『パラサイト』四冠 アカデミー賞の進化
世の中で議論を呼んでいる話題について、ゲストに意見をうかがう「opinions」。今回のテーマは「アカデミー賞『パラサイト』四冠!」。CINRA代表の杉浦太一氏に話を聞いた。
アメリカ映画界の最高の栄誉とされるアカデミー賞の授賞式で、ポン・ジュノ監督がてがけた韓国映画「パラサイト 半地下の家族」が作品賞や監督賞など4冠に輝き、前評判を裏付ける形となりました。作品賞については外国語映画では初めての受賞。韓国では「歴史を塗り替えた」などと、喜びや称賛の声があがりました。
ネット上では
「韓国の複雑なまでの格差社会を描いている」
「作品のクオリティーや完成度も高い」
「日本も負けていられない」
などのような意見がありました。この快挙について杉浦さんのご意見をうかがいます。
――まずはフリップをお願いします。
「アカデミー賞の進化」と書きました。
ポン・ジュノ監督の「パラサイト」がアカデミー賞をとったのは、全世界がうれしいことだったのだろうと思います。私もすごくうれしかったです。でも、何よりこれが韓国、アジアの映画であって非英語で作られた映画であった。それがアカデミー賞作品賞をとったというのは歴史的快挙だと思います。
アカデミー賞、オスカーはこれまで、「グリーンブック」とか「ムーンライト」といった、人種差別やLGBTQなどの社会的なメッセージが少しあるような作品がこれまでとってきていたと思います。「パラサイト」も、もちろんそういう映画ですが、「パラサイト」が作品賞をとるというところまで予期していた人ってそんなにいなかったのではないかと思いますね。
それって、やっぱり映画というのはアメリカ中心のものであって、その象徴としてアカデミー賞があるという、何か既成概念みたいなものがあったのではないかなと思います。しかし、アジアの、韓国の監督が作品賞をとられたというのは、本当にアカデミー賞自体がそのある種の権威にとどまって硬直するのではなく、アップデートして、いい映画をどんどん世界に伝えていく、そういう一歩だったのではないかと私は思っています。
――作品についてはどう思われましたか。
作品も本当に素晴らしくて、ポン・ジュノ監督はこれまで「スノーピアサー」や「オクジャ」などいろいろな作品を作られて、社会における格差やシステムに関するある種の告発みたいなことをされてきたと思います。それも素晴らしかったのですが、今回のパラサイトでは富裕層と貧困層という格差社会を強烈に描いていて、富裕層の方では、例えば「多様性っていいよね」とか「エコっていいよね」という流れが最近あると思うのですが、それはあくまで自分たちが守られている安全圏の中で「多様性いいよね」って言っているような、そういう状態自体を「そもそも、それってどうなんだ」ということを突きつけてきたような作品だったなと思います。作品としても本当に素晴らしいものを見させていただいたなと思っています。
――なるほど。作品とアカデミー賞の両方が進化していっているのですね。素晴らしい関係性になっていますね。
Twitterもわーっと話題になってすごかったですよね。
――周りの反響がやっぱりすごかったです。
韓国と日本は違う国ですが、やっぱり世界中の中でアジアの国がとったというのはすごくみんなにとって勇気付けられる出来事だったのではないかなと思います。
■杉浦太一氏プロフィル
CINRA代表。アートや音楽などの最新カルチャー情報を発信する『CINRA.NET』や、アジアを中心とした多言語クリエイティブシティガイド「HereNow」など多数の自社メディアを運営。大学在学中にCINRAを立ち上げ、2006年大学卒業と同時に法人化した。起業から15年、ずっとチャレンジしたかったという中高生向けの事業「Inspire High」をスタート。10代に多様な生き方や自分の世界を広げることを目指している。
【the SOCIAL opinionsより】