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緊迫のウクライナ エネルギー攻防戦の行方

2022年2月19日 15:00
緊迫のウクライナ エネルギー攻防戦の行方
2022年2月17日「深層NEWS」より

緊迫するウクライナ情勢はヨーロッパのエネルギー問題にも影を落としています。

脱炭素化、そして厳冬下のヨーロッパの暮らしに欠かせない天然ガスの価格が高騰。ヨーロッパ各国が依存するロシア産の天然ガスを巡る攻防が過熱しています。

ヨーロッパのエネルギー事情の鍵をにぎるロシア。

2月17日放送の深層NEWSでは、日本エネルギー経済研究所研究理事久谷一朗氏と経済評論家の加谷珪一氏をゲストに、ヨーロッパのエネルギー覇権と今後の行方について議論しました。

■ロシアは天然ガスを巡って欧州分断?

右松健太キャスター
「西側諸国がロシアの天然ガスを頼ってきた時代的背景は?」

久谷一朗氏(日本エネルギー経済研究所研究理事)
「旧ソ連圏にあった東側諸国は、経済もエネルギーも非常に密接な関係にありました。当然互いに依存していたというところがあります」

「一方西側は、従来は自分たちで生産するガスで賄えたのですが、それがだんだんかなわなくなったということで、海外から輸入するときに最も近く、大資源国で少し値段が安いということで、ロシアに頼るという構造がだんだんと出来てきたということになります」

右松キャスター
「ガスを送る側と、送られる側という構図が固定化されてきた?」

加谷珪一氏(経済評論家)
「エネルギーは一旦長期契約を結んでしまうと、供給する側もされる側もそこから動けなくなってしまうという状況があります」
「加えて今、脱炭素化がどのくらいのペースで進められるのかという点で天然ガスの供給が非常に重要な鍵になっています」

右松キャスター
「EU(欧州連合)として統一的な動きが取りづらくなる側面も。ロシアは天然ガスを使って分断を狙っている?」

加谷氏
「そうですね。当然、欧州の中でもロシアに依存する国とそうではない国があるので、ここはある種の分断になりますから、ロシアにとって攻めどころでもあります」
「一方でロシアは欧州に天然ガスを買ってもらわないと国家財政が成り立ちませんし、最終的には脱炭素化で天然ガスの需要も減ってくるという中で、欧州との関係をどういうふうに自分たちの力を落とさずに関係性を維持するかという政治的な狙いというのもありますから、ロシアもあまりにも強く出すぎると逆に損をするという立場です」

久谷氏
「一度供給を止めてしまうと、欧州内にいるロシアのガスが欲しいといった人たちに、これはもう駄目だというふうになって『脱ロシア』がますます加速するというリスクの方が非常に高いと思います」
「ロシアはそれを望んでいませんので、そこまでの手段に踏み切るかというと可能性は小さいんではないかなという気はしています」

■ロシアのパイプラインを巡るドイツの憂鬱

右松キャスター
「ヨーロッパの天然ガスの輸送経路。(青線の)"ノルドストリーム"と"ノルドストリーム2"。なぜバルト海を通って直接ドイツへパイプラインが?」

加谷氏
「ロシアから見ると、ウクライナを通さずに欧州に対して天然ガスを供給できるということになりますから、ロシアにとってメリットがあります」
「欧州側にしてもウクライナとロシアとの関係が非常に微妙ですから、その影響を受けずにロシアから直接輸入できるというメリットにもなります」

右松キャスター
「ドイツの立場で考えると"ノルドストリーム2"が許可されずパイプラインを通じてガスが供給されないとドイツにとっては相当厳しい?」

加谷氏
「すでに"ノルドストリーム"が稼動して天然ガスの供給が行われてるわけですから、実務上どれほど大きな損失があるかというと、市場関係者はそんなに大変なことになるとは見てないようなんですが、政治的な影響の方が大きいのではないでしょうか」

右松キャスター
「とはいえドイツはガスのおよそ5割をロシアから輸入。ドイツがロシアに強く出られないという構図はなかなか変わらない?」

久谷氏
「そうですね、産業界には安く安定したガスが欲しいというニーズがあります。ロシアのガスはそれを満たす一つのツールですから、完全に排除することはなかなか経済的な側面から、したくないという思いもあるのだと思います」

■エネルギー攻防に中国の影?

加谷氏
「ロシアは今回、アメリカからの経済制裁を何とか回避したいというのがあるので、中国との接触も深め、(販売先の)補助線として中国問題も入ってくるんですね」

右松キャスター
「ロシアがもし欧州にガスを売れないとなった場合、中国に売るシフトを?」

加谷氏
「今、中国もやはり脱炭素シフトで苦しんでいて、天然ガスを大量に欲しいというフェーズでもあるのです。中国からするとロシアの天然ガスが欲しいですし、そこでロシアは中国に恩を売っておきたいと」
「それから石油や天然ガスの決済は基本的にドルが中心ですが、ロシアとしては今回のウクライナ侵攻の問題をきっかけに、ドル覇権から離脱したいという意向を持っているはずです」
「中国は人民元の決済を広げたいと思ってますので、ここでは中露の思惑は非常に一致するわけですよね。ですのでちょっと見えない形ですけれども、中国は何がしかの役割を果たしていると思っていいのではないでしょうか」

■ウクライナ危機はエネルギー戦略の転換点

飯塚恵子 読売新聞編集委員
「EUの中でも、ドイツとは全く別の道を選ぶ決断をしたのがフランスです。マクロン大統領は先週10日、国内に次世代型の原子力発電所6基を新たに建造すると発表しました。実に約20年ぶりの新規着工で、今でも発電量の約7割を原発に依存していますが、それ以上を目指すということです」
「エネルギーの脱炭素化が最大の狙いですが、仏メディアなどによると、マクロン氏は欧州がロシア産の天然ガスへの過度の依存によって、プーチン氏に政治的に足元を見られていることを強く懸念しているという報道もあります」
「原発の増設は安全性をめぐる重要な議論が別途ありますが、フランスは当面、政治的な側面のエネルギー安全保障を優先させたということです」
「EU全体がロシアにすがるという構図は避けられ、場合によってフランスは隣国のドイツにエネルギーを融通することも可能なのですね」

右松キャスター
「今後欧州を中心にエネルギーの多様化を図るなかで移行期間がある。その中でどのエネルギーを使うかといった議論が加熱してくる?」

久谷氏
「究極的には脱炭素エネルギーとして再エネや原子力というものが中心になっていくのかもしれませんが、その途中の段階できちんと将来設計していかないと、今回のような危機がまたどこかで起こってくるということになるんだと思います」

右松キャスター
「今回のウクライナ危機が一つの副産物を生むとするならば、どこからそのエネルギーを調達するのか、どのエネルギー源を確保していくのかという国家戦略が問われてくる?」

加谷氏
「エネルギーは国家覇権そのものと言い換えることができますので、ロシアと欧州との対立軸とも見ることができますが、この欧州の中で、EUの盟主としてフランスなのかドイツなのかと」
「エネルギー政策とセットになっていて、今まではドイツが再生可能エネでリードしてるような印象だったわけですが、もしかするとフランスが原子力を少し前面に出すことで、これからのフェーズは欧州のEUの中での主導権をフランスが取りたいというようなゲーム
にも見えます」