自治管区)なのですが、最低気温が氷点下30℃を下まわることもあるというんです。非常に過酷な状況に置かれていた、ということは想像できます。
だから、たとえ暗殺かどうかはっきりしなくても、少なくともプーチン政権は彼の死に責任を負っている、という指摘が出ているということです」
藤井キャスター
「暗殺なのか弾圧なのか、結果はわからない状況ではありますが、もし仮にナワリヌイ氏を排除しようとしたとすると、背景には何があるのでしょうか」
国際部 富田デスク
「これは、3月に行われるロシアの大統領選挙で、プーチン大統領の勝利(再選)を完璧にするため、という見方があります。
プーチン大統領の再選は確実視されてはいますが、今回、プーチン陣営が目標に掲げているのが“得票率80%以上”という圧倒的な勝利なんです。そのため、これを揺るがす動きというのは、徹底排除する構えです。
たとえば先日、プーチン大統領やウクライナ侵攻を批判してきた男性が立候補を目指して(選挙管理委員会に)届け出をしましたが、(候補として)認められませんでした。
これも、プーチン氏の勝利を完璧にするための布石だとみられているのです。
ですから、収監中のナワリヌイ氏が、選挙の時にプーチン大統領に“反対票”を呼びかけるような動きをしたとしたら、“これは困る”と考える人たちがいてもおかしくない、ということなのです」