【解説】北欧2国「NATO加盟申請」表明もトルコ難色 “クルド人組織” 巡る問題が背景に… “2つの要望”とは
ロシアのウクライナ侵攻を受け、フィンランドとスウェーデンが相次いでNATO(=北大西洋条約機構)への加盟を申請すると表明しました。正式加盟となるのか、加盟したらどうなるのか、
「北欧2国なぜNATOに加盟申請?」
「プーチン大統領の反応」
「トルコ反対の理由」
の3つのポイントについて、詳しく解説します。
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ロシアと国境を接するフィンランドは15日に、翌日16日にはその隣国のスウェーデンが、「NATOへの加盟を申請する」と相次いで発表しました。
NATOはアメリカなど欧米30か国が加盟する軍事同盟です。これまで“軍事的中立”の立場を貫いてきたフィンランドが歴史的な決断を下した理由を、マリン首相は「ロシアがウクライナを攻撃したことで、全てが変わった。自国だけでは、ロシアの隣で平和な未来があるとはもう信じられない」と述べました。
また、スウェーデンのアンデション首相も「スウェーデンが加盟すれば自国の安全保障を強化するだけでなく、NATO全体の強化にも貢献できる」としています。
両国は数日中にも加盟の申請を行う見通しです。
こうした動きにロシアのプーチン大統領は、16日に行われたベラルーシやカザフスタンなど旧ソ連の6か国が加盟しロシアが主導する軍事同盟CSTOの首脳会談で、次のように発言しました。
ロシア プーチン大統領
「(フィンランドやスウェーデンが加盟して)NATOが拡大しても、ロシアにとって直接的な脅威ではない。だが、この地域に軍事インフラが拡大すれば、確実に我々はこれに対応する」
また、プーチン大統領は、「NATO拡大はアメリカの外交政策の利益のためだ」とアメリカを批判した上で、フィンランドやスウェーデンに軍事施設などが新たに設置されれば、「ロシアは対応する」と軍事行動もちらつかせました。
一方で、フィンランドやスウェーデンがNATOに加盟するには、現在加盟する30か国全ての同意が必要です。
しかし、トルコのエルドアン大統領は「加盟を認めない」と述べました。フィンランドとスウェーデンは、トルコ説得のために代表団を派遣しようとしていましたが、エルドアン大統領は「わざわざトルコに来なくていい。説得に来たとしても徒労に終わる」と一蹴したのです。
なぜ、トルコはここまで反対するのか、国際安全保障に詳しい慶応義塾大学・鶴岡路人准教授に話をうかがいました。
実はその背景には、トルコがテロ組織に指定しているクルド人組織をとりまく問題があります。トルコのエルドアン政権は、クルド人組織を「国の体制を脅かす危険な武装勢力だ」とみなして、一方的に弾圧し続けてきました。そのような中、スウェーデンやフィンランドが受け入れている難民の中には、クルド人組織のメンバーも含まれていて、「その活動を野放しにしている」とトルコはずっと憤ってきたといいます。
トルコはこの2国に対して「クルド人組織のメンバーの送還」なども求めてきましたが、スウェーデンとフィンランドは人権問題などを背景に応じてきませんでした。
この問題が、NATO加盟への一番大きな壁になっているといいます。ただ、ヨーロッパの一部では、トルコの弾圧に批判的な声も上がっているのも事実で、複雑です。
こうした中、NATO外相会議でもこの問題が協議されました。会議後の会見で、NATOのストルテンベルグ事務総長は「トルコは『加盟阻止を意図しているわけではない』と明言した」と述べました。微妙なところですが、ストルテンベルグ事務総長によると「トルコはいくつかの懸念を示しているが、合意できる点を見いだすことができると確信している」ということです。
そして、フィンランド、スウェーデンの加盟手続きについて「遅れが出ないようにし、これまでよりも早い手続きとなる見通しだ」としました。
ただ、現状の見通しとして、鶴岡准教授は「判断するのは難しい」と話しています。
トルコは、今回の2国のNATO加盟表明をきっかけに、かねてあった「2つの問題」に対処するように求めているといいます。1つは、「クルド人組織につながる人たちの取り締まりを強化する」ことで、もう1つは、「フィンランドとスウェーデンがトルコに科している武器の輸出制限を解除する」ことです。
鶴岡准教授は「武器の輸出制限は話し合いで解決する可能性があるが、クルド人組織とそれに関わる人たちの取り締まりについては、人権問題や主権の問題にも関わるので容易ではない」と話しています。
また、トルコはクルド人の受け入れがより多いスウェーデンの加盟には特に否定的だといいます。
フィンランドは事前にトルコも含めかなり根回しをしていて当初、トルコもフィンランドの加盟については容認してきたとされています。
しかし、スウェーデンはトルコへの根回しが不十分なまま、フィンランドにいわば“乗っかった形”で加盟を表明したため、「すでに水面下での交渉機会を失い、NATO側も焦っているのでは」と鶴岡准教授は話しています。
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トルコは代表団の派遣も断り、「2つの要望」への答えがないままの話し合いは拒否しています。今後、フィンランド、スウェーデンとどのようにコミュニケーションをとっていくのか、まだ分かりません。着地点が見いだせるのか注目です。
(2022年5月17日午後4時半ごろ放送 news every. 「知りたいッ!」より)