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【追跡取材】"牙ハンター"の違法収集も!?  マンモスの牙から見えた"永久凍土" 融解の危機

2023年8月19日 20:24
【追跡取材】"牙ハンター"の違法収集も!?  マンモスの牙から見えた"永久凍土" 融解の危機

絶滅したマンモスの牙が、ここ数年、大量に見つかるようになりました。その場所は、永久凍土がとけ続けているロシアのシベリアです。そこでは、一攫千金(いっかくせんきん)を狙い、違法な発掘や取引も横行していました。

■中国 象牙の代替品は「マンモスの牙」

かつて、象牙の“密輸大国”とも言われた中国。今、北京の宝飾店には、「象牙の販売を禁じる」と書かれた横断幕が張られていました。

しかし、店内には、象牙のようなものがいくつも売られていました。

実はこれらは、すべてマンモスの牙だといいます。

店員
「ゆっくり見てください」
「これは100万元以上です」

牙まるまる一本、日本円で約2000万円です。密猟を防ぐため、象牙は国際的な取引が原則禁止されましたが、それに代わり、絶滅したマンモスの死骸からとれる牙が高値で取引されているのです。

店員
「これはロシアから仕入れました。とってもきれいでしょ」

近年、ロシアから中国などへのマンモスの牙の輸出は急増。中でもシベリアのサハ共和国で、相次いでマンモスが発掘されているといいます。

■温暖化で解け始める「永久凍土」

NNNのカメラはそのサハ共和国へ向かいました。

取材に訪れた時は夏真っ盛り。半袖の人が目立ちましたが、冬は氷点下50度にもなる“極寒の地”です。

その地盤のほとんどは「永久凍土」。氷河期に土や岩石などが凍ったものです。しかし、それが地球温暖化の影響で解け始め、マンモスの牙が続々と地表に現れているのです。

■極寒の地 「マンモスラッシュ」に沸く

土産物店に行くと、マンモスの牙で作られた商品がずらりと並んでいました。

“極寒の地”サハ共和国はマンモスの出土で、いま「ゴールドラッシュ」ならぬ、「マンモスラッシュ」にわいているのです。

■約1万2000年前に絶滅

約1万2000年前に絶滅したマンモスが展示されている北東連邦大学付属・マンモス博物館。その牙はマイナス18度の場所に保管されていました。

推定年齢およそ80歳。10年前に永久凍土から見つかったという巨大な牙は、淡い乳白色を保っていました。許可を得て、持たせてもらいましたが…

東郷達郎・NNNサハ共和国
「これはかなり重たいです。何キロありますか」

マンモス博物館 ヒョードロフ主任研究員
「18キロです」

    ◇

サハ共和国で見つかったマンモスの牙は、去年1年間でおよそ110トン。その牙が見つかっている場所というのが、エイのような形をした、巨大な「バタガイカの穴」という場所です。取材クルーは、その穴を目指しました。

■直径1キロ 永久凍土がとけた「穴」

「永久凍土」に覆われた大地の上空を飛び、たどり着いたのは、サハ共和国のバタガイ地区。村のシンボルはマンモスです。

許可を得て、森の中にあるというバタガイカの穴へ向かいました。

歩くこと30分。突然、目の前に現れたのが、切り立った崖。この場所がマンモスの牙が見つかっているという「バタガイカの穴」です。

その直径はおよそ1キロで、「永久凍土」が解けてできた穴が、浸食して広がったといいます。

■鳴り続ける「崩れる音」

穴は最も深いところで90メートル。その底へと向かう途中、ガイドからは「ここは崩れているので注意してください」という注意がありました。

穴をおりていくと聞こえてきたのが、「永久凍土」が解け、崩れる音。解け出た水も流れていました。この穴は、いまも毎年数メートル広がっているといいます。

■2人のハンター「散歩しているだけ」

取材中に2人の人物に遭遇しました。手にオノを持ち、穴の底を目指す2人は、“牙ハンター”です。

声をかけてみると、返ってきたのは「こんにちは」という日本語のあいさつと、「散歩しているだけです」という言葉。しかし、これまでに5本の牙を見つけたといいます。

―――何日に1本見つかる
「夏に一生懸命探しても見つからない可能性もある。すぐに見つかることもある」
「これは運だ。宝くじみたいなものだ」

狙うは一攫千金(いっかくせんきん)です。

■後を絶たぬ違法な牙収集

一方で、違法な牙収集は後を絶ちません。サハ共和国科学アカデミー・マンモス研究所に保管されていたのは、没収されたマンモスの牙です。

サハ共和国科学アカデミー プラタポポフ主任研究員
「許可なく不法に牙を集めている人が捕まった時に、牙が没収されて私たちに引き渡されます」

マンモスの牙は、許可を得れば集めることができますが、許されているのは「永久凍土」が解けて、自然に地表に出てきた牙を拾うことだけです。

その牙は誰が買うのか。

プラタポポフ主任研究員
「ほとんどは中国人です。中国に輸出されています」

■永久凍土をとかして発掘も

より深刻な問題も起きています。取材に応じたのは、8年前まで「牙ハンター」だったという人物です。

元“牙ハンター”
「この牙は102キロありました」
「1年目は5本、次の年には3本見つけました」

許可を得て、牙を集めていたといいます。しかし、問題なのは、その収集方法。

元“牙ハンター”
「永久凍土は凍っているので水圧ポンプで流し出すんです」
「そうしてとけた永久凍土の中から、マンモスの牙が現れる」

「永久凍土」をとかして、牙を掘り起こしていたというのです。この行為は、「永久凍土」を守るため、禁じられています。

■人間の手による破壊 どう食い止めるか

サハ共和国に眠っているとされるマンモスの牙は最大50万トン。当局が、それを狙う違法な収集や取引を摘発していますが、いたちごっこだといいます。

地球温暖化で解け続けている「永久凍土」。人間の手による破壊をどう食い止めるかが課題となっています。

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