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タリバンも父親 家族観は『息子は医者に…』

2022年8月27日 8:00
タリバンも父親 家族観は『息子は医者に…』
8人の子どもがいる“お父さん”

イスラム主義勢力タリバンの復権から1年が経過したアフガニスタン。女性への抑圧が強まる中、タリバンの女性に対する考えとは、どのようなものなのか、現場で働くタリバンの戦闘員に話を聞いた。年頃の娘を持つ38歳の“お父さん”タリバンが語った、その価値観とは。

■検問で働くタリバンも家庭持つ“お父さん”

首都カブールでは、街のあちこちにタリバンによる検問が設置され、ものものしい雰囲気となっていた。そこで働くタリバンの戦闘員に、率直に話が聞けないか、そう考え、いくつかの検問で取材を申し込んだ。上司の許可が必要だ、などど断られ続けた中で、ある検問所の戦闘員たちが、取材に応じてくれた。

ここの責任者だという38歳のタリバン戦闘員は、アフガン南部のヘルマンド州の出身。およそ10年前にタリバンに加わった。「アッラー(神)のため、アメリカと戦い続けてきた」「アメリカを追い出し、いまはとても幸せだ」と語った。

その後、少しずつ踏み込んで、プライベートな質問をしてみた。この戦闘員(38)は、4人の妻がいて、最初の妻と結婚してから15年がたつという。子どもは、4歳から12歳までの息子が4人に、2歳から15歳までの娘が4人と、子だくさんだ。

今の月給は1万2000アフガニ(=約1万8000円)。家族を養うのに十分な金額ではないが、これまで10年間、ほとんど給料をもらわずに戦い続けてきたため、給料は少なくても祖国のために尽くすと話していた。

■家族にあまり会えず…息抜きで学校へ

タリバンの復権後、家族を地元のヘルマンド州から首都カブールに呼び寄せたものの、基本的に寝泊まりは検問所のそば。家族に会えるのは、2か月に1度もらえる5日ほどの休暇の時だけだという。自分の子どもになかなか会えない代わりに、近くの学校に通う児童と話をしたり、遊んでいる様子を見たりすることが、今の息抜きなのだと話していた。

いまアフガニスタンでは、日本の中学・高校にあたる中等教育において、女子生徒の通学がいまだ認められていない。この戦闘員(38)も、本来なら学校に通えるはずの15歳の娘がいるが、学校には通っていない。その点について聞いてみると「息子は学校に行きたがるが、娘は行きたがらない。学校に興味がないんだ」と口にした。

■「息子は医者に…娘は宗教の勉強以外で外出は許さない」

そもそも、この戦闘員(38)の出身地であるヘルマンド州のような地方では、家父長的な価値観が支配的で、女性は家にいるべき、女子に教育は必要ない、という伝統的な考えが主流だという。

「息子たちは学校に通って、いずれ医者かエンジニアになってほしい。娘については、教育を受けたいと考えるならば、コーラン( イスラム教の聖典)を勉強するべきで、それ以外の外出は許さない」

彼の妻がマドラサ(宗教学校)に通っていることから、娘にも同じように宗教だけを学ばせたいのだという。こうした発言の背景の1つに、児童婚の問題もある。アフガンで多数派を占めるパシュトゥン人の間では、女性が、中等教育の年齢、つまり13歳から17歳前後で結婚するケースも多いため、教育は必要ないという考え方につながっているのが現実だ。

「男は、女性が家庭で必要とする、あらゆるものを準備する必要がある」こう語っていた戦闘員(38)。男性は外で仕事をし、女性は家庭を守る、という伝統的で強固な価値観を、この戦闘員とのやりとりを通じて感じ取れた。

■女性の権利制限する命令は「女性守るもの」…勧善懲悪省

こうしたタリバンの価値観に基づき、女性の権利を制限する命令が相次いで出されている。旧タリバン政権下で、宗教警察の役割を担い、女性抑圧の象徴ともされた、勧善懲悪省。これまでに、家族以外の男性の前では、目以外の顔を覆うよう女性に求めたり、女性1人での遠出を禁じる命令などを出している。

勧善懲悪省の報道官は、NNNの取材に対し、こうした命令は、イスラム法に基づいており、「女性を守るもの」だと主張している。ヒジャブと呼ばれる布などで髪や顔を覆うよう求めているのは、女性に対する敬意を表していて「女性は近親者だけに姿を見せるべきであって、誰にでも姿を見せるべきではない」という考えを示した。

こうした命令により、女性に対するハラスメントや犯罪は大きく減ったとも主張した。

■タリバン支配下の女性たち

首都カブールの中心部や市場では、街を行き交う多くの女性たちの姿を目にした。顔を含めた全身を覆うブルカを着用した女性も多くいたが、タリバンの命令に背き、顔を覆うことなく歩いている若い女性の姿も多く見かけた。街だけを見ていると、女性が息を潜めて暮らしている、という様子は感じられなかった。

しかし、さまざまな人から話を聞く中で、タリバンを恐れて外出を控えているといった多くの声や、外出時に少し髪が見えていただけで、タリバンから注意され、暴行を受けそうになったという声も聞かれた。目には見えないが、静かな恐怖が女性たちの間に広がっているように感じられた。

20年前、旧タリバン政権下で教育や就労などを禁じられ、その後、いったんは多くの権利を得たアフガンの女性たち。その権利が次第に奪われつつある中、一度自由を知った女性たちは、未来に希望が持てない日々を強いられている。(平山晃一 NNNカブール)